【78】先生の家族


 それから子供達が、一歳半になった頃、先生の御家族に会いにいくことになった。

 緊張しながら到着すると、空港から、多分リムジンみたいな、運転手さんのいる乗り物で、ぽかんとするような豪華な家に連れて行かれた。多分、これは、セレブという名前だ。中に入ると、総勢六十人以上がいた。四分の三くらい先生に似ている気がした。男女問わない。誰が誰だかさっぱり覚えられない! 困惑してとりあえず笑い、私は挨拶しようとした。一拍だけ静寂が降りたからだ。しかしすぐに、そんな暇がなくなった。全員がしゃべりだしたからだ。誰がしゃべっているのかもわからないし、自己紹介もなかった。

「おいおいおいおいおい、犯罪だろ、このロリコン! よくやったな、分かる、分かるぞ、すごい好みのタイプ。この顔もスタイルも、やばい。いるんだなぁ、こんなの。なるほど、結婚しても良いな」
「なんでうちの家族はみんなメンクイなんだろうねぇ」
「スタイルも重要だ。子供二人産んだにしては、細すぎる腰というか骨というか」

 それ以後は、会話が飛び交いすぎて、何が何やら分からなかった。
 その後、先生がご家族の数人と知らない国の言葉で話し、子供を見ていてもらうことになったと私に言った。

 私は、先生とともにソファに座ることになった。ほかに四人の人がいた。女の人が二人と、男の人が二人だ。また七歳くらいだろう男の子と五歳くらいだろう女の子がいて、この二人は、どちらも先生に似ている。大人だと男の人と、女の人の一人が、先生によく似ている。

 似ていない男女二人は、きっと配偶者なのだろう。全員先生の兄弟姉妹に見える外見年齢だ。考えていると、似ていない女の人に聞かれた。

「長旅お疲れ様。まず何か質問はある?」
「あの、先生のお母さんはどの方ですか?」

 尋ねつつ、私は周囲を見渡した。すると直後噴出された。みんなに。

「私よ。よろしくね」
「え!?」
「私は何に見えたの?」
「弟さんかなにかの奥様だと思ってました!」

 爆笑された。

「私が生んだのに私の遺伝子あまり出なかったの」
「あ、でも、若いところは似てますね!」
「じゃあ私は何に見える?」

 すると今度は、よく似た女の人に聞かれた。

「妹さんかお姉さんだと思います! んー、妹さん!」
「正解。双子の妹」
「双子!?」
「こっちが私の旦那の優馬。似ていないからわかると思うけど。そこにいるのが長男長女。よろしくね! 子供は双子じゃないの」
「はい!」

 そして残っていた、お兄さんかなとばかり思っていたお父さんにも挨拶された。
 私も改めて皆様に挨拶をした。
 それからお母さんが再び話しかけてくれた。

「ごめんなさいね、伊澄さん。紫ったら、まるでサイコパスのような冷淡さと上辺を持っているのに常識も無くて」
「えっ」
「あら、外面に騙されちゃった?」
「いえ、え!? 先生に、常識が無い……!? え!?」
「――紫、身に付いたの? 表面上はともかく」
「それが逆で、伊澄は表面上は常識があるんだ。教えると覚えるし。ただし、中身に全くない。誰も教えてないから。ということで、毎日教えてます。なので俺も上達しました」
「あんまり見ないタイプね。そう、表面上はあるのね。日本という国のおかげかしら」
「どうだろうな。中身は、それ以外の点も含めて、わかりやすく母さんが知ってる範囲で言うと、政宗とヴァージニアを足して二で割って、あともう何も足す要素がない他は説明困難な感じで、困難部分は曾祖父さんの方向性に近いけどそのへんに限っては、性格傾向にお祖母ちゃんが入ってると、無理やり言える。IQなんて政宗とぴったり一緒だ」

 するとみんな、生温かい目になった。優馬さんだけが首を傾げている。

「あんまりどころか、新しい……斬新なタイプだったのね」
「ああ。見ていてあきない。ずっと見てる」
「そういうこと。見た目も中身も好みなら、逃したくなくなるし……ち、ちなみに、告白はどちらから? 恋愛積極性は、政宗くんに似たの?」
「残念ながら、完全に曾祖父さんだ。だから俺だ。むしろずーっと俺だ。おそらく今後一生な」

