20
こうして二人が戻ったとき、ゼクスは集中した様子でペンを動かしていて、それがひと段落したのかペンを置き、珈琲カップを片手に持ちながら顔を上げて、そして、目を見開き硬直した。
そのまま瞬時に赤面し、オロオロと視線を揺らし始めた。
その姿をみて――あからさまに安堵している自分に気づいて高砂は愕然とした。
いつもは鬱陶しかったこの姿が、いつもどおりきちんと自分に、自分にだけ向けられた事実が無性に嬉しかった。
その動揺を押し殺そうと無表情を保つが冷や汗が流れかけた。
うっとりとするように瞳を輝かせて、白磁の頬を桃色に染めているゼクス。
花が舞い散るような微笑がそれから浮かんだ。
ゆっくりと瞬きした目は綺麗で大きくまつげが長い。
――なんて話しかければいい?
高砂が内心で焦燥感に駆られてそう思った時、ゼクスが口を開いた。
「高砂……あんまりよく寝てない時の顔をしてるけど、大丈夫か?」
「……――話を聞いた限り、ゼクスが昨日今日の間以外の睡眠時間よりも過去に眠れていない日は特にない」
「あ、いや、と、特に俺のことは気にしないでくれ。けど……そうか、高砂も王宮の敵が展開していたモニターというのを見て知っているのか……」
「まぁね」
「……そうか。と、ところ、高砂は時東先生と仲が良いと聞いたし、俺もここへと来てからそのように思ったけど、高砂は時東先生はどのような方だと思う?」
「信頼できる医師だと思うよ。友人だからいうわけじゃなく、時東に任せておけば一定の回復が見込めると俺は思う」
「そ、そうか。点滴を一瞬でパッと作り出したり、頭も良く、知識も豊富なところを見ると、非常に努力家でもあり、それはまさに高砂がロステク兵器を一瞬で治せる部分や研究室で文献を漁る姿に近いと感じるけど、どうだろう?」
ちょっとホッとしたような顔でゼクスが穏やかな微笑に変わった。
しかし内心で先程類似のことを考えていた高砂は胸にグサっときた。
やはりゼクスは時東を気に入っていると思うのだ。
それとなく距離を開けた場所で聞いていた時東は腕を組んだ。
険悪な空気が流れたら止めに入れる上に話も聞ける距離だが、なるべく二人が話しやすい位置を心がけた結果である。そして、ゼクス側に自分への恋愛矢印がゼロだというのはよくわかっているのだが、高砂が一瞬表情を強ばらせたのを見逃さなかった。
高砂に関しては、まだ内心がよくわからないのが時東の正直なところだった。
「そうだね。俺よりも、極める能力も高いし集中力もある。さらに言うと俺はどちらかといえば復古や修理、なにより使用が目的だけど、あくまで時東は知識は知識として収集することが主要な目的で、点滴もそうだけどそこから独自に新規開発する応用力がある。分野の違いもあるけど、医師としてだけではなく、研究者としての素養も幅広い」
「なるほど。非常に高砂から見ても素晴らしい医師であり研究者なのか。つまり、頭が良いんだな?」
「まぁね。安心してゼクスも見てもらえば良い」
「う、うん。そ、それと、時東先生は、非常に、あの、イケメンだよな」
ゼクスが何度も頷きながら――そして時東には予想外のことを言った。
いわれなれているが、ゼクスに言われるとは思わなかったし、これには『まずい』と正直思って高砂の反応を伺ってしまう。
するとこちらは――こちらも予想外のことに若干瞳は暗いが表情は保っていて、かつうっすらと微苦笑していた。
「俺もそう思う。時東は顔面の出来具合は、この王宮において英刻院閣下についで俺の評価として第二位だ」
「性格はどうなんだ?」
「恋人には非常に優しく大切にするタイプだという話だよ。時東の恋人は、とても幸せになれるという噂を聞いたことがある程だ。研究熱心ではあるけれど、恋人との時間はきちんと作るという話だったし、恋人が多忙であればそれを優先するそうだし、恋人が体調不良であれば即座に気づいて仕事を休み、自分で看病してくれる。見ていてそれらが噂ではないと俺も思う」
続いた高砂の声に、時東は内心で言葉を探していた。
これは――嫉妬だのではなく、おそらく本日の様子を見ていて自分には実行不可能だが時東ならばゼクスを幸せにしてくれるという判断をしたのだろうと確信した。
その実行不可能の意味合いが、ゼクスが嫌いだから、ならばこんなことは言わないだろう。これまでを振り返り、自分にできなかった負い目としか思えない。
「それはとても良い人だ。高砂は、時東先生を非常によく知っているんだな」
「まぁね。付き合いが長いから」
「時東先生には恋人がいるのか?」
「今はいないと聞いているよ」
「そうか。それは良かった」
その上、微苦笑というか段々諦観した感じで珍しく微笑を浮かべて話す高砂に対して、ゼクスが満面の笑みでそんなことを言った。
これも高砂が自分に向かって笑っているのが嬉しいという空気ではない。
時東は首をひねりそうになった。
ゼクスが高砂を好きなのは見ていても話していても決定的なのだ。
だが、これはどういう流れだ?
