【4】純潔の喪失(★)
――夜更け。
縲は顎を持ち上げられて目を覚ました。そこには、夏瑪のかんばせがある。
最初、何が起こっているのか分からないままで、縲はその口づけを受け入れた。
唾液と共に快楽を口腔へと流し込まれた瞬間、縲はボロボロと子供のように泣いた。
「もう、もうやめてくれ」
「何故? 君は私の望みをかなえていないのだから、私が君の希望を叶える理由はない」
霧となって庵に侵入した夏瑪は、正面から縲を、そのまま押し倒す。
「熱い、ヤァあ」
乳首を強く吸われて、右胸から快楽が入り込んだ瞬間、頭をふって縲は号泣した。
快楽が強すぎて、正気ではいられない。
夏瑪は顔を上げると、右手の指を二本口へと含み、それから縲の後孔へと突き立てる。既にドロドロに蕩け切っていた秘部は、すんなりと夏瑪の指を受け入れた。
「あ」
そこから夏瑪に快楽を注がれた瞬間、縲は息を詰める。
「果てるといい」
「あああああああああああああああああああああ」
すると中だけで絶頂に達し、望んでいた快楽がいきなり与えられ、縲は混乱した。
「うすうす理解はしているのだろう? 縲さん、君は見捨てられた」
「……、……ひっ」
「もう私にすがる以外のすべなんて、残されていないのだよ。わかるかね?」
「やだやだ、足りない、ああああ」
「欲しいかね? 言ってごらん? 希望を、『全て』」
「あ、ハ……うう……」
貫かれたいという欲望で、全身が染まっている。意識も、肉体も、それを求めている。内部が熱くて、気がくるってしまいそうだった。だが、強い洗脳と暗示の影響で、いくら夏瑪に命令されても、言葉にならない。もう、どうしようもなかった。
「あ、あ助けて……助けて……」
「君にとっての救済は、私に抱かれることだと思うが?」
「いや、いやぁあ」
「そうか。では、今宵は果てるという事を存分にその体へ叩き込むとしようか。すぐに指だけでは足りなくなるだろうが」
「っ、ン――!!」
夏瑪が縲の中をぐちゅりぐちゅりとかき混ぜる。縲はむせび泣きながら、何度も中だけでイかされた。叩き込まれるドライの感覚に、全身が小刻みに震える。その内に、限界が訪れた。洗脳暗示が綻び始め、内側に燻っていた幼いままの縲が顔を出す。
「あ……ああ」
「――随分と愛らしい顔をするのだね。いつもとは違う」
「や、やぁ……お、俺は、俺……本当は、誰も殺したくないのに」
「ん?」
「なんで俺は、こんな事、あ、あ紗依」
「縲さん?」
「いやだ、もういやだ、死んでしまいたい」
か細い声で泣く縲の様子の変化に気づいた夏瑪が、そのきゃしゃな体を抱き起す。そしてあやすように抱きしめて、細く長く吐息した。
「ならば、殺さなければいいじゃないか。明瞭だ」
「でも、そうしたら、俺が殺される」
「ほう。ならば、私が守ってあげようか? 私だけを見ていればいい」
「無理だ。お前は、紗依を――」
「冤罪だというのは、君だってわかっているのじゃないのかね?」
「でもほかに、誰を恨めばいいっていうんだ」
「恨まずとも呼吸は可能ではないかね? はぁ。縲さん、私の目を見ろ。『命令だ』」
「……」
「私は喰い殺す事に定評がある吸血鬼だが、そのように幼くして傷ついていた眼差しを持つものを、蔑ろにするほど冷たくもない。ああ、しかしながら、本当にエクソシストとは、哀れだな」
夏瑪はそう述べると、そっと縲の頬に触れつつ、退屈そうな顔をした。
そして――愉悦まみれの表情を浮かべる。
「しかしそれが、たまらなく愛おしい」
「うああああああああああああああ」
直後、夏目に首筋を強く噛まれ、縲は薔薇の香りに飲み込まれた。
……次に気づくと、後ろから抱きかかえられていて、ザクザクと首を噛まれていた。縲は力の入らないからだで、虚ろな目をする。もう時間感覚も何もない。薔薇の香りと快楽しか意識できない。
「素直になってごらん? 果たして本当に、私を恨んでいるのかね?」
「っ、ぁ、ああ、も、もう……」
「違うだろう?」
「ッ」
夏瑪は暗示をかけずに問いかける。既に限界の中で戻った理性が、縲に囁く。
「本当に君が恨んでいるのは、私ではないようだな」
「そんなの、決まってる」
「玲瓏院の血脈かね?」
「ああ、憎いよ」
「そうか。それが本心か。ならば、私が救ってあげようか?」
「吸血鬼の言葉なんか、誰が――」
「種族ではなく、私という個を見てくれたまえ」
「……あ、っハ」
「私が誰だか、わかるかね?」
「夏瑪夜明」
「そうだ。そして、私は別の名も持つ」
「オロール卿」
「その通り。君が追いかけていた存在だ。だがね、何故? 私を空想する時、君は何を考えていた? 本当に、私の死を望んでいたのかね? 違うはずだ。なぜならば、ただの指示だからだ。そして本来、優しい君は、吸血鬼であっても殺めたくないのだろう?」
「どうして俺の気持ちが分かるの? っ」
「血を介して理解が可能だ」
「本当に、俺を助けてくれるの?」
「約束しよう。ただし交換条件として、私が結界を抜ける許可はもらうがね」
「できるわけが――」
「何故?」
「統真様が、紬と絆になにをするかわからない」
「ん?」
「あの子たちだけは、害されたくない」
吸血し、夏瑪は借金についての記憶を読み取る。そして片目だけを細くした。
「では、彼らも私が守るとしようか。借金も、私が払おう」
「え?」
「縲さん、だから何も心配せずに、私に身を任せればいい。『全て』を」
この時、夏瑪の中から怒りが消失した。同情心はないが、幼く見える縲に対し、何故か胸が疼いていた。縲の金色の髪にキスを落としてから、夏瑪は囁く。
「君を抱きたくなってしまった」
「あ……」
薔薇の香りが強くなる。
「エクソシストの力など、諦めてしまえばいい。そう、私が守ってあげるのだからね」
そう述べて、夏瑪は後ろから縲を押し倒し、バックの姿勢に持ち込む。
「うあああああ、いやあ、あ、あ、だめだ!」
菊門に夏瑪の陰茎の先端があてがわれた時、恐怖で縲がボロボロと泣いた。
だが容赦なく、そのまま夏瑪は陰茎を進める。その瞬間に、縲はところてんで果てた。 しかしぐっと実直に、逸れには構わず、夏瑪が深々と陰茎で貫く。きつい縲の内壁が絡みつくのを押し広げる。
「ほら、根元まで挿いった」
「あ、あ、嘘、あ、熱い、熱い、気持ちい、ヤァ」
「そうだろう? もっともっと、素直になればいい」
「あ、ハ」
「今から君のすべてを染め上げよう」
こうして、長い夜が始まった。