スイス天才教育総合機関【11】



 反論できないまま数日がたったある日、男子寮のメンバー全員で、ぼーっとしていた。
 リビングで、好き勝手に飲み物を飲みながら、全員で雑談していたのだ。
 ようするに、暇だったのである。
 この時僕は、思案していた。
 前例を考えると、とりあえず高認試験を取得してから、学習院かICUに進学することになるのだが、この機関で僕は、熱心に別の勉強をしている。日本国内でそれを続けるなら、東大理Vしかない。医大を加味しても、日本で最も頭が良いと言っていい所だ。そこに皇太子が行くというのは、許されるのだろうか。そこというより、そこの院のとある研究室に行きたいのだが、だいたいみんなお魚の研究をしてきた家系なので、研究自体が許されるか不明だ。魚、魚か。魚で興味が持てそうなもの……ああ、ひとつある。

「深海魚が見たいな」

 ポツリと僕が言ったら、なんとはなしに、ルガード殿下が答えた。

「じゃあ潜水艦だね」
「確か、西の海に乗り場があるんじゃなかったっけ?」

 なんでそんな事を知っているのかわからないが、ルイが続けた。

「あ、会ったぞ。西であってる。シェディーズというらしい。当日予約も受け付けてる。電話番号は、コレだ」

 彩が言うと、ルシェルフが電話を始めた。

「ああ、八人で行く。そうだな、じゃあその時間に予約する――名前は……」

 ルシェルフの視線に、額に手を当てながらバーナードが答えた。

「バーナード・アインシュタインとその保証家族ドイツ移民七人でいいよ……」

 そのとおりにルシェルフは言った。あの目で見られたら、僕だって断れない。
 それにドイツという国の移民の数的にも、僕らの外見的にも、ドイツ人設定は、確かに最適だ。

「後はどうやってSPを巻くかだね」

 アシェッドが言うと、何でもない風に紺が答えた。

「柾仁とルガードが、ミウとミレイユに女装して抜け出せばいい。厚底っぽく見せかければ、身長じゃわからない。他には、集団外出ならSPはつかない」

 こうして、僕の一言から、僕らは潜水艦に乗りに行くことになった。
 女子寮に女装するために服を仮に出かけたら、事情を話した春香ちゃんとミウに複雑そうな顔をされてしまった。しかしなんとか服を借りて、うまいこと抜け出し(サイズがぴったりで、少し悲しかった)、途中で下の服に着替えて、僕たちは潜水艦に乗った。

「八人乗りか。ちょうど良かったな。俺は原子力潜水艦に乗ったことしかないから、新鮮だ」

 ルシェルフの声に、僕は思わず腕を組んで笑った。笑顔は、僕の標準装備だ。
 普通、原子力潜水艦の乗船経験なんか、無いと僕は思う。