スイス天才教育総合機関【10】
「春香ちゃんは、誰か気になる人とかいないの?」
「それなんですよねぇ。うーん。寮の中ならアシェッドですけど、別に恋じゃなくて、外見が好きなだけなんですよね。話したこともあんまりないし」
「あー、成長期きて、一気にかっこよくなったよね。確かにイケメンだ。アラブの大富豪だよ」
「あら、そうなんですか? 大富豪かぁ……それはともかく、アラブは暑そうだから嫌ですね。日本に来てくれたら、お食事に行ってもいいかなくらい。行かないと思うけど」
「あはは。あ、でも、アシェッドは確か、次の行き先、日本とアメリカで迷ってるって言ってたな」
「アメリカはわかるけど、日本? アメリカなら大学ですよね? 日本で何を?」
「なんかねぇ、実は、お祖母ちゃんが日本人らしいんだよ。だから日本語話せるんだ」
「え」
「次から、ここに呼ぶ?」
「今から恋バナに参加するの、難易度高くないかしら」
「まぁねぇ」
「柾仁さんこそ誰かいないんですか?」
「……ある意味気になる人はいるよ。別の意味で気になる人が一人」
「……ご安心ください。その人は、私も気になるので」
僕と春香ちゃんは、そろってレイちゃんを見た。
レイちゃんは、星の王子様を読んでいる。なんでここにきて、童話を読んでいるのだろう? 僕は、とても、教えて欲しい。熱中している彼女は、こちらを見もしない。
「ねぇ、レイ!」
少し大きな声で、春香ちゃんが声をかけた。
「何?」
すると顔を上げないままで、レイちゃんが返事をした。
「レイは気になる人、いる? 恋愛的な意味で」
「……」
少し沈黙してから、珍しいことにレイちゃんが顔を上げた。
「好きかもしれないと思う人はいるけど、SEXしたいとは思わないの」
「「え」」
僕と春香ちゃんは、SEXはともかく、レイちゃんに好きな相手がいるという事実に驚愕した。
「どこの誰なの!? 教えて!? そもそもどうして教えてくれなかったの! 私たち親友でしょう!?」
「僕もすっごく気になるんだけど!」
「その相手、結婚するのが非常に面倒くさい相手で、それ以前に結婚無理だろうし叶わない恋だから、墓場まで持っていくの! だから親友でも誰が相手でも言えないの!」
「「……」」
レイちゃんはのほほーんとしていて優しく笑っているが、決めたら頑固なので、教えてくれないだろうと僕も春香ちゃんもすぐに悟った。春香ちゃんが、視線で僕に言った。紺に聞いてみろ、と。僕も頷いた。同じ意見だ。
こうして帰宅し、門限ギリギリに二人で帰ってきて(同じ終電バスだ)、先にシャワーを浴びに行った彩を見送ったあと、僕は紺に聞いた。
「ねぇ、レイちゃんに好きな人がいるみたいなんだけど、誰だかわかる?」
「――レイがそう言ったのか?」
「うん、まぁ」
「その時のセリフを忠実に再現してくれ」
「好きかもしれないと思う人はいるけど、SEXしたいとは思わないの――って」
「……へぇ。それは、相手さえOKなら上手く行くな。レイは、落とすのがものすごく難しいタイプだから、珍しいな。運がいい相手だなぁ。レイと俺も運が良い一族だけど、相手も多分、そうなんだろうな……ふぅん。ただまぁ、相手は結婚が難しいし、その人間は、レイをそういう対象とは考えてないみたいだから、レイは失恋決定だな」
「えっ、誰だかわかるの? レイちゃんも、結婚が無理だって言ってた。え? 誰?」
「本人に聞け」
「墓場まで持ってくって言うんだよ」
「じゃあ本人も無理だってわかってるわけだから、そっとしておいてやれ」
「……け、けどさぁ。君の親戚なら、どうとでもなるんじゃないの?」
「無理だ。こればっかりは、無理だ」
「そんな相手いるの?」
「うん」
「ヒントは? 国籍は? ここにいる人?」
「人のことに口を出してないで、自分こそさっさと探せ」
正論を言われ、僕は反論出来なかった。