スイス天才教育総合機関【9】


 それも驚いたが、もう二つ驚いた。
 ひとつは、その方面に疎そうで、彩とミウのデートにすら気づいていないと考えていたレイちゃんがズバリ知っていたことで、さらには紺達が性交渉することにまで言及した点である。僕と春香ちゃんですら、性交渉はおろか、あのふたりがそういう関係だと考えたことは一度もなかったのに。
 もうひとつは、なぜふたりのあの難解な議論を、そのように簡潔に読み解いたのか、さっぱりわからないからである。僕には少なくとも、聞こえた範囲では、そういうやりとりには聞こえなかったのである。僕と春香ちゃんは顔を見合わせたあと、まさかなと思って、考えすぎだと結論づけて、いつもの通り、三人で帰った。

 この日もいつもの通り、門限ギリギリに紺は帰ってきた。

 リビングで待っていた僕と彩は、紺を見た。
 既に彩の話は聴き終わっていて、紺とミレイユについて話していた所である。

「童貞喪失か?」

 直球で彩が言った。僕は冷や汗をかきそうになったが、得意の笑顔を浮かべた。

「そんなものはだいぶ前に喪失してる」
「「……」」
「十一だな。その後はアメリカで色々だ。なんだいきなり? 彩はヤってきたのか?」
「――いいや。俺は純真な童貞だ。あんまりにもミレイユに熱心だと聞いてな」
「誰に? 柾仁とは思えないけどな」
「……レイちゃんが、ね。そうじゃないかなって言っていたんだよ」
「――ああ。なるほどな。聞いていたのか。あいつもよくミレイユの言葉を解読できるな。さすがは同類だ。しかも客観的に見ていたからかもしれないが、ミレイユより頭が回るみたいだ。ミレイユは途中まで完全に議論の証明だと思っていたからな。俺の口がうまいからというのもあるけど」
「……美人だよね、ミレイユちゃん」
「……好きなのか?」
「どちらの意味でも、まぁまぁだな。向こうも別に俺を好きじゃないだろうしな」
「「……」」

 僕もまた純真な童貞なので、経験豊富な十五歳ってどうなのだろうかと思ってしまった。
 そう、僕らは無事に、進級したのである。もう一年も、この会合は続いていたのだ。
 その後ほどなくして、彩とミウもヤってしまったそうだ。
 こうして、毎月一度、二組は、休憩室に行くようになってしまった。
 全体会合はなくなって、最初から個別ということにした。
 名目上、一応僕たち三人も集まっている。しかしそこでは、二組の現在の状態についてが、議論のテーマになった。僕と春香ちゃんで恋バナに花を咲かせ、レイちゃんはたまに参加するが、大体別のことをしている状態になったのである。さすが彼らは、外国人だ。性に開放的である。

「しっかし、信じられない。あれだけヤって、まだ紺とミレイユは付き合ってないなんて」
「僕もそう思うよ」

 だんだん春香ちゃんは、素が出てきた。僕らは、かなり良い友人になった!
 一向に恋心がお互いにわかない点も含めて、同士であると言える。

「柾仁さん、内緒だけど、ミレイユのお祖父様は、ディファーレイズカンパニーの会長なのよ? 世界屈指の大富豪よ! 紺は、このままミレイユを卒業と同時にヤリ捨てたら、流石に社会的に抹殺されるんじゃないかしら? だって初めても奪ったのに!」
「えっ、そうなの!?」
「ええ、そうなの!」
「――ま、まぁ大丈夫じゃない? 紺は、オーウェンの社長の長男だから、ご実家が同じくらいかミレイユの所よりももっとお金持ちだから……ま、まぁ、裁判になったら、確実に紺が不利だけど。賠償金はいくらでも払えると思うよ」
「ええええ!? 嘘、オーウェンって、オーウェン!?」
「そうなんだよ。まぁ、そういう意味で、あと頭の出来的にも、外見的にも、釣り合ってはいるよね」
「そういわれればそうですね」
「っていうかさ、ミレイユちゃん、紺のこと好きじゃないの?」
「私が知りたいんです! 何言ってるのかわからなくて、そっちから聞いて、やっとわかるの! 紺はどうなんです!?」
「紺はさ、はぐらかすのがうますぎて、教えてくれないんだよ。気づくと違う話にもっていかれてて、彩と俺で苦労してるんだよ。僕ら二人を手玉にとってる。あいつ、頭が良すぎる」

 思わず僕らはそろってため息をついた。