「あ、あのな、高砂、聞いていたならわかると思うが、俺と高砂の許嫁関係は長くとも一ヶ月範囲内に解消されるから、もう、高砂は俺のことを何も気にしなくて良い」
「……――ゼクスも、俺を気にする必要はない」
「いいや、それはできない。俺は、だから、その……高砂が気になる。それで死後、先代の緑羽に渡してもらう予定だったんだけどな、こちらの指輪がついた銀の首に下げるチェーン、これが亜空間倉庫の鍵で、あ、あの、お前が、その、好きだった『旧宮殿にて』という小説の地下に出てくるロステク兵器と動作が近いものを作って、そこの宮殿の描写に近い倉庫を作って、地下に収納してあるんだ。管理用生体ロボットも作ったんだけど、俺には王宮ロマンスの意味がわからなくて、恋愛劇機能はつけられなかった……」
「え?」
ゼクスの言葉に虚をつかれて、高砂は目を見開いた。
テーブルの端に置かれた銀の指輪を一瞥する。
それから再びゼクスを見ると俯いて苦笑していた。
「なぜ結婚しているのに三人も恋人がいるのかよくわからなかった。それも登場人物全員がそういう感じなんだ。俺には並行して同等レベルの愛情を複数人に持てる意味がわからない……小説だと、あくまでお話だとわかってはいるが、きっと頭の良い人々なのだろうな……け、けど、服は再現した」
「……」
「それで、この念珠と十字架は、その旧宮殿の地下の他の場所の倉庫につながっていて、いつでもどこでも所蔵物を取り出せるんだが、万象院本尊本院総代権限とゼスペリア猊下権限が必要なものから俺の発掘解読品を含めて、俺の知ってる完全ロステク兵器や技術の資料が全部入っているのが一階分、二階分は、それらとハーヴェスト・ロードクロサイト・匂宮の月宮権限で閲覧出来る完全PSY能力関連の、俺が知ってる兵器や技術の資料が全部入っているから、それぞれ研究と万象院列院総代の武力を高める時に、そ、そ、その……暇な時などに、よ、よかったら、あ、あの、使ってくれ」
「っ」
「あ、あと、一番大切なこと。俺は三つ、この三つをお前に渡したくて」
どれも高砂単独では閲覧不可というか、ゼクス以外に見ることは不可能だろうと考えられる品としか考えられなかった。
何重にも渡る手続きを経て何年も待ち、やっと一冊閲覧出来るような文献類が、ゼクスの言った権限でのみ閲覧出来るものなのだ。
かつ――再現したと簡単に言うが、本来あれらは、研究室で話題になるほどの難解な代物なのだ。
全部高砂が欲していたもので、そしてそれをゼクスは用意してくれていたということだ。
「最後、最後のこれ、これを俺はお前に渡したかった。できれば、三週間以内、長くとも一ヶ月半には全てを見て考えて欲しい。忙しいのはわかっている」
最後にドンとゼクスが何やら一冊一冊が豪華な薄い食事店のメニューのようなものを出現させた。それを見て、高砂、さらに時東も複雑そうな表情で固まった。
「これは、ここに、百二名分、お前の次の許嫁候補のお品書きが書いてあるんだ。け、けど、今、というかここ最近および昨日と今日の話を聞き、さらに今、高砂からも奇跡的に話を聞き、百三冊目となる最後の大本命を見つけたから、それはここに別に置いておく。もうさっきからESP通信で先方の戸籍上の筆頭後見人であり実父相当の祖父とお前側のそのポジション――つまりザフィス神父と銀朱様、そして双方の仲立ちとして緑羽の曽祖父様と英刻院閣下にも話を進める許可を頂き、日取りも決まり、後は籍を入れる段階ですべての手配は整っていて、高砂がOKを出せばほかの百二名もそうだが、先方には断るのが無理な体制を構築済みで、高砂と時東先生のお見合いが決まった。俺の死後、二人は許嫁となる」
