そうしていたら、三年生はすぐにおわり、僕達は四年生、ジェイクは院二年生になった。

 そんなある日、やっとジェイクと紺が、それぞれの彼女を紹介してくれることになった。会わせて欲しいとさんざん言ったのに、これまで会わせてくれなかったのだ。そうして土曜日にやってきたふたりの女の子をみて、つい僕は、生暖かい眼をしてしまった。

 なんといっても一人目は、シェリル・オーウェンである。
 状況から言って、ジェイクの恋人であり、紺の妹の緑ちゃんのようだ。
 言っとけよ!
 視線で突っ込むと紺が吹き出した。
 院に研究できているという話はもちろん知っていた。
 しかし、ならば紺はオーウェンの長男か。それで経済か。腑に落ちたよ。
 マスコミにリークしたら、大スキャンダル確定だから、黙っていたのだろう。
 それともジェイクもなにか相応の身分の持ち主なのか。そんな気はする。
 少なくとも俺と同じくらいは金を持ってる。まぁいいか。
 さて問題のもうひとり。
 紺の彼女だ。すげぇ美人! 日系人のようだが、僕は知っている。彼女はフランス人だ。現在ハーバード大学で一番可愛い女性として噂になっている、医学部の才女である。恋人が居るらしいと噂で聞いてはいたが、紺か。ほう。知らなかった。ほんわかした優しそうな美女である。
 雑談しながら、正直、友人の男ふたりが羨ましくなった。
 実は、僕が誰のことも好きになれないのには、理由がある。
 既に好きな人がいるのだ。
 ただ、決して手が届かない相手なのだ。だから、民間人の恋人が羨ましい。
 きっと生涯僕は独身なんだろうなぁ。
 遊び歩くからいいけど。

 こうしてその日を終え、翌週からはまた三人になった。
 言ってよと今度こそ口に出したら、ふたりに苦笑された。
 それから半月くらいした頃、紺がもうひとり友達を連れてきていいかといった。
 君は一体何人友達がいるんだい? と僕は聞いたし、ジェイクは、なんでそんなに活動的なんだと冷静に訪ねていた。そして次の週が訪れた。

 僕とジェイクは硬直した。

「紹介する。友人のルガードだ」

 そこにいたのは、我がイギリスの次の国王である、ルガード第一王子殿下だったのである。知らないとは言わせない。少なくとも、緑のテレビCMよりも、殿下の本日のご様子の方がテレビで流れる機会は多い。

「こっちがジェイク。ドイツ人だ」
「はじめまして」
「……紺。紺はテレビを見ないのか? こちらは、俺の記憶が間違っていなければ、この国の第一王子殿下じゃないのか? 初めての挨拶をする前に、はっきりさせてくれ。それによって、挨拶の仕方が変わる!」
「ああ、そうだぞ。昔、同じ学校にいたことがあるんだ」
「「ぶは」」

 僕とジェイクは思わず吹いた。笑えない。しかし、紺の言葉には信憑性があった。
 紺ならば、ありえる。

「けどまあ無礼講ってやつでいいらしいし、普通に話していいぞ。ルガード、そういうのあんまり気にしないし」
「……そうか。はじめまして、ジェイクです」

 ジェイクが諦観したように挨拶した。その後殿下が僕を見た。

「ルークは久しぶりだね」
「お久しぶりです、殿下」
「ルガードで構わないよ」
「そういうわけには参りません」

 僕らのやりとりに、紺が首をかしげた。

「知り合いか?」
「ルークの家が、僕の家の家計を管理してくれてるんだ」
「へぇ。そりゃあすごい」

 本当にすごいと思っているのかは知らないが、紺が頷いた。
 そこから四人で雑談したのだが、少なくとも僕は、緊張しまくっていた。
 ジェイクはいつもどおりに見えたが、隣席だったので、手がたまに震えていたのを見た。
 紺だけが、特に変化なし。殿下は、まぁ、テレビとは違うが、僕が知るのと同じだった。