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「ギリギリレベル3の測定値だが、ほぼレベル4に等しく、生体モニターに入れてある完全PSY血統医学からの測定色も正常範囲赤をまた超えていて、昨日の暗褐色じみた紅よりはずっと良いが、かなり暗めの紅色になってるな――……ショック死はしないが、激痛と言って良い。高砂ご指摘の貧血データと照合してみたが、貧血悪化時付近ではレベル4だったと推定できる暗い紅に橙っぽい色相の記録になってる。お前、なぜその時、痛みを訴えず、砂糖の増量を俺に頼んだ?」
「……だって、俺からすれば、確かにちょっと痛みが戻ったけど、今までに比べたらほとんど痛くないのと一緒で……砂糖は完全にないのと同じだった……」
「馬鹿者。今後は砂糖だけでなく、コレも言え。これまでとこれからは違う。お前は俺の手によりペインコントロールおよび治験をしているのだから、痛みの対処が俺の仕事でお前に砂糖を運ぶかかりではない」
「は、はい……ご、ごめんなさい」
「ああ、まったくだ。俺にはそうやって素直に謝り続けていいからな」
「う、うん……」
「食欲は?」
「すごくよくある。昨日と同じだ――高砂と一緒という意味では緊張で少しない」
「なるほど。卵とサラダとカツと刺身とうなぎはどの程度食べたい?」
「全部ありったけ食べたい」
「とすると貧血と栄養失調状態は、人間レベルに戻ってはいるが、ギリギリ人間だということになるな。きちんと食べ続けるように」
「ああ。ありがとうございます」
「痛みが強くなったのは、今日はわかったんだな?」
「うん。これも、逆に記憶にある限りすごく久しぶりで、痛いのは嫌だけど逆に驚いた。嬉しいという意味でだ。前は全くわからないくらいだったというか、わからなかった」
「なるほどな。貧血に関しての自覚症状は? 動いていないから、難しいかもしれないが。激甘ココア等が欲しくなるのを除いて」
「……そうだな……何度か、こう、砂嵐のようにクラクラはしたな。だけどこれは毎日何度もあることで、逆に頻度が減ってるから良くなったと俺の方は感じた。あと、動悸と息切れはしたけど、これは薬で良くなったからなんだろ?」
「砂嵐も次から俺に言え。動悸と息切れは、そのとおりだ。ちなみにそっち系の痛みは?」
「――言えと言われても、そうなってる最中は言葉が出ないし、なる前はわからないし、なったあとは息をするのに必死になるし……しかも、いっぱいなるから一々いうのは大変だ……」
「じゃあここに、この叩くとチリリーンとなるベルを置いておくから、なった直後か終わってからで良いから押してくれ」
「わかった!」
「で、痛みは?」
「……そ、その……息をすると胸はツキツキと痛いけどこれはずっとだ……もう何年も前から常にだ。あと心臓がたまに握りつぶされそうになるけど、これは砂嵐と同じように一日に何度も急に来る。そしてそうじゃない時も、常にキューっとなっていて痛い。昨日までは他の全てがもっと痛くて気にならなかったんだけどな、それが楽になったから、確かに言われてみれば、それは今日は逆に意識して気になったけど……でも、いつものことなんだ。時東先生だって、いつも酸素を無意識に取り入れるだろ? それと同じだ」
「同じ訳ないだろうが。じゃあこっちの緑っぽい銀のベルは心臓の時に鳴らせ。一回一回きちんとだ。誰もいなくても記録を取れるから、絶対にだ。実験に付き合うといったんだから、それはやってもらう」
「わ、わかった……」
「まぁ確かに激痛で他の痛みが自覚できなかったり吹っ飛んでいたのは仕方がない。だけどこれからもっと他の痛み――過剰症に誘発刺激されたPK関係からのダメージが落ち着くと、そのように自覚できる事柄が増えてくる。それは良いことであり、その他のPK系よりも対処がとても楽なもので、お前はそれを俺に訴えれば、痛みが和らぐとちゃんと理解しろ。黙っているよりずっと楽になる可能性が高い。これは良いか?」
