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パクパクとではあるがやはり優雅に非常にゆっくりとゼクスが食べ始めた。
「一応聞くが昼食は何時がいい?」
「二持。おやつが五時。夕食が七時半」
「お前そのペースだとほぼ一日中食ってるだろそれ」
「いいんだ。人生を謳歌しろといったのは時東だ」
こうして十時半付近から十二時手前まで、夕食よりは速いペースでゼクスは食事を終え、満足そうな笑顔になった。
それを片付けに来た時東が、クッキー類の入ったカゴを置く。
珈琲メイカーと緑茶の冷たいものの瓶とコップも置いた。
ライチジュースは勝手にボトルに補給される。
「俺このお茶が大好きなんだ。ありがとう!」
「それは高砂チョイスだ」
「え?」
「なんかお前の好きな飲み物を知らないかと話したら、それと、あとこういった本だというから一応用意したから暇なら読め」
時東はそう言うと例の小説や人魚姫、さらに各種図鑑と画集や写真集を置いた。
ゼクスが驚いたように目を丸くしている。
それから嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとう。このベッドサイドに本棚があるともっと良いです」
「――出現させてしんぜよう」
「ありがとう!」
非常に嬉しそうにゼクスが一番上の棚に本をしまっていった。
それを眺め、本当に好きなんだろうなぁと時東は考えてしまった。
特に例の小説を見るゼクスの瞳は優しくて懐かしそうだった。
そこへ英刻院閣下がやってきたのは本の整理が終わりひと段落した頃だった。
「緑羽様、ご体調は?」
「あ、英刻院閣下、大丈夫です。ありがとうございます」
「というよりも鴉羽卿だったとは……言ってくだされば良かったのに……そして病についても……俺が呼び出せなどと言わなければこのような事態には……」
「い、いえ、英刻院閣下のおかげで、こうして時東先生に診察していただくことも叶いました」
非常に悲しそうな英刻院閣下の反応に、ゼクスが慌てたような顔をした。
周囲は英刻院閣下の対応が普通だと理解していたし、これが常識人というものだ。
「鴉羽卿だと存じていて、さらには安楽死処置待ちだと存じていたら、あのようにソファになど決して座らせて置かなかった。自分が悔しくてならない」
「お気になさらないでください、急に押しかけたのは俺ですので」
「いいや、後悔してもしきれない。今後一切の外部指揮および敵殲滅の実戦対応は俺が行う。だから鴉羽卿は安心してこちらにいてくれ」
「ありがとうございます」
英刻院閣下の優しさにゼクスがうるっときた。英刻院閣下も瞳に涙を浮かべている。
それから英刻院閣下はパチンと指を鳴らし、涙を拭うような仕草をした。
するとベッドサイドに巨大なテーブルが出現し、書類の山が七つほどできた。
「ということで俺が外に行く間、こちらのまず右。俺不在の間、宰相代行の一部書類仕事。その次、そう、あと三週間! そうとわかっていたら、こっちを先にやらせていたのに! なぜ黙っていた! しかも座っていた! 馬鹿者! この猟犬関連の仕事をすべてやっておいてください! その次、これは匂宮だ。匂宮の書類を出さないくせをどうにかしろ。その横、ゼスト家。ここからも書類があがってこないんだから全部無論やってから死ね。その次扇集団の歴史まとめ。これはお前にしかできない。だから俺はひたすらお前を探していたというのに何をのんきにソファに座っていた! 外で活動するのは俺にもできるんだからこちらをやれこちらを! そしてこっちの院系譜保有兵器全部まとめ。それから次が貴族院の仕事も一部頼む。最後、これまたあがってこない華族院の仕事だ。お前ならば、こんなの仕事に入らず三十分で終わるだろうが、病気を考慮して数日の猶予をやる。あと、宰相代行と貴族院および華族院は山がなくなったら自動的に移動するから、俺不在の間可能な限りやっておいてくれ。俺はそうであれば安心して猟犬指揮に専念できる」
「えっ」
「なんだ? お前舞洲猊下から宰相代行全部習っているだろうが。他機関もそもそもお前が全部やっていたのが、お前の後任のボケがやってないんだから責任を取れ責任を。かつ扇に関しては最初はリーダーがお前だったし、お前がやり残した事は倉庫整理ではなくどう考えてもこれだろうが! さらに院系譜兵器。あれらは頭にくるほどバラっバラ! さらに猟犬最高顧問に至ってはお前、他のメンバーに今後の指示すらしてないだろうが! なんで猟犬だけ俺に任せた。ふざけるな。俺は顧問ではない。さらに舞洲猊下に大至急連絡を取り確認した結果、貴族院も華族院も万全に仕込んだと聞いた。そしてあと三週間英刻院の血をひくものとしてゼクスならば全うしてくれるだろうと泣いておられたぞ、この不幸もの! 最後までやりきれ!」
「け、けど、時東が仕事は良くないと……」
