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「さて、時東先生は完全PSY血統医術がご希望なんだな?」
「ああ」
「ならばせっかくだから、政宗および高砂も自分で希望したから、より完璧にしてもらう。というか高砂がやりたいというから、まずは橘宮様のスサノオを用意したのに覚える気配がないから、もしかして、既に時東先生が僅かに覚えていると聞いているフェルナ・ロードクロサイトのものが良いのかと思いそれを復古したのにそれもやらない。だからもしや、匂宮が受け継いできたユエル・ロードクロサイトかと思ったらそれもやらない。ならば旧世界末期にゼストが復古したものかと思ったらそれもダメ。ギルドに伝わるルシフェリアのものかと思ったらそれにも興味を示さない。ならばもっと違うのかと思い、俺がゼルリアとゼガリアのものを復古したがそれもやらない。よって、良い機会だから、今覚えたスサノオ・フェルナ・ユエル・ゼストルシフェリア・ゼルリア・ゼガリアの6つの完全PSY血統医術および、俺が整理した完全PSY血統医術薬品辞典、完全PSY血統医術症例辞典・完全PSY血統医術を完全ロステクモニターのように表示する術、完全PSY血統医術を、PSY復古医療と組み合わせる技術、これ全部覚えてもらうからな! スサノオはさっきのは、唇をスベスベにするとかいうリップクリームでいくらでも代替可能なのが入ってるから、基本はこっちの医学的なのを使え」
「「「わかった……」」」

 ちょっとレベルが想定より遥かに高すぎて、一同は困惑した。しかも全部高砂のために作成されたらしい……! その扇は、まず高砂のものは、銀・金からはじまり最後の黒曜石のような黒まで虹色の絨毯のような模様に、高砂松と銀の月と金の十字架が入っていた。政宗のものには同じ模様に、ピンク色の椿と銀の月、金の十字架が入っている。そして時東の扇だけが違った。漆黒で表面に星が輝いていて、周囲に金粉がついている。左右には虹のラインが入り、中央には金色の輪郭の日蝕があった。そして左右の斜め下に銀の十字架が入っている。

「時東先生のは、黒曜宮当主扇で、他に直属分家心構えと、黒曜宮始祖即ちフェルナ・ロードクロサイトのPSY融合兵器操作術および黒輝帝ことロードクロサイトの最後の皇帝の完全PSY把握術、人員管理術は、匂宮関係者ならば必須だから心構えにも入っているが、科学者・医師管理・さらに皇帝としての統治者としての心構えが入っている! さらに俺が付け加えたPSY融合医療用具・PSY融合医療装置操作術も入っている! きちんと完全PSY血統医術を用いて知識を習得しなければならない!」
「まさにその通りだ! ゼクス様よ、ありがとう! けど、あの、付け加えたって、お前が作ったの? これらの扇とか知識とか」
「ん? 扇の作り方は匂宮古文書に書いてあるし、知識も多くが書いてある。なのに誰ひとり読んで整理しないんだ。もうその時点で、匂宮の自覚がない」
「ぶは、な、なるほど」

 一同はちょっとポカンとしつつも扇をひらひらさせたりしながら、身につけた頭おかしいレベルの『匂宮の高貴な血』を実感した。確かにこれは……高貴だ! そう、他の超診断や超謎法律と同じく超展開だが、言っている事は間違っていないのだ。

「よし、次に、挨拶だ。とりあえず、そうだな、全員左手の小指に、この銀のダイヤ付きの指輪をはめろ。俺が作っておいた」
「……え? これ、使徒ゼストの銀?」
「そうだ。時東先生は詳しいな」
「ちょっとまってゼクス。これさ、匂宮金冠のダイヤじゃないの?」
「ああ、同じものだ。復古した。良いから付けろ」

 え、それって聖遺物じゃないのかと思いつつ、みんなが見につけた時、ゼクスが正面に、モニターを展開した。そこには、ゼクス入室時の榎波と朝仁と朱曽祖父の挨拶が映っていた。

「良いか? このように、華族は、本来華族関係者がきたら、ESPによる雑談・日常会話風の挨拶、次にOther-PKによる礼儀正しい挨拶、そして最後に音楽、一言感想等なにかあればそれ、および業務連絡を行うんだ。これが最低限の礼儀だ。わかるか? お前ら誰一人挨拶ができていない。朝起きたらおはようございます、ご飯を食べたらいただきます、それと同じように、華族はこれをやるんだ。この室内には三人しか華族がいなかった。匂宮の人間まで挨拶ができないだなんて、非常に嘆かわしい。ESP社交をなぜ学ばない? もう、学ぶ気がないと判断して、こちらをはめて見ると三種類がモニターで脳内展開されて、さらに脳内操作でこちらも発信できて、プライバシー保護のために普通発信者がそれを見えないようにするんだけど、それも勝手に発動するようにしておいた。今後、この挨拶をしてきたちゃんとした華族にはちゃんとした対応をしろ。挨拶もできないなんて恥ずかしいこと極まりない。後ろにいるダメな大人に学んではならない。良いな? 高砂なんて出来るのにやらないんだ。だから、まぁ、高砂にもこれはあげておく」

