【26】行きたい場所(★)



 ――しかし。
 結界の再構築の時期が早まったのであれば、通例ならば、その前に、一定の休暇を与えられるのが、結界の再構築に関わる者の常であるとは、昼威も知っていた。

 御遼神社の石段を登りながら、それを思い出して侑眞を見ると、下ろしたままで、手を握られる。その感覚に、昼威はドキリとした。

「――俺には、お休みがもらえたよ。多分、先生にも、ね」
「……」
「どこか、行きたい所は?」
「そんなもの、決まっているだろう」

 答えながら、昼威は視線を逸らした。すると、侑眞が小さく息を飲む。

「え。ごめん。俺、先生の行きたい所が、初めて心当たりがない」
「そうか。お前もまだまだ甘いな」
「ちょっと待って、真面目にどこ? 新潟と長野のどちらのスキー場がいいか、聞こうと思って、パンフを画面に保存してた段階なんだけど」

 焦るような侑眞の声を聞いて、昼威は少し長めに瞬きをしてから、微笑した。
 ――答えは、簡単だ。侑眞の隣だ。しかし、教えてやるつもりは無い。

「今夜のつまみは?」
「え? どこなの!?」
「白子が食べたい」
「そんな気がしてポン酢」
「よくやった」
「待って、先生。気になるんだけど」
「しかし今日は寒いな」

 そんなやりとりをしながら石段を登り終え、二人は、真っ直ぐに、侑眞専用の離れの庵に向かった。そこで茶色い手袋とマフラーをはずし、昼威がコートを脱ぐ。受け取った侑眞は手際良くそれをハンガーに吊るす。

「ねぇ、先生? どこなの?」
「さぁな」
「本当は考えていないと見た」
「残念だ」
「くっ……俺が先生の考えを見抜けないとか……!」

 侑眞はそう言って舌打ちしてから――後ろから、昼威を抱きしめた。そして、昼威の肩に顎を乗せる。

「俺も、先生が見たい景色が見たい」
「やめろ」
「やだ」
「違う。先生と呼ぶのをやめろ」
「え?」
「昔は、ちゃんと俺を名前で呼んでただろう?」
「……昔は、昼威先輩だったね」
「ああ」
「……昼威さん」
「うん。それで良――」
「だめ」

 頷きかけた昼威を、強引に侑眞が反転させる。そして腰に手を添え、詰め寄った。

「そんな風に可愛い事言うと、ダメです」
「な」
「俺、結構我慢してるんだよ?」
「は?」
「どれだけ俺が好きなのか、わかってないよね、本当」

 そのまま、奪うように侑眞が唇を重ねる。薄く開いた唇から、侑眞の舌を口腔に受け入れて、昼威は仰け反った。歯列の裏をなぞられ、舌を追い詰められる。

「ぁ……は」
「それで? 昼威さんは、どこに行きたいの?」
「っ、ァ」

 シャツのボタンを外しながら、侑眞が昼威の首筋を強く吸う。その感触に、ゾクリと震えて、昼威は目をきつく閉じた。

「教えて?」
「ぁ……っぅ、あ」

 侑眞が昼威の片手首をとって、壁に押し付ける。後ろに下がれなくなり、逃れる手段を失った昼威の唇を、それから再び塞いだ。そうしながら、左手では、昼威の胸の突起を嬲る。そうされた昼威は、必死で息継ぎをしようとした唇を――貪られているものだから、呼吸が苦しくなる。

「ま、待て」
「待てない。俺は、犬じゃないから、そういう命令は聞けません」
「あ!!」

 口を一度離してから、昼威の首筋を舐め、その後、侑眞が優しく昼威の乳首を噛む。ゾクゾクと快楽を背筋が駆け抜けて、昼威はギュッと目を閉じた。その表情に気をよくして、侑眞が舌先をちろちろと動かす。

「それで、先生は、何処に行きたいの?」

 改めて問われたが、今更、『侑眞の隣だ』なんて、恥ずかしくて言えなくて、昼威は唇を引き結ぶ。すると、虐めるように、侑眞がさらに昼威の乳頭を激しく吸った。

「ああっ!」
「教えて?」
「や、やめ……ん、ぅ……ッ」
「反応してる」

 それから昼威の陰茎に、布の上から触れて、優しく侑眞が笑った。目を伏せて震えながら、昼威が言う。

「早く」
「――ここで誘うって卑怯だよ」

 甘い昼威の声に、侑眞はこらえきれなくなり、畳の上に昼威を押し倒した。



「あ、ああ……っ、うあ、ハ」

 侑眞が挿入すると、昼威が畳に爪を立てる。しかし掴めなかったため、手の指先が畳の上で震えていた。うつぶせになっている昼威の背に体重をかけ、耳の後ろを侑眞が舐める。

「あ、あ」
「可愛い」
「やめ、あ、ああっ……うああああ」

 そのまま後ろから、侑眞が激しく突き上げると、猫のような姿勢で、昼威がむせび泣く。感じる場所をダイレクトに刺激され、昼威の体が悲鳴を上げる。

「あ、あ、あああっ、あ、ああ、や、やめ、あ、あ、ああ!!」

 高く声を上げながら、昼威がボロボロと涙をこぼす。それに気をよくしたように、侑眞が動きを早めると、昼威は何度も髪を揺らした。強い快楽を刻み込まれ、ただ涙するしかない。

「やぁああ」

 出そうだと思った時、侑眞に根元を手でせき止められる。

「まだ、だめ」
「あ、ああああああ!」

 その状態で前立腺を激しく突かれて、昼威は号泣した。気持ちが良すぎて、わけがわからなくなる。

「何処に行きたいのか、教えて」
「あ、ああっ、うあ、あ、あ、あああ、待ってくれ、やめ、だめだ、ああああ!」
「教えて」
「あ、ああっ、ン、あ、ア!!」

 感じる場所ばかり貫かれ、昼威の思考が真っ白に染まっていく。

「いやああああ!」

 そのまま、出していないというのに絶頂に襲われて、昼威は泣き叫んだ。ずっと達しているような感覚が響いていく。そのまま快楽のあまり、昼威は気を失った。

「……意地悪しすぎたかな」

 寝入ってしまった昼威を腕に抱き直しながら、侑眞が呟いた。

「……何処に行きたいんだろう」

 まさか、自分の隣だとは考えもしないまま、優しく腕に抱いた昼威の額に、侑眞は口付ける。そんな、初雪の夜だった。