「う、うん! ありがとう! いう!」
「他に自覚できた身体症状は?」
「……怒らないか?」
「場合によるが、怒鳴りつけてぶん殴るようなことはしない。だが、言わなければ高砂とレクス伯爵に安楽死処置停止手続きをさせる可能性がある」
「それだけはやめてくれ! それなら怒鳴りつけて殴ってくれ!」
「ふむ。では言ってみてくれ」
「……今日目が覚めてから、ここまでに、七回血を吐いた」
「っ」
「け、けど、こう、時東先生も含めて、なんだか心配させて悪いかなと思っていつもなら咳と一緒に吐くんだけど、今日は咳を止めて、口の中で血を消失させた……」
「……なるほど。俺も吐血がない事どころか咳がないのが不思議だったから後で聞こうと思っていたので、自己申告したことに免じて、怒らないでおく。だが、俺を心配させたくないならば、今後はきちんとこれまで通り、咳をしてそのまま血も吐け。周囲には心配するなと言っておくから。それでその場合は、ここに赤っぽい銀のベルを置くからそれを押すように。いいな?」
「うん。ありがとう……そうか、不審に……時東先生は本当に名医だ……」
「まぁな。それで血の色から確認したいこともあるから、血は保存してくれ」
「わかった」
「頻度やその際の痛みは?」
「不定期だ。完全に不定期。痛みは、痛みというかこう息ができないようになることに必死で、そちらにばかりいつも咳をすると気を取られているからあまり良くわからない」
「昨日までと今日の量に差はあるか?」
「……わからない。毎日大体十回くらい血を吐いていた。そんなに多くない。咳だけだともっと出るんだけど、この咳は昨日からあまりなくて、前も点滴をしていると咳は減っていたんだ。だけど血をちょっと吐くのは、体感的には点滴中も昨日までおよび今日もあんまり変わらない。これだと三日から五日に一回くらい、かなりたくさん血をこれまでは吐く日があったんだけど、それを見た方がいいのかもしれないな……いっぱい吐くけど、別に痛くはないからあんまり驚かないでくれ」
「安心しろ。大量吐血レベルで驚くような細やかな神経を俺は持ってないから。それ全部、血は赤い? それとも黒っぽい?」
「バラバラだけど、いっぱい吐く時は、黒っぽかった」
「とするとそれは肺からの喀血可能性が高くて昨日からそれの処置をしていて、データ的には少しよくなってるから、大量吐血の時に、血の量がこれまでよりも減るか、そもそも大量吐血がない場合もあるから、そこを確認してくれ」
「え! そんなことができるのか!?」
「俺は職業お医者様であり、今現在治療を行っているのですが何か?」
「過剰症以外も? 肺に血が溜まっているとわかっていたのか?」
「過剰症由来の身体病状は全て過剰症治療に含まれているし、もちろん肺機能はチェックしてるから分かっている。分かってないとしたら、それはヤブ医者と呼ばないとな。悪いが俺は天才的でまさにゼスペリアの医師だとしか言われん」
「す、すごい……わ、わかった! 絶対にいう!」
「それで良い。他の身体症状は?」
「――歩いてないから正確には言えないけど、今日は上半身は起こせるようになったし腰にも力が戻ったけど、下半身……全部感覚はあるし、折り曲げてみたら指とか膝とかは曲がるけど、力が入らないような感じがする」
「それは治療が効いてるからだからOKだ。上半身と腰と同じように、段々動くようになる。主要臓器がある上側の筋肉組織から先に治癒してるからそうなってるんだ」
「そうなのか……後さっき、ペンを持って思ったけど、逆に皮膚は痛みを感じてない気がするけど、これは?」
「鎮痛剤の効果だ。だから、うっかり怪我しても気づかないからご注意を」
「なるほど。わかった。あ、あの、その鎮痛剤は頭痛には効く?」
