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「治験実験に付き合ってくれるんだろう? 俺も今奇跡的な症例を見た上、新薬を二つもお前用というよりも、今後の応用可能品であるから喜びながら作ってしまった。この海いろ波紋と海地層は、今後広まるだろう。黄色地層はお前以外、ゼストの銀箔が入ってるから無理だけどな。まずこの三つは、昨日までのものの強化補助だ。ガラスの接着剤強化とガラスも強化というところだな。で、上の最後のと二段目と三段目。これが、PSY円環の補助維持と濃度バランスおよび全ての整理整頓をする代物だ。薄ピンクとカプセルは簡単に言うなら疲労回復用のPSY復古医療栄養剤なんだけどな、まさにシュークリームとシーザーサラダ、さらにローストビーフおよび鳥のタタキには、医学的根拠がばっちりあった。すげぇよ。全部必要だから完食を心がけろ」
「そ、そうなのか? 役に立ったのは良かった。けど、食べ物がなんなんだ?」
「とりあえず美味しく食べておけ。さっきも言ったが疲労回復効果のOtherがあるんだ。で、これはだな、本来無論、おうちで美味しく食べると必要な人間には効果があるという代物で、医療用であっても過労で倒れたりPSYの使いすぎの過労死というか疲労回復に使う。が、これまで他の痛みや症状でチェックしてなかったんだろうし、普通自己回復Otherがあったらああはならんし、なる前に他で死ぬという、それこそ青異常意外じゃレベル7に行く前に死ぬのと同じで、お前のお体はだな、現在、本来ならばPSY枯渇による過労死をしているのに生きている状態だった。無論、量が多すぎて枯渇はしない。その代わりにごちゃごちゃ状態になっていてバランス機能が崩れて色相が乱れ、円環維持に労力をかなり使うという状態にあった。さらにそれを一本線で表して円形にして表現すると線自体が歪んで整理がギリできてるものの大規模な亀裂が入り歪んでるという、これまたPSYの使いすぎの異常な状態となっていた。頭痛の原因はこの二つだ。つまり過剰症ではなくお前のその頭をぶち抜きたくなる頭痛の原因は、過労。PSYの使いすぎ。これが決定的だ。これよりはるかに軽い状態でもねたきりりになる頭痛が同じあたりに出現する」
「っ、え、か、過労!?」
「そう、過労。働きすぎです。PSYを使いすぎです。ある分を使えば良いというのはわかりますが、連続で使いすぎ。体を酷使しすぎ。そうじゃなきゃこうはならん」
「……」
「いいか、それもPSY-Other部分ではない。PK-ESPを使いすぎ」
「……」
「つまり過剰症に対する自己回復等ではなく、完全なる過労だ。病気でもなんでもないが、過労により病気になったわけであり、しいていうならこれは、走りすぎて半月板をぶち壊した陸上選手のようなものだ」
「……」
「よって怪我に近いので治る。点滴をすれば、その頭をぶち抜きたくなる頭痛は、治る」
「……本当に?」
「ああ。過剰症と違ってこれは治る。ただしお前が、無視して働いて異常に仕事をしない上で治療を受けるならば、だけどな。使用完全OKは、PSY知覚情報取得等の自然な能力の発動と、過剰症への自己回復治癒および痛覚遮断コントロールのOtherはまず良い。だが、他は、亜空間倉庫の使用による出現と収納、さっきみたいな演算だのというの、ESPによる各方面への連絡、全て緊急時以外やめろ。治ったら全部好きに使って良いが、そうであったとしても今後、過労死しないレベルで使用し、膨大な力を使ったあとは、必ず今始めた頭痛治療点滴を疲労回復も兼ねてやったほうが良い。まぁ三週間、外での敵殲滅等は英刻院閣下指揮で他がやるし、倉庫から必要なものってなにか常備品であるんなら先に言ってくれ。用意の手配か、今のうちに俺許可で一瞬だけ出す時間をやる。無論出すものは品ではなく、倉庫の鍵だ。俺が責任を持って預かり、勝手にいじらないと誓う。使徒ゼストの十字架だのの聖遺物等は身につけて亜空間倉庫のままで良い。そういうもの以外だ」
「――この灰色・濃紺・銀・真紅のベルベットの指輪ケース4つと、金色と木のそれぞれの宝箱、この2つ、それからこっちの錦の台の首飾り類全部を預かっておいてくれ」

