スイス天才教育総合機関【2】



 しかし笑顔を崩さず、差し出された手に指を載せ、微笑んだ。

「政宗春香です。よろしくお願いします」

 すると隣で声がした。

「政宗? それって議員の、政宗良治氏の?」

 皇太子殿下である。雅陽宮柾仁殿下だ。

「ええ。私の父は政宗良治です」
「そうなんだ。じゃあ僕と行き先は同じだね」
「――ご存知だったんですか?」
「うん、まぁね。そちらのお二人も?」
「そうです。こちらは、雛辻礼純さん。そしてこちらが――」

 紹介するのも奇妙だと思い、私は紺と名乗った青年を見た。

「初めまして。俺は、鏡花院紺と言います。一緒に行くとわかっていたら、もっと早く声をかけたんだけどな」
「僕もです。どちらの国の方ですか? 日本の方ではないとばかり」
「――今の国籍はアメリカですが、出身は日本ですよ。礼純の叔母が、俺の母で、父が日系アメリカ人なんですが、今二人は、他の兄弟と一緒に多分ドイツにいます。よくわかりましたね。日本人かと聞かれてばかりなんですが、やはり、日本の方から見ると違いますか?」
「どうでしょうね。あ、良かったら気軽に話してもらえると」
「こちらこそ。紺って呼んでくれ」
「じゃあ僕のことは柾仁と」

 なるほど、皇太子殿下だと、気づいていないようだ。
 まぁ海外で暮らしているのだから仕方がないだろうと私は漠然と思った。
 その時、レイが、紺さんの服を引っ張った。

「紺さん、この人は、テレビに出てたの!」
「――テレビ?」
「うん! 芸能人だよ! どのドラマかCMかは思い出せないけど、見たことある!」

 本人はひそひそ声のつもりなのかもしれないが、はっきりと私には聞こえた。
 皇太子殿下を見ると、微笑したままだった。

「そうなのか?」
「ううん。他人の空似じゃないかな。よく、高山東吾に似てるって言われるから。政宗さんもそう思わない?」
「ええ、確かに瓜二つですわね」

 なるほど、隠し通すのか。ならば名前も変えたほうがよかったのではないのだろうか。
 しかも、その芸能人は、確かに似ていると評判だが、殿下の方がかっこいいとみんな言っている。それ以前に、名前を聞いて、何故レイは感づかなかったのか。確かにこんなところにいるとは思わないだろうけど。

 柾仁さん(と呼ぶことになった)は、十六から十八になってすぐまで、つまり高一半ばから高三半ばまで、ここへと通う事になっている。紺さんは、現在十四歳だそうで、十六歳まで通う。私達は十三から十五まで、つまり中二中三と通い、卒業後は柾仁さんが大学、私とレイが高校だ。紺さんは、これから決めると言っていた。思ったよりは、馬鹿そうではなかった。イケメン効果でなければだけれども。

 その後迎えの車が来たので、乗った。

 今年度の日本人及び日系人は、私達四人だけだという。
 全寮制であり、複数の量があり、それぞれで男子寮と女子寮に分かれていて、共有スペースがあるそうだ。
 巨大な一軒家のようなものである。

 着いた場所は、SPが大量に居る豪華な量だった。
 それはそうだろう。なにせ柾仁さんは、皇太子殿下だ。一応私も、議員の娘だし、名立たる大企業の孫だから、SP付きは納得できる。レイは、私と一緒に入学が決まっていたから一緒なのだろうと判断した。紺さんに関しては、数少ない日系の最後の一人だから同じなのだろうかと、この時は考えていた。この時の私はまだ、彼が私など足元にも及ばないほどの国際的大企業の後継者であり、既に天才外科医の名声を心臓と脳の両方で得ていて、超難関大学を二つ、超難関院も二つ卒業済みの大天才だとは知らなかったし、レイのIQが、この機関始まって以来となる最も高いIQ値であることも、だというのに、アレであるということも知らなかったのである。この二人は、能力が秀でているというか、異常とすら言えたため、世界の財産的な扱いで、VIP待遇だったのである。

 他の入寮者は、皆やはりVIPか天才だった。しかしこの時はそれを知らなかった。

 荷物を置き、届いている荷物を整理した。一人一部屋だが、さらに四部屋の間に共有スペースがある形だ。私の部屋はレイの隣、他の二部屋は、まだ誰もいなかった。