「頭が痛いんだろ? じゃあ効いてないんじゃないか? シュークリームの方がお前的には効いてるんだろ?」
「……うん。けど別に、時東先生の薬がシュークリーム以下と言いたいわけじゃない」
「そういう部分の気遣いは、高砂が言うとおり俺にも不要。むしろ実験の邪魔だからはっきり言ってもらったほうがいい。そのほうが俺のためになる。どこがどんな風に痛い?」
「ええと、三種類あって、一個は肩こりと同じ時に頭に輪っかがはまったようになるんだけど、これは昨日、時東先生が弛緩剤だといっていて夜は睡眠薬になったPSYを流す点滴をしてもらっていると無くなる。まずこれだけで、頭痛と肩こりがすごく助かった」
「ほう。後の二種類は?」
「いっこは、ここ、左のこめかみと額の間くらいがツキツキ痛くなる。これが始まると、左の手のひら半分位も痺れて、左の肘の関節も痺れるんだ……けど、今はこれはしない。これがするのは、十日に三回くらいだ」
「――ちょっとそれは気になるから後でもう一回検査するけど、おそらく昨日話したバリバリのガラス。ヒビがそこど真ん中なんだ。お前その時、PSYなにか使った後じゃないか? 自覚があるかどうかだけでも知りたい」
「……――言われてみると、ESP広域システムにESP-PKを全体規模で流した日が多いかも知れない……だから同時にOtherによる無意識治癒も増量されてる日となってると思う……あれは五日に一回ほど使ってるんだけど、最近は敵集団が多いから丁度十日に三回くらいだと思う。だけどそれを使った直後じゃなく、記憶の限り数時間後から場合によって翌日とかだ……」
「影響は即座に出るとは限らないからな。それが一つの原因である可能性が非常に高くて、これの処置もガラス接着剤のごとき点滴をしているから、一応行っていて今後は使用しても頭痛は少し軽くなるかもしれないが、治るまではやらないべきだ。お前以外にできるやつは? 手配してあるんだろ?」
「英刻院閣下に渡してあるし、今日若狭さんに渡したものだ」
「よろしい。最後の頭痛、それが今もしてるんだろ?」
「うん。これも常にしてるんだけど、呼吸と一緒で他が軽くなったからより意識した感じで、正直、これはもっと痛い時があるからまだ今日などは楽な方だ。なんというかだな、頭の中心部の中身が痛いんだ。他が痛くなかった頃、これのみで頭部を拳銃でぶち抜きたくなるほど痛いことがあって、群発性頭痛の検査をしたことがあるんだが、それではなかった。実はこれ、その……ロイヤルパックというのかな、その豪華なキラキラの点滴をするとひどくなるんだ。だけど今回のいつもより綺麗に中身が分かれてる時東先生オリジナルのだと悪化しない。それがとても救いで嬉しい。けど軽くなったわけでもないんだ」
「ふむ、とすると、今までの違いは、特殊メルクリウス型PSY血球と統一亜ゼクサ型PSY血晶体だから、どちらかということで、かつ前者は血核球点滴にも入っていて、後者に至ってはその複合かつ血晶体からのオリジナルの増強剤の虹色点滴をしているわけであり、それで今、痛みに変化がないとすると、その二つがロイヤルの内容プラス痛み緩和に聞いているんだろうな――……前者ならば青・緑・赤をくっつける機能、後者ならばそれらを整理しておく機能、そのどちらかあるいは両方が原因可能性が高く、およびロイヤルパック自体への濃度調整灰色の効果も出ているんだろう……表層および断層亀裂だけではなく、濃度も調整だけじゃなくて維持保護、かつ最初の二つの治療および両方の補助がいると思われる――し、そうすると、ちょっと頭痛が軽くなる可能性がある。これならば慢性化しているのも納得できるし、頭ぶち抜くほどの痛みが出ることも俺の頭で今立てた理論的にはあり得るし位置もあってる。ので、ちと、実験確認を込めて、見せてくれ」
「あ、ああ……そんなのが分かるのか……すごいな」
「名医ですから」

