【十九】無事を確かめた夜(★)


「ンぁ……あ、あ、あ」  僕は後からユーゼ様に貫かれた。薄暗い室内を、燭台に灯る魔術の火だけが照らし出している。僕は膝を折って仰向けになり、ギュッとシーツを握っている。そんな僕の腰を掴み、ゆっくりとユーゼ様が動く。  深く貫かれる度に僕の喉は震え、全身が汗ばんでいく。快楽から、僕の眦からは涙がこぼれ落ちていく。 「ああ……ん……ぅ、ぁ……」  ギリギリまで引き抜かれると体が切なくなり、ゆっくりと根元まで挿入されると体の内側に熱が集っていく。僕の足には、先ほどユーゼ様が放ったものが垂れていく。それがぬちゃりと音を立てる。 「ルツは綺麗だな」 「あ、あ……ぁ……ああ」 「ずっと味わっていたくなる」  ユーゼ様が動きを止めてから、腰を回すように動かした。 「ひ、ぁ!」  涙を零しながら、僕はより強くシーツを握りしめる。 「ゃ……ぁ……あ、あ、ユーゼ様」 「なんだ?」 「もっと……あ、ああ!」 「ここが好いか?」 「そこ、あ、うあ……あああ」  僕が感じる場所をグっと押し上げるようにユーゼ様が突き上げた。僕の体が震える。もっと激しく貫かれたい。だが、恥ずかしくてそれが言い出せない。 「求められて悪い気はしない。どうして欲しい? もっと俺を求めてくれ」 「う、あぁ……も、もっと……動いて、ぇ……――ひ!! あ、あ、あああ!」  僕の言葉に、ユーゼ様の動きが激しくなった。ガンガンと感じる場所を突かれ、そのまま僕は放った。 「ひゃ、あ、待って」 「悪いな、止められない」  しかしユーゼ様の動きは止まらず、すぐに僕の体は再び熱を取り戻す。全身が快楽に絡め取られていく。そうして昂められて、僕の陰茎は再び張り詰めた。僕は髪を振り乱して快楽に耐えようと試みる。 「あ……あア! あっ、ッ、ひ……あああ!」  その時、ユーゼ様が僕の中に放った。これで三度目だ。ユーゼ様は僕の陰茎を優しく擦り、僕の事もまた果てさせた。ぐったりとした僕は、肩で息をする。  一度僕から陰茎を引き抜いてから、ユーゼ様は僕を抱き起こした。そして下から貫く。僕はただ震えるしかできず、この日もいつ理性と意識を飛ばしてしまったのかは、覚えていない。  ――事後。  僕が薄らと目を開くと、隣にユーゼ様が寝転んでいた。仰向けで、羊皮紙を読んでいる。 「目が覚めたか」 「はい……」 「無理をさせてしまったな」  最初は獣のように荒々しく二度、次は焦らすようにバックから、最後は抱きしめられての行為――それらを思い出し、僕は羞恥に駆られた。だが、これほど体力があるのだから、本当にユーゼ様は怪我もなかったのだろうと判断出来たし、繋がれた事が嬉しくもあった。 「ユーゼ様が無事で本当に良かったです」  そう告げると、ユーゼ様が優しく僕の頭を撫でた。そして微笑した。  ラインハルトにそうされた時とは異なり、僕の胸は高鳴った。 「――暫くの間、執務は、主にこの家で行う事として、会議や会談の場合だけ、帝国に行く事にしようと考えている。だから、今までよりも、一緒にいられるぞ」 「そうなんですか……」 「ああ。宰相府のテロは俺を狙ったもののようでもあるからな。宰相府に俺がいれば、再び狙われる可能性がある。リスクは減らしたい」 「どうしてユーゼ様が狙われたんですか?」 「順当に考えるならば、状況的に、勇者候補の子供の親を殺めるためだろうな」  それを聞いて、僕は小さく頷いた。この居住区画が狙われたのと、同じ事なのだろうと考える。僕は、つきっきりで、ユーゼ様をお守りしたくなった。絶対に失いたくない。  その後、次第に空が白み始めた。僕はお風呂に入る事にした。  乳白色のお湯に浸かりながら、どうすればユーゼ様を守る事が出来るだろうかと考える。入浴を終え、リビングへと向かうと、ユーゼ様が朝食を作っていた。  席につき、僕はポタージュを見る。付け合わせはハッシュドポテトだ。メインはロールキャベツだった。美味しそうな香りに、僕は思わず微笑んだ。日常が戻ってきた感覚がする。  ――父から通信があったのは、その時の事だった。僕はユーゼ様を一瞥する。するとユーゼ様は静かに頷き、席を立った。外してくれるらしい。だから僕はその場で、通信を行う事にした。 『起きていたか、ルツ』 「はい」 『実は居住区画の魔獣出現の件で話し合いがもたれてな――ルツにも、暫くの間、居住区画の専任護衛をして欲しいという事になったんだ』 「! ……そうですか」 『同時に、ユーゼ宰相閣下が狙われた事も踏まえ……ルツ。宰相閣下の護衛も頼む』  それを聞いて、僕は自分の願いが叶った事に、目を見開く。 『居住区画の警備と宰相閣下の護衛。やれるな?』 「は、はい!」 『以後、余程の急務でなければ、そちらの邸宅で過ごして良い。王国の魔獣被害に関しては、大規模な襲撃が起き、ルツでなければダメだと判断した時のみ手を貸してもらう事となる』 「分かりました」 『以上だ。ルツも気をつけるように。父として、ルツの安全もまた願っている』  そこで通信は途切れた。すると丁度ユーゼ様が戻ってきた。椅子を引いたユーゼ様を見て、僕は言った。 「ユーゼ様、僕も家にいる事が増えそうです」 「ああ。知っている」 「え?」 「王国に根回しをし、あちらの大規模討伐はラインハルトに肩代わりさせる事としたのは俺だ。義父殿達に手を回したのは俺だという事だ」  僕はその言葉に驚いた。 「居住区画の護衛が必要だと思うのは本心だが――ルツと一緒にいたいという下心があったのは間違いない」 「ユーゼ様……」 「今日からはしっかりと毎夜、同じ寝室で眠ろう」  ユーゼ様がロールキャベツを切り分けながら、冗談めかしてそう言ってから微笑した。僕は嬉しくなって、頬を染めながら小さく頷いたのだった。  この日食べたロールキャベツも本当に美味だった。  このようにして、僕とユーゼ様は日中も一緒に過ごす日が増えた。結果として、昼食と夕食も一緒に食べるようになった。食後はお風呂に入り、寝室では抱き合う。僕達は、毎日何度も何度もキスをした。かけがえのない時間。僕はそれが無性に幸せだった。