「この程度の量を仕事だと思うほどお前が無能だと俺は知らなかったぞ鴉羽卿。お前の取り柄は実務能力と攻撃能力と手配能力! わかるだろうが! お前は座っている場合は書類を適度に片付けておく! それは仕事というよりもはやお前の息抜き! 戦闘がお前の仕事であり、書類整理は茶を飲みながら一服しつつやっていただろうが! なぜそれがいまできない!? 手は動くと聞いたぞ!? あと三週間しかないんなら来た初日からソファでやれこのバカ!」
「ご、ごめんなさい……」
「終わらなかったら法王猊下に連絡して終わるまで処置延期を法王猊下権限で直接依頼してもらうから絶対に終わらせろ」
「えっ」
「さらにすぐ終わるだろうし、終わらずとも息抜きが必要だから、その時間はあそこにいる俺の息子の琉依洲、美晴宮朝仁様、ならびに青殿下にこれらの特に宰相代行業務および貴族院と華族院の仕事を教えておいてくれ。そしてお前の死後、この三名で回せるように完璧にしておいてくれ」
「なっ」
「では頼んだ。俺はお前から受け取った殲滅箇所に早速いってくる。それと、橘大公爵および副――若狭には直接システムの件も話しておいてくれ。では、また。体を大切に」
英刻院閣下は最後にロイヤルで高貴な微笑を浮かべると黒色ローブを出現させてまとって消えた。ゼクスは書類の山を見て再び泣きそうな顔をした。
「と、時東先生。ドクターストップとかって……」
「ん? 趣味なんだろ? 趣味、あるんじゃないか! 頑張れよ!」
「え」
「しかも英刻院閣下は、倉庫に行かなくて良い配慮までして、かつ実戦をすべてご自分で……お前のためを思って」
「ちょっと待て時東。お前、口元笑いながら泣き真似しても無理しかないだろ」
「まぁ、なぁ。三週間、ぼーっとしてるよりは、適宜色々やったり、青殿下達三人とお話するのもいいかもしれないぞ? ほら、お前も痛みが紛れると言っていたしな」
「……それはそうだけど、俺は彼ら三人プラス二名の五名の教育も本当にするのか? それ、無理だ」
「いけるいける。ついでになにやら猟犬最高顧問にも指示出しとけとかなんとかだから六人とかになるんじゃないか?」
「……俺、ショック死の前に過労死する」
「即座に医療処置してやるから安心しろ」
「その笑顔やめろ! 腹が立つな!」
「この顔結構大人気なんだけどな」
「お前が医療院行ってみてもらえよ――はぁ。とりあえず簡単な匂宮とゼストからやっちゃおう。どうして真朱様とアルト猊下はサボるんだろう。銀朱様とルクス猊下なら手伝ってくれそうなのにな……そしてエルト猊下が十三歳じゃなかったらもっと良かったのに」
悲しげにつぶやき、ゼクスがPKで書類を二つ巨大なテーブルに載せた。
この程度のPKは使えるのである。
それから懐から取り出した羽ペンをゼクスは右上にひとつ、白い筆を左上に二つ投げ、それぞれの下にインク壺のようなものを起き、パシンと蓋を押した。
すると書類が宙を舞い、それぞれのペンが何やら書き込み始め、完成後整理された状態で、最初の机の位置へと戻っていく。これには時東も、見守っていた周囲も驚いた。
「え、ゼクス様よ、これはなんだ?」
「ん? や、ESPで脳内演算処理して、ESP-PKで自動筆記。まぁ確かに座って頭を動かすだけだから、タバコ吸いながら休憩中にいつもやってたんだけどなぁ」
ゼクスはそう言ってタバコをくわえた。
本来どう考えても三日はかかるだろう一山がみるみるうちに減っていく。
そのまま珈琲を飲みつつ、ゼクスが時東を見た。
「これさぁ、数理IQは完全に適正あるからレクスならいけると思うんだ。元々父上の開発だし。それで英刻院閣下も取得したからおそらく琉依洲伴侶補殿下もいけると思うんだ。それで俺の視覚サーチだと青殿下と美晴宮の若宮様もIQ総合は超えてるんだけど、総合もいけるのかな? 英刻院閣下、多分これをあの三名に教えろってことなんだろうけど、さっきレクスもなんか教えろと言っていたから四名にこれを教えようかとおもうんだけど、時東先生の知識的に彼らのIQとPSYはどんな感じですか?」
「知らん。なんだこりゃ? 完全にお仕事特化の完全PSYじゃねぇか」
「うん、まぁそうなるのかな」
「お前PSYコントロール装置付けてそれなのにESP貯蔵庫から取り出せないの?」
「ああ、貯蔵庫に入れてから腕輪ハメるとダメになる。けど演算は都度頭でだからIQあればいけるんだ。けどお腹空くからこのクッキー達がなかったら俺には無理だった。そしてクッキーには珈琲だけど、なぜなのかライチジュースを飲むと元気が出てくるから不思議だ。このライチジュースはどこで売ってるんだ?」
「俺の自作だ」
「えっ、お前もロイヤル三ツ星かなにかなのか?」
「そんなことはない。そうだなぁ、ハーヴェスト侯爵と英刻院閣下は総合3000で琉依洲殿下達三名もそうだから、その観点から英刻院閣下が後で覚えたというのを加味するといけるだろ。レクス伯爵もそうだったはずだ。ついでにラクス猊下も。この五名は、その3000児童で、最高学府で一緒だったと聞いた」
「あ、じゃあラクス猊下の教育とかいうのもこれでいいな。ユクス猊下にはもっとレクスを守るように伝えればいい」
そんな雑談の内に2山がすぐに終わり、周囲は呆然とした。