【十三】優しい温度と激しい灼熱(★)






 その後、夜の十時くらいまでは、最果ての闇森についてまとめた分析結果から、様々な事を考察していた。今、分かっている事として、星の動きと瘴気の濃度には、関連性がある。しかしその理由は、判明していない。なお、海に吹き荒れる瘴気嵐も星の動きと相関性がある事は、前々から言われていたらしい。

 例えば満月の夜と新月の夜、瘴気の濃さは、変化する。この理屈で行けば、魔王が孵化する日時を、瘴気の濃度がピークに達する時分を、特定する事が出来るかもしれない。

 それらの作業と見解をまとめる作業を終えてから、俺は師匠の部屋の扉を叩いた。すると静かに扉が開いた。出迎えてくれた師匠は、まじまじと俺を見てから小さく頷いた。

「明日の会議、キルト師匠が顔を出してくれると約束してくれたぞ」
「本当か? 有難う、ラインハルト様」

 中へと入りながら礼を告げると、師匠は両頬を持ち上げた。会議の開催時刻は、キルトお祖父様が仮に来なくとも、金星が輝き始めた時と決まっている。天球儀の塔で大切な会議がある時、開始時間はいつもその時刻なのだ。普段のキルトお祖父様であれば、丁度寝ている時間である。

「来いよ、ライゼ」

 師匠はそう言うと、真っ直ぐに寝室へと歩いて行く。少しだけ緊張して、俺は唾液を嚥下した。ゴクリと、俺の喉が動く。体を硬くしながらついていくと、寝室の扉をくぐってすぐに、正面から抱きしめられた。力強い腕の感触に、俺は静かに師匠を見上げた。

 ローブを脱がせられて、ポツポツと首元からボタンを外されていく。決して肌寒くは無い。師匠の部屋には、温度を一定に保つ魔術がかかっている。

「ン」

 昨日も何度も口づけを落とされた首筋を、少し強めに吸われた。ツキンと疼いたその箇所に動揺しそうになる。師匠は片手で俺の腰を抱き寄せ、もう一方の手では俺の顎の下を擽っている。

 師匠の唇が、首筋から下がってくる。そうして様々な所にキスをされた。照れてしまった俺は、きつく目を閉じる。巨大な寝台に押し倒されたのは、その直後の事だった。チラリと見れば、昨日の小瓶が既にベッドサイドに置いてあった。

「師匠、キスしてくれ……」
「してるだろ?」
「唇に」
「――煽るんだな、無自覚のくせに」

 ラインハルト様はそう言うと、俺の顎を持ち上げて、深々とキスをした。俺の閉じていた唇を舌でなぞってから、薄らと口を開けばそちらを貪る。俺は師匠の首に手を回し、その感触に浸った。師匠の右手が、俺の陰茎に降りてくる。そうして優しく撫でられると、俺の体はもうダメだった。すぐに熱を孕む。

 小瓶を手に取り指を濡らした師匠が、俺の中を指で暴き始める。進んできた二本の指が弧を描くように動いた。

「まだ、俺の形を覚えているらしい」
「っ」

 確かに、昨夜より、きつくない気がした。そう――昨夜。昨日覚えさせられた熱を思い出すと、それだけで俺の全身が熱を帯びた。潤滑油が、ぐちゅりと音を立てる。暫く指を抜き差ししてから、師匠がそれを引き抜き、俺の菊門に陰茎をあてがった。そうしてじっくりと陰茎を進める。

「あ、あ、あ」

 一気に余裕が消失した俺が声を震わせると、師匠が俺の腕を引いた。

「今日は上に乗れ」
「え?」
「もっと深く、教えてやるから」

 俺は昨日は、ずっと正面から師匠を見上げていただけだったから、違う体勢と聞いて驚いた。そうしていると師匠が俺を抱き起こし、俺の内部で、師匠の肉茎の角度が変わる。

「あ、ああ……嘘、あ、ああ」

 俺は瞳を潤ませた。下から深々と貫かれる。思わず師匠にしがみつくと、師匠が喉で笑った。チラリとその表情を窺えば、獰猛な顔をしていた。深い。重力に従い、師匠のものが、昨日まで知らなかった位置まで挿ってくる。収縮する俺の内壁が、師匠の形を覚え込ませられるように広げられていく。

