【十五】愛の言葉(★)




「ルツ」

 帰宅してすぐ、玄関の鍵を閉めてから、ユーゼ様が僕を後から抱きしめた。

「危険な仕事をしていたというのは、事実か?」
「……そ、そんなに、危険じゃないです。魔獣が襲ってくる事はよくあるし、複数の場合も王国では多いから」

 僕は腕の感触に浸りながら、俯いた。するとより強くユーゼ様が僕を抱きしめた。

「仕事には口出ししない約束だが、ルツが危険な目に遭っていると思うと気が気では無い」
「僕は、大丈夫です……」
「安心出来ない。本当に怪我は無いんだな?」
「は、はい!」
「では、確認させてくれ」
「え?」
「寝室へ行こう」
「それって……」
「誘っている。嫌か?」

 ……嫌では無かった。だが率直な言葉に、僕は真っ赤になってしまった。その後、僕を腕から解放したユーゼ様は、僕の手を取り、階段へと向かった。真っ直ぐに寝室へと促されて、僕はガチガチに緊張していた。

「ん」

 寝室に入るとすぐ、ユーゼ様が僕の顎に触れ、キスをした。深く口づけられて、僕もまた目を伏せる。舌を絡め取られながら、ユーゼ様の香りに浸っていた。そんな僕の服を、するするとユーゼ様が脱がせていく。

「ユーゼ様……」
「なんだ?」
「……誤差もあるって言っていたけど……ユーゼ様は、勇者候補の子供が欲しくなかったんですか?」

 僕は疑問に思った事を素直に聞く事にした。ユーゼ様自身の事ならば、答えてくれると前に話していた。

「ああ。俺は自分の子が、それも愛しいルツとの間の子供が、危険な目に遭うなどというのは絶対に嫌だ。一目見た時から、惹かれていたから――同時に決意していた。四月の頭が終わるまでは、手を出さないようにしようとな」
「ユーゼ様……」
「本当は、どんなに俺が君を欲しているか分かるか?」
「え?」
「もう四の月も末日だ。十二の月の一日に子供が生まれる事は無いだろう。どういう意味か分かるか?」
「?」
「寝室を同じにしても構わないという事だ。幸い――仕事も落ち着いているしな。尤も、四月頭は実際に仕事もあったが」

 そう言うと、ユーゼ様が、正面からギュッと僕を抱きしめた。僕はユーゼ様の胸板に額を押しつける。頬が熱い。

「じゃあ、ユーゼ様は、僕との間に子供が出来るのが嫌なわけじゃないんですね」
「当たり前だろう。君との子供ならば、可愛がれる自信しかない」

 その後、僕達は寝台へと移動した。一糸まとわぬ姿で、僕は、ユーゼ様を見上げた。ユーゼ様は己の唇をペロリと舐めると、どこか獰猛な顔になった。

「前回は堪えきれなかったが、あれでも待った方なんだ。一目見た時から、欲しかったが、一週間も待ったんだ。俺は良く堪えたと自分を称えたい」
「……一週間くらいじゃ、それこそ誤差なんじゃ……」
「あの場では言わなかったが、根拠が明示されていないスバル卿の予言は、全て魔力予知であり、一つも外れていないんだ」
「?」
「つまり、勇者の子供は、必ず十二月一日に産まれる。そして俺は、ルツには言わなかったが、最初に体を重ねた一週間後から毎日朝食の時に、妊娠検査の魔術を用いていた――が、現在、ルツは妊娠していないし、言わなかったが、前回は避妊した」
「え?」
「俺の子供が欲しいか?」
「……」
「言い換える。俺の子供を産んでくれるか? 今日は避妊をしない。産まれるのは一の月の頭となるだろう、もう、問題は無い。俺は、ルツとの明確なつながりが欲しい。家族の証が欲しい。ルツとの子が欲しい」

 ユーゼ様はそう言うと、僕の額にキスをした。僕は小さく頷いただけだ。
 ――実際、勇者候補の子供と聞いてもピンとこない。だけど、ユーゼ様との愛の結晶だと思うと嬉しいのだ。

 それからユーゼ様は香油をつけた指で、丹念に僕の中を解した。指が、二本、三本と増えた後、それを引き抜いて、ユーゼ様が先端を僕の菊門へとあてがった。

「挿れるぞ」
「っ、ぁ……」

 ゆっくりと固く長い陰茎が挿ってくる。僕の中にどんどん進んできた固いものは、根元まで入りきった所で動きを止めた。慣れない感覚に、僕の内側が収縮する。

「あ、ハ……」
「中が熱い。持って行かれそうになる」
「んン……あ、ァ……」

 ユーゼ様が腰を揺らした。すると感じる場所に刺激が響いてきて、僕は思わず鼻を抜けるような声を上げた。

「もう愛の言葉を囁いて良いんだったな? 話し合いの場は終わった」
「っ、ぁ、ぁ……ァ、ああ!」

 僕の中を優しく突き上げながら、ユーゼ様が言う。

「最初は、香りの出所を探した。そして君を視界に捉えた瞬間、あの会場で、俺は冷や汗をかいた。この世にこれほどまでに綺麗な人間がいたのかと、狼狽えたんだ」
「あ、あ……ッ、く、うあ……ン――!」
「誰よりも、過去に見た誰よりも、綺麗に俺には見えた。惹きつけられた。その直後、無性に気になったんだ。寂しそうな顔をしている事が。ただ一人きりで壁の花になっている事が」
「ぁ……ハ……っ、ッ、ん!」
「黒の魔力色を理由に何人もが、君に話しかけようとしては、その美に躊躇しているのを理解し、俺は口説く言葉を考えるよりも早く、自然と動いていた。どうしようもない衝動に突き動かされたんだ。ルツが、欲しいと。確かにそう思った」
「ひ、ぁ!」
「運命の相手だと確信した。だが、そうでなくとも構わない。何の問題も無かった。俺は君だけが俺のものになれば、それで満足だ。勇者候補の子供? そんなものは、理由付けの一つでしかない。俺は一生ルツを離さない。離す気は無い。だから、ルツも俺のそばにいてくれ」

 僕は必死すぎて、喘ぐ事しか出来ない。話をする余裕がない。ユーゼ様が重点的に僕の感じる場所ばかり突き上げ始めたからだ。

「あ、あ、あ」
「話せば話すほど惹かれていく。まるでルツは子供のように無垢だ。魔獣討伐と魔術以外は何も知らないらしい。だから、なんだってしてやりたくなる」
「ひゃ、ぁ、あああ、あ、ユーゼ様、僕もう――」
「一度出せ」
「ああああああ!」

 僕は感じる場所を存分に突き上げられて、放ってしまった。僕の出した白液が、ユーゼ様の腹部を汚す。思わずシーツにぐったりとして沈むと、頬を手で撫でられた。ユーゼ様の剛直は、僕の中を穿ったままで、動きを止めている。

「愛している」
「……僕も、ユーゼ様の事が好きです」
「それが、ずっと聞きたかったんだ」
「あ……」

 僕の呼吸が落ち着くと、ユーゼ様が再び動き始めた。僕は快楽に涙ぐみながら、ユーゼ様の体に両腕を回す。そんな僕に一度キスしてから、ユーゼ様が激しく動き始めた。僕は、ただ喘ぐしか出来ず、その後は理性を飛ばして、与えられる快楽にただ浸ったのだった。