 みんな吹いた。私と優馬さんだけが理解できない。
 優馬さんも、曾祖父さんを知らないのだろうか?
 疑問に思っていると、妹さんが声を出した。

「――日常的にもそういう部分が?」
「かなり頻出する」
「そりゃあ、あきないわね。お兄ちゃん、好きそう。いるんだなぁ、そういう人」
「予想外すぎるという点では、曾祖父さん以上だ。会った回数も過ごしてる期間も、伊澄の方が長いにも関わらず、今でも予想できない」
「え」
「その上、非常に複雑な俺の勝手な直感によると、俺の長男の方は、それの予想規格外レベルだ。だから今、見てもらってる」
「ああ、なるほど……お兄ちゃんの直感、外れたことってあったかしら?」
「あった記憶がない」
「よく結婚に持っていけたわね。感動した」
「だろ? というか、結婚以外じゃ、手に入れておくのは不可能に近いだろ?」
「その通りすぎるけど、どうやって釣ったの? お金か体しか考えられないんだけど」
「ある意味、体だけど、それだけじゃ無理だったな」
「? ――え!? それで、まさか!?」
「そういうことだ」
「子供を作るまでして結婚……ああ、でも、なるほど。他に、無いわね。あら、けど、入籍して一年後に生まれてるんじゃないの?」
「恋心自覚二日後告白して伝わらず、その日に中生プロポーズ伝わらずしかたがないので曖昧な感じで嫌じゃないところだけ確認して全部進めてさらに三日後入籍届。向こうの父親がアレだからバレてるけど、他には政宗と日本で出来た友人一人しかしらない事実だ。出会いはその約五年前。いつ好きになったのか今でも分からない、俺の大学の教え子」
「最初ゆっくりだったというのもあるけど、ハードすぎるわね……ま、まぁ曾祖父さん系なら、仕方ないわね。その流れにある意味納得。今はどうなの? 少しは変化があったの?」
「子供に対しても俺に対しても興味の度合いが同じに見えるから、ということは、少し俺への興味が上がったと思いたい。願望かも知れない」
「子供一直線にならなくて良かったじゃない! 大進歩! 大変化!」
「賭けだった。まだ、尋常じゃなく子供欲しいという年頃の手前で踏み切ったのが良かったと思ってる。そこも計算した。あと少しでも遅かったら危なかったな」
「ご本人の前で堂々と話せるレベルなのね」
「そういうことだ。逆に言うと、俺の性格の悪さに気づいてない。一緒にいてくれる。ただ、気づいてくれる日すら来ない可能性が高い。しかも結婚する前は、たまぁに優しくすると、凹まれてた。真面目にあの世逝きを実行するくらいに。祖母そっくりな方向性」
「わぁ……奇跡の取り合わね。新しい」
「だろ?」
「とすると、死にたいのに自覚ないってこと?」
「簡単に言えば。体も心も繊細すぎるの」
「なるほどねぇ。ちなみに娘さんへの直感は?」
「多分、俺よりは低いだろうけど、プライド高そう。せめて外面は良いといいんだけどな、予想だと、外面も嫌味っぽそう。意地悪な感じの女王様になる気がする。外見的に屈服させたがりの男が寄ってきそうで嫌。しかも長男は盾になれっこない。いやまぁ、ミラクル起こせるタイプだし、根はおそらく真面目だから、頑張ろうとはする可能性もあるだろうけどな」
「じゃあ旦那さんは、S系統かもねぇ……」
「多分俺のほうが意地悪だろうけど、おそらくなぁ」
「お嫁さんは……来るのかしら? ただでさえ結婚願望0だったお兄ちゃんの子なのに」
「早々にどこかの誰かにデキ婚に持ち込まれるか、非常に晩婚もしくは独身しか思いつかない。他は見合い」

 紫さんと妹さんがそんな話をしているときに、扉が開いた。
 勢いよく入ってきた一人が叫んだ。この人も紫さんに似ていた。

「聞いてすごい、得点。二人とも!」

 すると周囲がざわついた。

「だと思ってた」

 ポツリと紫さんが言うと、お父さんが驚いたような顔をしていた。

「さすが紫の子供だな!」
「いや、俺も確かに高得点だけど、彼女の血筋でもある。こちらの伊澄のお父上は、日本人の被験者Aさんなんだよ」
「えっ、雛辻くんか?」