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まるでそれが自然であるかのような感覚だった。やりたいことが全部できるというのが、現実的にまず把握できた。その後、冷静に分析した。冷や汗が止まらない。まず、袈裟の内側。強力なゼスペリアの青がひたすら治癒回復を放っている。これでは死ぬのは不可能レベルの強さなのだ。さらにゼガリア白金銀から作り出したと思しき糸のおかげで、精神的にスカンとして、ありとあらゆる精神疾患にも汚染にもかからないと理解したし、睡眠も食事も不要といった青緑Othreも感じる。
内側だけで、不老不死になれるレベルで、老衰以外では、逆に死ねる気がしなかった。さらにIQは、それぞれが100000、PSYも100000はあがったと、これまでに身につけた他の装飾具からの情報で理解した。そしてそれはあくまでも内側のみでの効果なのだ。続いての外側。全体は錦に輝く金。各歴史階層の全ての兵器攻撃を個別だろうが大規模だろうがどう考えても防げる。PSYを込めれば、王都全域の兵器を全部、敵のもののみ破壊できる効果まである。
そこに刺繍された高砂松。金と緑で描かれ、橙色から黄緑、緑へと流れるように袈裟の中でいくつも刺繍されたそれは、高砂の基本的な戦闘時のESP-PKの完全補強効果があった。こちらは特にESPだ。さらに金と赤で描かれた牡丹。橙色から赤みの強い黄色になる。こちらは特にPK。その完璧な補強効果がある。
これまで、王宮内の平均戦闘レベルを30とすると99だった高砂は、現在9999になったようなレベルになった。ありとあらゆる兵器などなくても、完全PSYで己の武力のみでどう考えてもどんな敵も倒せる気がした。そしてそれだけではないのだ。薄い白からピンクになる牡丹が時折混ざっていて、こちらは高砂に不足しているPKのすべてを補っているし、桜の松の枝があるのだが、その緑の葉は、やはり高砂家には不足しているESPを完全補強しているのである。
それらは銀の糸と共に描かれている。後ろ側は下に行くにつれて金色になり、最終的に青い粉になる。こちらもPSYを全力吸収であるし、さらにそこには日の出のマークがある。菩薩の後光だ。これが金掌の由来である。その背面のみで、高砂には青き弥勒の仏像と同じ、万象院の神聖な静寂と威光がある。これが気配の正体だ。森羅万象全てを象徴する御仏の証なのだ。
それがなんなのかは、ゼスペリアの青が神の御業の正体であるのと違いまだ解明されていない謎のOtherらしいがそうなのかも不明な――まさに神、だ。高砂自身もそれを悟り、気絶しそうになった。だが、これを一度身につけたら、絶対にもう手放すのも無理な気がした。どうしていいのかわからない。これは、どうすればいいのだろうか。焦りながら、思わず高砂は緑羽の御院を見た。
「あ、あの……これ、俺が受け取っても良いのでしょうか……?」
「高砂よ。今、私が思うに私が間違っていてゼクスは正しく緑羽であったし、そのゼクスが列院総代の格好はそれであると言っている。確かに私もそう思う。しかもその袈裟は、青き弥勒の金掌の袈裟の――高砂列院総代の専用だという……高砂以外が身に付ける事は逆に困難であろう……それに……うん。私が間違っていた……うん」
「緑羽の御院、うん、だろ? 俺、ずっと外見だって言ったし、服装が大切だって言ったのに。俺の高砂に作った袈裟一覧、これを見ろ! こんなにあるんだぞ!? 何が気に食わないのかわからないから、もうそれと同じ効果でデザイン違うのから、それはこう長所を伸ばす袈裟だけど短所を補う袈裟とか、もっとこう金掌風の菩薩っぽい袈裟とか、見ろよ! この一覧を! 着ろよ! それが嫌なら一個くらい気にいるのあるだろう!? けど俺はそれがいいと思う! とりあえず列院総代としてそれを着ろ!」
ゼクスが怒ったように表示したモニターには五歳から現在に至るまで、さらに二次性徴終了後は、ありとあらゆる性能の袈裟が飾られていた。その後ろには、高砂専用と思しき内側に着る天照大御神の攻撃系から高砂家関連までの列院用の和服が大量に、五歳から現在までのサイズ、かつ効果も各種、法事や葬儀用も完璧に揃っている。高砂は、着なかった自分が悪いような気がしたが、だが、首を傾げた。