「「!?」」
「時東先生は面食いであるとの情報をこちらでつかみ、昨日のお話の中で高砂の顔を評価していたから問題がます消えた。さらに時東先生もまた高砂と仲が良いと言っていた」
「「……」」
「さらにたった今、高砂は俺の前なのに笑顔で、時東先生が恋人だと素晴らしいと語った上、容姿も好みだというし、内面も才能も評価し、そして高砂もまた仲が良いと言った。そして俺から見ても二人はどちらも研究熱心。そこに時東先生側は高砂が熱中しすぎて具合を悪くした時にはご自分のお仕事を休んで介抱してくれることまで分かり、俺はもう嬉しくてならない」
「「……」」
「こんなに良くしてもらっているのに、時東先生に拒否権がないのは申し訳ないが、高砂にはあるけど、できるならば、この三週間以内に正確に次の許嫁としての関係を内定させてくれ。それでこれは、俺の遺産について二分の一を配偶者相当で高砂に渡すんだが、時東先生にもまた同額を捻出したのでお渡しする。二人は永劫無職でも問題なく、好きな研究に邁進しながら幸せな家庭を築けると俺は確信している」
「「……」」
「俺は高砂以外の顔面造形には興味がないけど、そういう観点を心がけて観察してみると、確かに時東先生は非常に容姿が優れていると気づき、こうしてそこに二人でたっているのを眺めると、眼福というか幸せな気持ちになると気づいた。お前たちの子供イメージを脳裏でESP配合作成してみたがもうそれはもう可愛かった。これからが楽しみだ」
高砂は言葉を失っていた。
無論、そういう意味で言ったからではなかったからだ。
ゼクスと時東がお似合いだから安心して付き合うといいという意味合いだった。
そして時東は冷や汗をかいた。
うっとりした様子のゼクスを見る。
――高砂と全くこちらも同じ思考回路だったわけか、と、理解した。
さらにたちが悪いのは、ゼクスは完全に高砂優先だから、既に完璧に外堀を埋めきっていて、時東側には真面目に断る権利がなさそうなのだ。
ゼクスが出現させた時東用の書類を受け取り一瞥したが、高砂が仮にOKを出した場合で時東が拒否をするのは無理な体制が本当に完璧に整っているのだ。
さらに時東がOKを出した場合は、遺産どころか研究費等資金や研究施設その他色々がくっついてくる時東にとってもかなり美味しい条件が満載となっている。
どう考えても、ゼクスは本気だ。
「――ゼクス様よ。確かに俺に断る権利は高砂がOKを出したらなさそうかつ、非常に高砂が配偶者となるという一点を除けば魅力的な条件盛りだくさんなんだけどな、残念ながら、俺も高砂も抱かれる側ではないため、子供は生まれないし、俺は結婚するならば子供が欲しい」
「その場合に備えて代理母の手配も万全だから、時東先生は何もお気になさらなくて良いし、これまで通り、双方、そういう面は別途解消すれば良いだろう」
「俺は愛がある家庭でなければ結婚は嫌で、実を言えばゼクスと同じ考えで結婚したいほど好きな相手が居る場合、他と関係を持つのは論外であるし、つまり結婚する相手と関係を持ちたいわけだから、その観点からも高砂はありえないし、仮に俺が微塵でも高砂を好きだったら、とっくに告白して恋人になっている。そうしていない時点で俺側からの高砂への、友人として以外の好意がゼロだとわかるだろ?」
「これから生まれる可能性もあるし、高砂側はわからない!」
「俺側からこれから生まれる可能性はほぼゼロだ。その『ほぼ』というのは、何事にも可能性は砂埃一粒程度は存在するという客観的な意味であり、理性的にも感情的にも俺の意思ではゼロだ。けど何、高砂、お前は俺を好きになりそうなのか?」
「……」
「おい、嘘だろ!? なんで黙るんだよ?」