 驚いた様子のゼクスの前で、時東は微笑して扇を取り出しバサリと開いた。

 すると最初に、以前と同じガラスの断面が一つ、その横にひび割れた黄色から茶色への断層がひとつ、水のような水面がひとつ、ここまでは見たことがあるものが三つでた。

 ただ、最初の二つはロステクモニターに出ているものが、今回は完全PSY血統医療で出たため、より写真のようなリアリティがある。

 それをひらひら扇いでから、バサバサと二度閉じたり開いたりすると、その下に別のものがみっつ出た。

 二個ずつなので最初のものから含めると三列だ。
 二段目のもうひとつには、地層に似ているが今度は白から濃紺へとかわる水のようなもの、三列目には、渦を描く虹でところどころ歪み黒い亀裂が走っているものが左、右には正方形の左上がゼスペリアの青、右下が朱匂宮原色、中央の斜め横線が万象院緑の色があるのだが、これはギザギザに所々が飛び出したり凹んだりして、混ざっていた。

 時東は左手を動かし、銀の台を出現させると、生体液パックもいくつか出した。そしてまずひとつめの上を扇を閉じてから叩いた。

 すると黄色から茶色のものがそのまま入り、こちらはモニターのように上から順に規則正しく並んだ。

 それから扇を開いて仰ぐと黒い亀裂の部分が、銀色に染まった。
 明らかに使徒ゼストの銀箔だった。

 続いて時東は扇を一度閉じて少し開き、じっとガラスを見たあと、その下の水面を眺め、それから横の水色から濃紺に変わる海のようなものを見た。

 そして扇をバサリと開き、再び閉じて、こちらもパックに振り返りバシンと叩いた。
 するとこちらも規則正しく白から濃紺までに線になって変わっていくパックが出来上がった。

 時東がそれを見て頷くと二列目までのモニターが全て消え、時東がさらにもう一つ叩くと、そこには薄青緑の水面点滴そっくりだが今度はより深海色の青い波紋の点滴ができた。それから再び時東は振り返り、残りの二つを見た。

 ――まずは虹だ。

 先程で言うところの後者。
 やはり、力の調整バランス機能が落ちていたのだ。
 先程までの作成パックで濃度調整や、それ以外の根本対処は完璧となるが、本来こちらはよほどのことでは傷つかない。

 これは過剰症が原因というよりも、力の使いすぎだ。

 膨大な威力のPSYを、病気で不安定な状態で酷使した結果としか言えない。
 前者と言える側の三色がギザギザになっているその横に関しても原因は同じである。
 しかしとりあえず、虹の処置が問題だ。これは、理論で考えつくに、メルクリウス・エメラルド――つまり、花王院血統などの血球による100パーセント維持の方が、メルクリウス・アメジストであるロードクロサイト等よりも、まず整理前に歪みを正す時にふさわしい。

 緑は整形効果、紫は柔軟度維持という特徴があるようなのだ。
 そこにロードクロサイト因子である血晶体は必須。

 そして生体が紫だから緑を同化させてかつ効果を発動させるものが必要となるわけで、それには何が良いだろうかと時東は思案した。昨日食べていたシュークリームが頭に浮かんだ。先程の情報もふと浮かんだ。

「ゼクス、真面目に聞くけど、シュークリームを食べるとOtherが青緑になったりするか?」
「え? ああ、あれを食べるとほっとして、ちょっと青緑というか、淡い優しい緑が出る時があるな」
「なるほど。超論理的だったみたいだわシュークリーム。なるほどなるほど」

 時東は一人納得した。
 シュークリームの上にかかっていた砂糖代替調味料である白い甘い粉。
 あれが生体的にゼクスの体内で紫の一部を緑に変換してこれまで自主対処してきたのだ。