「え、あのさ、これどこにあったの?」
「武器庫だ」
「ぶはっ、俺、ゼクスが倉庫に全部あるって言うから、衣装庫を見てたよ……」
「はぁ!? PSY融合繊維で作ったほぼ兵器を衣装庫になんかおけるわけがないだろうが! もしかして32名以外も武器庫以外を見ていたのか!? なんということだ……信じられない……そうだったのか……ん? けど、高砂は武器庫も見ていないはずだ!」
「それは、まぁね。あそこに俺用の武器とかないと思い込んでた。俺のレベルに合うのとかないとばっかり思ってた」
「はぁ!? だからお前、俺があんなにたくさん作った錫杖すら使わないのか。列院総代と言ったら、武器は錫杖に決まってるだろうが! これだ!」
「え」
ゼクスが出現させた錫杖を咄嗟に受け取り、再び高砂は硬直した。
さらに膝をついて手を合わせた人々が増加した。
むしろそうしていない人の方が少ない。緑羽は立っているがやはり手を合わせている。
「……――あ、の……これ……青き弥勒の金掌の錫杖じゃ……」
「いいや、違う。それもあるけどお前が使う気配がゼロだから、進化させて、青き弥勒の金掌の高砂列院総代バージョンを俺が作ったんだ」
高砂は握る手に汗を最初かいた。緊張感だ。しかしギュッと握るとしっくりと馴染んだ。胸の内側に静寂が広がっていく。そしてこの場の全て、どころか王都内、周囲の大自然、海、空、大地、寺院等や動植物、無論人間も含めて、ありとあらゆる森羅万象、全てのPSYを自由自在に操れると握っただけで理解した。
さらにシャラランと音がした瞬間、その場全員の精神がお寺で経文を聞いている時と同じように集中力がまして研ぎ澄まされ、だというのに安寧の澄み切った心地になり、水のように静まっているのを感じた。そして、握ると、使用方法がわかるのだが、それを利用してマインドコントロール・マインドクラック・偽装記憶込みマインドクラック・精神感染汚染の全部の兵器として使えると理解したし、逆にそれを全部防御できること、全部解除できることも理解した。範囲は王都どころか国内全域だ。時折錦に輝く銀色の錫杖なのだが、上部についている三つの輪っかの立てる音でそれができるのだ。さらにそこにESP-PKを流すと、生体PK感染症を引き起こせるし、その解除も可能だし、防御も可能。Other-ESPと一部のPKで生体ウイルス兵器どころか自然発生の新型ウイルスも一発で治せると理解した。
なにこれ? さらに模様が入っているのだが、重力制御装置だった。例えば海の水を空に持ち上げる事など超余裕。洪水が襲ってきたら、全部押し返せる。床にドンと付けば、周囲の人間の上に重力を増すことまでできるし、その相手は無論任意で選べる。逆にそういう兵器を使用されたら防衛可能だし、これなら空中浮遊まで可能だ。岩とか楽勝で粉々にできるし持ち上げられる。その上大地につくと、地震や噴火を誘発できるし、逆にそれを停止させる事までできる。災害誘発兵器だ。
それを海にやれば洪水も起こせるのだ。また雅な模様の他の効果として、集中豪雨から広範囲豪雨、落雷まで可能だし、強制的に晴れにもできる。気象兵器としかいえない。さらに脳を破壊するレベルの音波を出せるし、失明させるレベルの光も出せる。それらを応用すると、昼なのに夜が来たように見せられるし、幻覚フェイク兵器が入っているから、星空も作り出せるし、自分の幻影を出しておくことまで可能だ。それにより時間感覚を任意の他者や範囲全員において狂わせる事までできる。
逆に幻覚や時間感覚等の攻撃を受けたら、遮断・防御、これらも勿論可能だ。更に一部の青金に光る模様は、神具・法具・聖遺物を探知できるらしく、どこに埋蔵されているか等が一発でわかる。また金緑の模様は、完全に世界は個、個は世界という教えを再確認させてくれて、握っているだけで、世界との一体感を感じさせられる。さらにひと振りで、PSY融合兵器や生体兵器等の特に危険なものを消滅封印させる時と同じ効果の波動を放てるので、それを意識して横に薙げば前方の敵は何億人いようと一発で肉体ごと消滅させられる気がした。