 ダメな大人扱いをされた連中も含めて爆笑した。

「最後、最低限の服装だ。まぁレクスと琉衣洲様は貴族服だから今から用意するし、時東先生も白衣だから今から用意する。そして高砂はちょっとマシだが、これから万象院の格好をするには不適切! いいか、復古家の者。お前らも、当主としての服、色しか合ってないから、そこから着せ替えだ。桃雪様も何度言っても見た目しか気にしない。それではダメなんだ。よし、まず全員この腕輪を左手首につけるように。これでデザインが気に食わない場合、今日全部着て、朱の曽祖父様に教育したと見せ、緑羽の御院にも相応しい服を教えてあげたら、普段は装着して亜空間収納しておけば良い。わかるな? 見た目は自由でいいんだ。だが、きちんと華族の服装をしなければならないんだ。これも高砂がそんなに見た目が気に食わないのかと思って作ったのに、付けない!」

 今まで、ゼクスが言う『服装』の概念が、おそらく超展開であり、自分達の認識とは違っていたのだと、もう全員が理解していた。そして高砂と桃雪は、これまでよく話を聞かなかった自分を責めた。

「まず、琉衣洲様と榛名、これを着ろ。お前らは政治の道を行くそうだからな。外見は当主服の政治時ヴァージョン、中身は完璧に政治バーションとなっている」

 ゼクスが二人に渡した和服を見て、多くの人が目を見開いた。どこからどう見ても完全にPSY融合繊維でできていたのだ。しかも美しい。まず琉衣洲の服装は、黄色が基調で、袖口と胸元の合わせ目が白、合わせ目の足元には金粉がまぶされていて、一本の杉の木が左下から斜めに右上に伸びていた。その緑がキリリとしていて、そこにも金粉がある。外語には色とりどりの、紅葉した葉が舞い散っていて、その周囲にも金粉があった。続く榛名の服は左肩が混んで右下へと緑に変わる着物で、全体に銀粉があり、左下にそれが収束している。そこに一輪の菊が咲いていた。そして背後には、青と緑の綺麗な海と白い雲が銀粉で彩られながら描かれていて、左右には桜の木が咲いている。

「どうだ?」
「頭の中に、バーっと書類整理術や資料管理術が入りました。科学的な感じで」
「う、うん、俺も。亜空間倉庫資料室とかがバッチリ入ってきて、亜空間執務室というのが使えるようになった」
「だろう? これが服だ! PSY融合繊維の色じゃなく、糸! それを用いて、知識を持ち続ける! それが、匂宮の正装だ! よし、次は若狭」

 若さには深い青が左肩、右肩が紫で、緑と橙色に途中で変化し、最後が流れるように赤紫になる着物が渡された。そして呆気にとられるような素晴らしい紫陽花の刺繍が右したから咲き誇り、銀粉でそれが彩られている。背後には一羽の巨大な梟が飛んでいて、同じ色彩のきれいな布に金粉が舞っていた。

「す、すごい、ロードクロサイト文明の最後から最新までの敵情報と生体兵器や情報システム関連情報の亜空間資料庫がある……!」
「常に最新データと動機しているからな。お前は情報に興味があるんだから極めろ」
「わかりました!」
「よし、続いて政宗」

 正宗には、上から下に緑から白になり、上に金箔、下から銀箔、そして大胆な赤躑躅が描かれた着物が渡された。背後は逆に緑から深緑に変わっていき、上が金箔、下が白い粉だった。そして、鮮やかな舞い散る新緑の葉が描かれ、金の縁どりがなされている。

「うわぁ、え? なにこれ?」
「ロードクロサイト文明時の医学の基礎知識および、完全ロステクからPSY融合医学までの薬のつくり方だ」
「……うん、なんか、すごいな」
「うん。きちんと学ぶように。それも常に最新の医薬品データが同期される。最初二名の方も新しい法律等が全部同期される。よし次は分家の最初の予定の2つ! まず、真紅匂宮! そして桃雪匂宮! 二人は、心構えはなってない。お前らは特別な帯も必要だ」