 とすると、それで生体に同一化できるのだから、あの調味料は医学的にはDD7e6という血糖保持成分を持つとされているから、それを使用すると変換補助できるのだ。

 頭の中の構成でも、血球はそれで変化する。
 かつ、あの成分は味覚刺激としてもそうだが、刺激変換の際以外には反応が何も出ないから、逆に痛み対処時以外は緑を勝手に紫にするし、痛みの場合は直球で緑にするはずだ。

 そしてここまでの三つは同じパックに入れて矛盾しないし、調味料のものは、それ自体が他の薬品を精製するための基盤パックとして存在する。時東はそれを出現させて扇を開き、二度振ってから、バシンと叩いた。

 するとまず中央が黒曜石で周囲が虹という、既にしているものに似ているものが出来上がった。

 その隣に、緑を保有する橘の生体血液パックを出現させて扇を振り、透明で時折ピンクと緑に輝くからかろうじて存在が分かるものを、そのまま新しい薬液へと振り下ろすようにした。

 結果、黒曜石部分が透明になり、虹色の枠の中で、黒とピンクと緑の粉が時折輝き、シュークリームの上部の砂糖と同じである白い粉もまた時折舞うようになった。

 これで歪み補正は良いとして、ここの部分の亀裂が次の問題である。
 時東は橘の血液パックを消失させてから、改めて画面を見た。
 これはPSY地層と異なり、ゼストの銀箔の万能効果でどうにかなるものではない。

 勿論あれすら非常にロイヤルかつ貴重で絶賛品なのは確かだが、こちらの方が時東から見ると難易度が高い。

 他の処置を続ければもちろん塞がるわけだが、一番痛いのはこれで間違いないし、対応すべきで待っていられるものではないのだ。

 そこでふと、ハーヴェストと匂宮関係者の肉の素材そのままの料理が好きだというのを思い出した。

 共通点はPKの強さだ。
 酷使するのも主にこの部分だ。
 カツはPKによる全身の痛み止めだとして、そもそもの基本の肉が好きな理由はそれではなくPSY消費形態の問題である。

 おそらく見てはいないが、他の人々も虹色ではないだろうが、この部分を強く使うから補うために肉類をとっているのだ。

 それに関してはPSY血統医療で研究対象の一つにもなっているから確実だ。
 ローストビーフ、鳥のタタキ。
 どちらもそうだが、生に近い肉類。
 これなのだ。

 PSY医療的に言うならばあれらは、薄いピンク色の色相のPSY-Otherを放っている。
 時東はバチンと指を鳴らして、それが大量に入っているロイヤル栄養剤の一種を取り出した。

 これは本来、PSYを使いすぎた者に使用するもので過剰症への治療は聞いたことがない代物なので、眺めていた知識あるものは少し首をかしげた。

 だが時東は満足そうに頷いた。それから振り返り、虹色モニターを消し、最後の一つを見た。

 これが非常にロイヤル級の難題だった。

 虹モニターもそうだったが、普通この二つなど、先程の海のものより確認する機会は少ない。

 海の方は念を入れた場合には症状により見るが、この二つはほぼない。
 通常過労で見るものであり、単純な過労では無論、こういう状態にはならないのだ。
 そうなる前に他の身体疾患で入院だ。

 さてこちら、完全にくっついてはいるが、くっつきかたが異常としかいえないし、凹んで突き刺さっているのだから一度は離れたとか弱まってそこに通常部分は効果がそのままだから突き刺さったとしか言えない。

 まず時東は指を鳴らしてゼストの銀箔のみが煌く点滴パックを取り出し、昨日取得して保管してあったルシフェリア・ルビーに輝く混雑型PSY血核球を、血核球点滴パックを出現させてそちらから扇で移行した。

 結果生体液も移動し、ほぼ全てが銀と金、時にルビーの輝きを放つ粉が舞う代物がひとつ出来上がった。

 これでまずバラバラのギザギザの整理が完璧になる。

 そこに必要なのが色相濃度調整とバランス調整だ。
 再度モニターをじっと見据えて、時東は扇をふった。
 するとその隣に、縦に三つのモニターが出現し、横に円がひとつ出た。