「時東先生。高砂は、俺よりは断然ましだと正式に理解しているんだ。許嫁というのはそういうことだ」
「待て待て待て。ゼクス、それは違う。高砂は余命幾ばくかのお前の願いならば、叶えてやるほうが良いのか検討中なんだ。つまり、今ここで高砂がOKを出したらそれはお前の病気への同情だ」
「――別にそれでも良いだろう。時東先生、高砂は非常に優しくて繊細だから、同情するほど気にかけてくれているのかもしれないから、精神的に支えてあげてくれ」
「……――おいこれさ、高砂がOK出せば、途中で許嫁解消したり離婚してもいいのか?」
「高砂がOKを出すならば良い」
「ふぅん。なら条件的に俺には確かに悪くないな。高砂兵器先生、ゼクスが死んだら俺と許嫁になるかね?」
「……」
「ゼクス、ちなみに他の百二名はどんなのなんだ?」
「うん、ええと、高砂が好きそうな頭の良さそうでこうテキパキ動ける人間からテキパキは動けないが頭は良い人間で、かつ外見好みが把握できなかったから世間的評価で美形と呼ばれるあらゆる方向性をよりすぐりで選んでおいた。家柄もばっちりだ。きっと一人くらいは気に入るだろう」
「これまでにその中でのゼクス的な高砂への候補で俺が知ってる人間はいるか?」
「ええと、筆頭は桃雪匂宮様だ。桃雪様を好きだという橘宮様には申し訳ないが、高砂はとても仲が良いから桃雪様が良いだろうと俺は思っていた。そこへ現れたのが時東先生だ。恋人もいなくて良かった。あとは、橘大公爵。彼は現在配偶者を亡くされてお一人だ。この場合、ハウスキーパーも手配済みなので、子供に関する心配もなく、二人はロステクで気も合うようだと俺は判断している。それからラクス猊下とユクス猊下に関しては、レクス側の候補と重複だ。ただレクスに関しては見合い手配等はなく、ハーヴェストは恋愛結婚を推奨しているから、ただの候補だな」
「それさ、俺もそうだったわけだが、相手の許可とかあるのか?」
「見合いは相手の保護者の許可があれば良い。保護者許可は全てある。そしてレクスと高砂の間の許可もある。だがこの三名に関しては別枠となっていて、レクスも俺はレクス本人の希望を優先したいから入れていない。唯一断られたのは英刻院閣下の琉依洲様への打診だ。英刻院も恋愛結婚だそうだ」
「なんというかスペシャルVIPを揃えてあるわけか。いやぁそこに加えられたことを俺は誇りに思うべきなんだろうが……うーん、ゼクスが高砂とこのまま結婚するという選択肢はないのか?」
「無い! だから時東先生も高砂も安心して恋を育んでくれ!」
「ほう。ゼクス様の見解は良ーく分かった。で、高砂は? いい加減喋れ」
「――一部、それこそ時東込みで学者としてだとかも含め、個人的に友人関係等を構築できる人間が入っている以外は全てゼクス以下の興味がわかない人間の大量の釣書を渡されてもね。ゼクスより最悪なのばかりだ。そして俺も時東と同じで友人関係だのを構築できている相手の中に恋愛的興味がある相手がいたら、とっくに手を出してる」
「お、俺以下……? 高砂、俺よりダメな相手がこの世に存在するのか……? ちょっともう一回きちんとESP把握ではなく肉眼でじっくりと写真を見て、釣書も読んで、俺による性格調査書も熟読してくれ。忙しいのはわかるけど」
「だから読む気にもならない相手の集合体だと言ってるんだよ。ゼクスのがここに混じってても読まなかっただろうけどね」
高砂がそう言うと、見合い写真が全部燃えて消えた。
完全PSYで高砂が燃やしたのだ。
するとゼクスが泣きそうな顔になった。
時東が持っていた高砂と自分の釣書二冊と遺産等に関する書類の封筒のみ残っているが、高砂側にあった同じものは、遺産分も含めて全部燃えた。