 こうしてゼクスが二人に和服と帯を渡した。これがまた豪奢で美しい。まずはレクス。深い赤から真紅に左肩から右下へと変化し、胸元には金色の菊を象った紋がある。金の糸の束も揺れている。そして右下には暗い紅の羽の鴉が描かれていて、瞳はルビーのように煌めいていた。全体には金粉だ。背後には、舞い散る黒い桜が描かれていて、金色の蝶々が舞っている。一方の桃雪は淡いピンクが右上にあり、左下に向かってほぼ白になり、濃い色合いから薄い色合いの舞い散る桜が描かれ、左下から巨大な桜の木があり、それは葉桜だ。背中は全面ピンクで濃淡があり、真紅の舞い散る桜と金色のアゲハ蝶が描かれている。正面胸元の菊のマークもレクスと同じだ。さらに帯。ルビーと金の糸で構成されているのがレクスの帯で、桃雪の帯は翡翠から濃い黄緑に変化し、金粉がまぶされていて、両方ピリリとアクセントを与えている。

「どうだ? 完璧だ。レクスは、Otherの青のルシフェリア・ルビー部分の封印が解けつつあるんだから帯で補強! 桃雪様はESP欠乏症なのだから、帯で補強! さらにそれぞれで、単体PKと範囲PKも完璧に使いこなせる補助が入った着物! 最低限このくらい着ないとダメだ!」
「兄上……ルシフェリア・ルビー部分、この青系なのに赤いOther、これはルシフェリアの金とルシフェリア・ルビーでしか補助できないのでは?」
「その通りだ。なぜそれを理解しているのに、こうして身につけなかった?」
「……」
「桃雪様もご病気を理解しているならば、何故補わなかった!?」
「……こんな帯があるとは存じませんでした……勉強不足でした」
「うん、そうだな。これからはきちんと古文書を読むなどして勉強していこう。まだ若いから行けるだろう」

 そういう問題なのだろうかと思いつつも、桃雪は泣きそうになった。これまで誰かに触って吸収しないとダメだったのに、帯をつけていると勝手にESPが入ってくるから体が一気に楽になったのだ。しかも範囲が爆発的に広がり王都全域が余裕で入った。さらに遠方でも近距離同様に強い力を使えるのを理解した。それはレクスも同様だった。今なら念じるだけで、超巨大生物兵器も吹っ飛ばせるだろうと理解した。しかも念願だったOtherまで使えるようになってしまったのだ。

「次に直轄分家の時東先生にはこれが良いな」

 ゼクスがそういってさらっと渡した着物を見て、華族全員が凍りついた。
 思わず高砂が呟いた。

「そ、それさ、青照大御神の宵じゃないの?」
「そうだ。エクエス・ロードクロサイトという、最後の皇帝の父、つまりフェルナ・ロードクロサイトの、今で言う白衣に、ユエルこと青照大御神が色々付け足し、さらに月讀が付け足し、それを復古して俺が最新情報との同期も含めて全データをぶち込んだ最先端白衣だ! 時東先生はお医者様であるし、正しくフェルナ・ロードクロサイトの末裔の黒曜宮なのだから、これが良いだろう」

 満面の笑みのゼクスと、受け取った瞬間の莫大な神聖さに、時東すら冷や汗をかいた。これはもはやPSY融合繊維の着物とかではない。が、知識欲旺盛な時東は迷わずに着た。非常に美しい和服であり、左肩が紺色で、下に行くにつれて青が深まり夜空になる。時折白が入っていた。逆に後ろは夜空が深まり、闇夜になる。胸元には星の形の紋章が両方に入っていた。銀色で、紐も銀色だ。さらに、前の下部では宵の明星が煌き、黒い三日月がある。背後は白金色の糸で大宇宙のような星空が描かれていて黒銀の糸で新月が描かれていた。まるで本物の星空と夜空のようで、見るもの全員が圧倒された。風景がそこには広がっていたのだ。

「いい感じだな」
「うん、いい感じというか、エクエス・ロードクロサイトの全知識およびPSY融合関連知識全部入ってきて、さらにエクエス・黒輝帝・フェルナ・ユエル・月讀の亜空間研究室が全部入れて、さらに彼らの医薬品棚には各歴史階層の医薬品が全部あるし、資料も全部あるし、PSY融合医療装置室だのPSY融合医薬品合成室だの、何もかもある。え? これさ、もらっていいのか?」
「当たり前だろう。黒曜宮家当主として恥ずかしくない格好と知識を身につけないとな!」
「な、なるほど……?」

 時東は珍しく作り笑いを浮かべ、冷や汗をダラダラかきながら曖昧に頷いた。そして、なぜこんな貴重なものを、あっさりと渡せるのか、非常に悩んだ。これが大天才なのだろうか? これまで華族って馬鹿ばっかりだと思っていたが、認識を改めた。