またPSY受容体の全てを感知できているわけでもあるから、その破壊兵器ともなるので、相手のPSYのみ永遠に使用できなくさせる事も可能。逆にその防御も可能だ。もちろん応用すれば、地面を平らにする、みたいな地殻工事も可能だし、水源まで見つけられる。どころか、やはり床につくと、草の茂みが生えてきて、高砂松が茂る、小さな池があるような場所が構築可能だとわかるし、全アイテムを揃えて考えると寺がすぐに建てられる。また、全経文が中に入っているらしく、さらにそれは、ゼクスが言っていた通り、戦い方や列院総代の袈裟のPSY融合繊維の情報だったりする。
他の今までのは、わかりやすい要約の中の心構えレベルだったとはっきりと理解した。万象院に対する価値観まで大転換だ。さらにこれを持っただけでも、凶悪な敵が勝手にサーチされるように思い浮かぶし、そういう集団の知識がどんどん入ってくる。歴史ごとだ。万象院の敵というか人間の敵全部だ。さからに各文明の崩壊時や滅亡時の内容も浮かんでくる。
「あ、あのさ……どの部分がゼクスのつけたし?」
「ん? まずお前が、マインドクラック、精神感染汚染兵器と気象兵器と災害誘発兵器と生体ウイルス、生体PK系疾患誘発兵器とPSY受容体破壊兵器に対する攻撃に悩んでいて、ワクチンや防衛の事を気にして調べていたから、そこだな。それで俺的にそういうのを使われてしまった場合、瓦礫の撤去とかで重力制御兵器もいるだろうとそれを付け足した! どうだ? 完璧だろう? あとは、お前のESP-PKの使い方に合わせてあるから、それ持って戦うと、今までの俺的にすげぇ微妙な兵器類よりも手に持って振るとか地面に着くとか鳴らすだけだから圧倒的に楽だろうなって感じだな。それと寺の再建に備えて基本的な寺作りセットと経文を入れておいた。そこに黙示録が起きそうだとかお前が言ってたから、黙示録を熟読して、特に使われそうな兵器にも対応できる感じにした。PKによる心臓破裂の大量死者とか感染症とか、お前がそれをシャララーンってすればおさまるだろ? どうだ? なぜこれを使わないんだ?」
「……あのさ、これ、俺が世界滅ぼせるレベルなんだけど……」
「高砂はそんなことをしないから大丈夫だ」
「……そ、それと付け足し部分は俺が欲しがっていた兵器というかワクチンとかだとして……なんか俺、まるで仏様レベルに全知全能風なんだけど……病気とかじゃないから自分が再来とか金掌とは思わないけど、なんでもできる気がするんだけど?」
「寺なんだからお前の中に仏がいて当然だろう。さらに青き弥勒もいて、お前はそれを守護する列院総代なんだぞ? ゼスペリア教でいうなら法王猊下なんだぞ? 法王猊下だってヴェスゼストの代理をしているし、お前も金掌の代理な感じで、きちんと自分という寺、その中の仏様、青き弥勒を守っていけ! なんでもできる。だってそれが森羅万象だ。なんでもというのは森羅万象のことだ。それが寺だろうが! そして危なくない戦っていない時は、お前は寺なんだから、その静寂な音をシャララーンって響かせて、みんなに経文を聞かせてあげる方向で行くんだよ! それが寺だ! 列院総代だ!」
「けどさ、この全身兵器まみれなのはともかく……え? 経文?」
「はぁ!? 列院総代は寺なんだから、教会でお祈りするゼスペリア教徒の人々のように参拝に来た人々にシャララーンってやるんだよ! そして寺は安全であるべきだし、普通最初は避難所の効果なんだから、立ってるだけでみんなを守れるレベルじゃないとダメだろうが!」
「……あのさ、これ、全部立派な、そ、その、神具というか法具というか聖遺物レベルだけど……ゼスペリア教でいうなら、全身を使徒ゼストの聖骸布のPSY融合繊維の攻撃特化で覆ってる感じで、全身使徒の聖遺物みたいなさ……」
「何を言っている? ゼスペリア教は、万象院に比べたら新興宗教だ。聖遺物など比べ物にならない、俺オリジナルも含めて、この国で一番最強の威力を持っている! 万象院の誇りを持ってそのくらいの服装を常にしておけ! そしてそこら辺の使えない無駄な聖遺物とその服を比較するな! さらに万象院は、神具だのという古いのから出来上がった最高の宗教・医療・学術知識・技術を持っているんだから、謎のわけのわからん神具と比べるだなんて! 恥を知れ!」
「……あ、う、うん……ゼスペリア猊下兼青照大御神の末裔の言葉だし、そ、そ、そうかもね……」
「そうだ。その通りだ。俺は今、緑羽万象院当代若御院としてここにいるんだ。その認識で良い」