おそらくこちらは複製予備ではあるが、通帳すら燃え尽きて、残っているのは最初に高砂が受け取り身につけたアクセサリー二つだけだ。
「弟のレクス伯爵には自由恋愛させるんだから、俺を許嫁関係から解放すると言うんなら、俺の方も好きにさせてもらえるかな? 以後二度と、俺にこういうの渡さないで。そういうところが死ぬほどイライラするんだよ」
「……ごめん」
高砂の激怒している瞳と冷たい空気に、しゅんとしたように、悲しそうにゼクスが俯いて謝った。
高砂の激怒理由は、口に出している内容ではなく、ゼクスが自分以外を勧めている点だと見ていて理解している時東ですら、高砂の怖さに背筋が凍った。
そして時東は、高砂も理解しているはずだとは思いつつ、ゼクスがそれだけ幸せに恋する高砂を見たいのだろうと改めて判断した。
だから当初、高砂も無言で、一時、時東との契約的許嫁を思案したのだろうと考えつつ、場を見守る。
なにせ結果として、高砂はそうすることを選ばず、他の誰かとの見合いや許嫁も無いと断言したに等しいからだ。
しかし――ゼクスもそれらと同レベルだと言ったに等しい部分は、照れ隠しだとしてもいただけない。
完全にゼクスは自分がダメだと確信していて、他の人々も高砂にとってそのレベルだったのだと判断している感じがする。
「そしてゼクス。はっきり言うけど、俺は、ゼクスと時東が良いと判断したから、先ほどコレを褒めたたえた。優秀な医師部分と研究者部分は本音だけど、それ以外は俺はどうでも良い。ただ恋人に優しいという評判は聞くから、ゼクスが時東を選ぶべきだ」
「「え」」
そして続いた言葉に、思わず時東とゼクスの声が重なった。
その発想はなかったという顔でゼクスは目を見開いているし、時東はこの高砂の内心を推測してはいたが、まさか本人に言うとは思わなかったのだ。
「それは無理だ。いくら高砂の頼みでもそれだけは無理だ。俺……高砂が良い……高砂以外と許嫁なんかいやだ……」
「俺も無理だ。理由は三つ。第一に、俺は病状に問わず、医師観点で知り合った相手等は基本的に恋愛対象外になる。第二に、たとえうまくいってなかろうが契約上であろうが、俺の中で友人の恋人・婚約者・配偶者、今回で言うなら許嫁というのはその時点で恋愛対象から外れる。第三、俺は誰かに恋している人間がもう範疇外。全部満たしてるゼクスは俺の中で恋愛対象および恋愛可能性で言うなら高砂未満。二択で選ぶとして高砂だ。そして高砂は俺の許容範囲の中でギリギリ範囲外枠線上にいないことはないレベルのただの友人だから、つまりお前ら二人とも俺基準でありえない。俺側はゼロ。俺にとってゼクスは高砂以下。外見と性格だけ抜き出すなら高砂よりゼクスが良いがそれ以外で全部ダメ。お前らのどちらかと結婚しなきゃならないなら、政宗下僕氏をいいくるめて婚姻届にはんこ押させるレベルで無理だからな。まだアレの方が俺の中でお前らよりマシだ」
「時東先生、政宗先生は良い方かもしれないが、高砂はとってもとっても良い人間だからそんなことを言うな!」
「無いつってんだろうが! お前と高砂は俺の中で可能性ゼロだボケ! むしろ高砂が燃やした見合い写真の山、全部俺にそっくりよこせこのバカ! 俺にはあれは宝の山のように見えた!」
「あれは高砂用だからダメだ!」
「――ゼクスはそんなに俺に許嫁を新規作成して欲しいの?」
「というか、恋人と幸せそうにしている高砂を見てみたい……」
「へぇ」
高砂に対しては少し大人しい声で気弱そうに言ったゼクスに、高砂が冷淡な声を返した。
そして――歩み寄り、ゼクスを横から抱きしめた。