 銀が強く少し水色味が強いゼスペリアの青、金が強い濃い原色の赤、金が強く濃くさらに少し暗い原色の緑、どちらも現在の状態で通常時よりも薄かったり濃かったりするわけである。

 それを隣の正常な生まれながらの円と比較し、まずバサバサ五回閉じたり開いたりしてから五つの生体液パックを時東が叩いた。

 すると暗めの銀色オンリーと明るめの白金色オンリー、さらに青・赤・緑のそれぞれが宝石のように輝く点滴が出来上がった。

 それから一度開いて、閉じた時、もう一つが、若草色になり白銀の粉のようなものが時折輝くものがひとつ出来た。

 これでそれぞれの色相濃度調整が完璧となる。
 あとは比率だ。
 円環を見る限り、生まれ持ったものは完璧で現在の比率も完璧だ。

 とすると、維持するそれ自体で痛いのだ。受容体変貌でなくとも、円環維持とは自力PSYで行うから、PSY受容体がある限り常に行っているので、その機能が崩れることは無論あり、その代表例もまた過労や肉体の酷使である。

 これが崩れるとめまいが起きるし、風邪のようになる。
 これだ。
 鴉羽卿とゼクスに関しても、めまいはこれではない。

 ザフィス神父が気づいているか否かは不明だが、おそらく気づいているはずだ。
 水分を吸収していないクルトンを構成している小麦粉と粉チーズが含有しているカビ、この二つのPSYが混ざると、PSY医療的には円環維持補助効果があるPSY-Otherが出現することがわかっているのだ。

 考えてみるとシーザーサラダは、非常に優れた食べ物だったのだ。
 あのOtherは青紫と薄紫のカプセルのようなものが複数、濃い紫の中に浮かんでいるというもので、まさにその状態での医療用点滴が存在する。時東は指を鳴らしてそれを出現させて頷きながら、不要だった残りの生体液パックを消失させ、扇を振り、モニターも全て消して、扇をしまいながら点滴台を出現させた。

 新規作成点滴は、黄色地層にゼストの銀箔が1つ、海のような地層が1つ、海色の波紋が1つで、まずは3つだ。

 それから、虹色の枠の中で、黒と白とピンクと緑の粉が舞う歪み矯正点滴が1つ、薄いピンク色の過労用ロイヤル栄養剤点滴が1つ、こちらは歪みない亀裂の修正用で、この対処としてはこの2つ。

 さらに、ほぼ全てが銀と金、時にルビーの輝きを放つ粉が舞うという非常にキラキラしたPSYの整理補助の点滴が1つ、その調整用の、暗銀・白金・宝石のような青・赤・緑の5つ、緑のみの特別処置の白銀の粒が時折輝く若草色が1つ、こちらは逆に赤の濃度調整にもなる、そして円環の維持調整補助の青紫と薄紫のカプセルのようなものが複数、濃い紫の中に浮かんでいる品が1つで、こちらの処理に合計十三個が出来上がった。

 ここまでの三台目までで二十五個の点滴だったので、上に四、中に四つ、下に五の金具つきの点滴がそこに加わり、合計三十八個となった。上四つには、黄色地層、海地層、水面の海色、虹枠内にピンク・黒・緑・白い粉の点滴である。

 二段目には、薄いピンク、銀金ルビー、カプセル浮き紫、若草色の四つだ。
 そして最後の三段目には、暗銀、白金、宝石的な輝きの青・赤・緑で5つである。
 時東は、ゼクスの首に太い針を刺して、まず一番上四つが接続される点滴をつけた。

 その少し下に二段目の全てに繋がる点滴を刺した。
 鎖骨直前だ。それから、手の甲にもう一個付け足すことにしたらしくそこに最後の針を刺して、三段目を全てつないだ。

「気分は?」
「……時東先生……すごく増えた……」