「け、けどさ、これ、俺が一人で黙示録を阻止できるレベルじゃ……?」
「それは非常に良い事だ。そうしたらきっとお前は、青き弥勒の金掌の化身とか転生者とか呼ばれるだろう。自称じゃなく周囲に呼ばれるならば、それは時東先生がゼスペリアの医師と呼ばれるのと同じ事だから、俺も逮捕しない」
「……これ……本当に俺が貰っていいの? 他にもっと相応しい人がいるんじゃ……」
「は!? それも気に入らないというのか!? 俺に何本錫杖を作らせれば気が済むんだ!? お前、万象院列院総代やりたくないのか!? もしかして、そういうことだったのか!?」
「え、あ、いや、やるけど、それは既に俺だけど、そ、そういう意味じゃなくて……」
「第一それはお前専用の錫杖として俺が進化させて作り出したんだぞ? 他の誰が、青き弥勒の金掌・高砂列院総代バージョンを使うんだ? 高砂はお前しかいないだろうが! 一体、お前以外のどこに高砂列院総代がいるんだ!? 相応しい人間って何だ!? オマは高砂列院総代じゃないのか!?」
「……い、いや、そ、そういう意味じゃないし、俺は高砂列院総代だけど……ちょっと、神聖すぎて……恐れ多くて……」
「寺が神聖じゃなきゃ意味がないだろうが! しかも今回列院がいっぱい増えたんだぞ!? 列院総代は一番神聖な感じで、ここにいまーっすって、自己主張していかないと、どれが列院総代かもみんなわからないだろうが!」
「……う、うん、言いたいことはわかる」
「じゃあ何が気に入らないんだ? 手にしっくりこないのか? 握るのが嫌なのか?」
「いや、それはない。二度と手放せないレベルで、これないと生きていくの無理な感じがする。袈裟と錫杖が特に」
「だったらつけろよ!」
「正直つけたいんだけど、一回つけちゃったら、これがないとか考えられないレベルで俺ののぞみを全部かなえてるんだけどさ、だからこそ、俺ごときがこれを貰っていいのか悩んでるんだよ! いい? この袈裟とか錫杖の、ゼクスの前の通常バージョンですら、継承して良いなんて言われた列院総代はほぼいないんだよ?」
「それは緑羽万象院や列院総代自身に作る能力あるいは使う能力、そういうのを持ちたいという気持ちが欠如していたということだ!」
「そうなの? 高位な僧侶だからもらったんじゃないの? 偉大だから」
「はぁ? 世界は個、個は世界! 偉大も偉大じゃないも全部同じだろうが! 高位も万象院じゃない人々も、全ては森羅万象の一部! お前、本当に経文を読んでないのか?」
「……そ、そうだね。一番基本の経文から改めて全部読むよ……」
「うん、それが良いだろうな!」
「俺、てっきりゼクスは、ゼスペリア教にしか興味がないと思ってた……」
「はぁ!? それだったら緑羽万象院になる訳無いだろうが! なったからには俺は完璧にやるんだ! 完璧にできなくてもそれを目指すんだ! 努力・気合・根性! ラフ牧師に習った! やり遂げないとダメだ!」
「そっか。うん。そうだよね! ごめん。ゼクスの事を誤解してた。全面的に俺が悪かった。謝る」
「うん。許す」
「じゃあ……――ありがたく受け取るよ」
「うん。きちんと身に付け、見た目が相応しくない場所とかでは、腕輪で適切な衣装に変更するんだ。法事用袈裟とか様々な高砂家和服とかも記憶してあるからすぐに出てくるし、もしやお前がどれを着るのか知らないのかなと思って、ちゃんといつ何を着るのかもリストにしてあるからな。身につけて亜空間収納をするように。錫杖も、指輪形態に出来るから、邪魔な時ははめておけ。ただ、指輪にする前に、足首のさっきので、ちょっと万象院オーラを弱くして、なんかこう思いのほか信心深い人が多かったから立たせてあげて、そして錫杖をシャララーンと鳴らして穏やかな気分にしてあげると良いな。その格好の時も、収納してるけど身につけてる時も、きちんと周囲に配慮するようにな」
「そうだね。うん、そうする。本当にありがとう」
「どういたしまして。やっとお前がきちんとした格好をしてくれて俺は満足した!」
高砂は、なんだかこう、吹っ切れた気分になり、ゼクスの助言に従い、神聖な空気をそこそこに抑えてから、錫杖を床についてシャラランと鳴らした。すると、みんなほっとしたように息を吐いて立ち上がった。