「ぁ、ひァ……っ、ぅ、ァん」

 ギュッと目を閉じると、俺の目から透明な雫が零れた。奥深い場所から生まれた快楽が怖い。俺の腰を支えている師匠が、浮かせていた俺の腰を一気に下ろした。

「あ、あア!!」

 より深い場所まで穿たれて、俺は目を見開いた。グリと最奥を抉るように貫かれると、体が震え出す。するとポンポンと俺を落ち着かせるように、師匠が俺の背中を叩いた。俺の反り返った陰茎が、師匠の腹部に擦れ、透明な蜜を垂らし始めている。

「ライゼは、本当に綺麗だな。泣き顔までもが」
「あ、あ……あ、ア……ぁ、っ、う、う、ぅ……ん――ッ」

 俺の体が汗ばみ始め、黒髪が肌へと張り付き始めた。必死で呼吸をしながら、俺は正面にある師匠の顔を見る。師匠の夜のような瞳の方が、ずっと綺麗だと俺は思う。

「こんなに色っぽくなりやがって」
「あ、あ、し、師匠……深い……っ、ッ、んン」

 思わず師匠の背中を、俺はひっかいた。すると、師匠の陰茎がより凶暴になった。硬く長く、俺の内側で存在感を増す。師匠はそんな俺の唇に、触れるだけのキスをした。それから、片手を俺の腰に添えたまま、もう一方の手で俺の脇腹を撫でながら、俺の右の乳頭に吸い付いた。

「っ、ひゃ!」

 乳頭を舌で転がされ、それから強く吸い付かれる。するとその箇所からもジンジンと全身に快楽が滲んでくる。体がドロドロに熔けてしまいそうな感覚がする。もう、ダメだ。俺の体はグズグズに蕩けている。

「ぁ、ァ――っ、ん……ひ、ひぁ」

 師匠は俺を貫いたままで動かず、俺の乳首ばかりを愛撫する。どんどん俺の前は、張り詰めていく。

「や、やぁ……」
「何がだ?」
「あ!」

 師匠は意地悪く笑ってから、俺の乳頭を甘く噛んだ。そしてペロリと最後に舌で舐めると、続いて俺の頬の涙の筋を、舌でなぞった。ゾクゾクとしてきた俺の背筋が震える。ギュッと師匠にしがみついていると、脇腹を撫でていた方の手で、キュッと左乳首を摘ままれた。それから再び右側は唇で挟まれて、舌先でチロチロと舐められる。脳髄までもに快楽が走る。気づけば俺の腰は動いていた。

「どうされたい?」
「や、やだ、昨日みたいに――」

 ――動いて欲しい。明確にその欲求が、俺の中に浮かんできた。涙ぐんだままで師匠を見ると、獰猛な瞳をしたままの師匠は、己の唇をペロリと舐める。そして唾液を流し込むように、再び俺の口にキスをした。唇が離れると、どちらのものか分からない透明な唾液が、俺の唇の端から零れる。

「俺にキスをされたいんだったな? 沢山、してやるよ」
「う……動いて」
「もどかしいか?」
「あ、ああ……あ、あ」

 師匠が意地悪く少しだけ腰を突き上げた。それだけで、俺の全身が蕩けそうになる。

「今日はずっと繋がっているか?」
「い、ぁ……出したい、う……」

 昨日は、何度も、それこそ何度も、無理だと思うほどに出させてくれたのに。

「だったら、自分で動いて見ろ、な?」

 その言葉に真っ赤になりながら、俺は腰を浮かした。だが上に動かしてみても、すぐに力が入らなくなってしまい、体を落とすとより深い場所まで貫かれる形となる。最奥を押し上げられる形になると、頭の中にビリビリとした何かが走る。

「上下じゃなく、前後に動くんだ」
「あ、あ……」

 師匠は俺の腰に手を差せると、誘導するように、俺の体を揺らす。すると師匠の陰茎が、昨日教わった感じる場所を刺激した。ポロポロと泣きながら、今度は俺が師匠の唇に触れるだけのキスをする。怖かったから、師匠の温もりを感じたかったのだ。交わっている場所からこみ上げてくる灼熱とは違う、優しい温度を求めていた。

「まだまだ教え甲斐があるな」
「し、師匠、ぅ……俺、俺、ぁ……」

 もう体に力が入らない。じっとりと汗ばんでいる体が震え出す。
 師匠が荒々しく突き上げ始めたのは、その時の事だった。

「あ、ああ! あ!! うあああ」
「もっと声、聞かせろよ」
「あ、あ、師匠、師匠……好きだ」
「知ってる」

 師匠は俺の体を寝台に押し倒した。再び内部で角度が変わる。そのまま激しく打ち付けられて、気づくと俺は意識を飛ばしていた。