 ゼクスがドカンと7品出現させた。頷き時東が亜空間収納し、銀の十字架を二つ用意し、ひとつをゼクスに渡した。そして一つは自分の首から下げた。

「お前のそれと俺のこれがないと開かない倉庫にしまった」
「ありがとう……」

 お礼を言い、ゼクスも首から下げた。それから少し不安そうな顔で時東を見た。

「あの……本当に治るのか?」
「ああ。これは治る。薬を作るのが一番ハードルが高くて、さらに薬を選ぶとか特定するのが一番難しい種類のものだ。原因特定とその薬の用意と作成ができたから、治る。腕を折っても骨がくっついて元通りに動くようになるのと同じかつ後遺症もない。だが折らないように気をつける必要があるという部類の話だ」
「……頭痛、治るのか……十歳の頃から痛い日が増えてきて、過剰症以後はどんどん頻度が増えて、十代後半からは毎日になって痛みが今度は悪化してそれが今はほとんどずっと一番ひどいけど、たまにそれをこえる痛みで……それが、治るのか……? 本当に? 俺は、ずっと頭を骨折していた感じなのか……?」
「とりあえず非常に幼い頃から過剰労働していたことがよくわかった。安心しろ、その通りだから治る。過剰症で制御機能が弱まったというのもゼロではないがそれ以前の問題で根本原因は過労、PSYの使いすぎ、これだから治る」
「どのくらいで?」
「泣くな。まず体感的な激痛自体は三週間の内には無くなる。鈍くなって時々激痛が半年ってところだろ。一年後には時々ズキっとすることもあるが日常的には、これ由来の頭痛は消える。症状はそういう感じ。根本的にも三年後には、過労時や使いすぎなければ頭痛は起きない状態になり完全治癒だ。その後に激痛がした場合には、既にこの対処薬があるから、再発もないというか、一般人が頭痛をしたら薬を飲むのと同じになる」
「……」
「涙をふけ」
「……頭痛がない状態が思い出せないんだ。本当に、本当に治るのか?」
「治るっつってんだろ」
「……」
「まぁタバコでも吸いなさい。俺も吸う。いやぁ我ながら良い仕事をしてしまった」

 そういって小さく吹き出すように笑った時東にゼクスが涙を拭きながら頷いた。
 そして二人でタバコを吸う。無論、モニターで全員見ていた。

「その頭痛原因が治ると、さっきの波紋も効果絶大なんだけどな、心臓と肺機能側もかなり色相の自己維持が今までよりうまくいくから、胸の痛みと肺の痛みも和らぎ始めるし、最終的にそちらの痛みもなくなり、吐血も消える。ただしそちらは、まぁ鈍いツキツキ状態にまずなるだろう。それが一年後目安、三年後には時々ツキツキやキュっと痛くなるくらいになる。五年後にはごくたまに、そういう日がある程度になる」
「――それは、今と同じ過剰症レベル5にならなければだろ?」
「いいや、根本治療で臓器と色相を治すわけだから、それでレベル5になっても今のような痛みは発生しない」
「っ」
「手のしびれと二つ目の頭痛も消失する。これも過剰症由来というより円環側と地層断裂が一番の理由だ。地層断裂自体は過剰症からも来る。だがそちらも根本治療をしている上に強化保護を始めたし、断裂状態のところに円環側の疲労頭痛が原因で爆発的痛みだったからというのが一番の理由で、手のしびれは完全にそれが理由だから、円環側が治れば、まずしびれは滅多に起きない。そして断裂も治るから二度目の頭痛自体が消える。これはもう起きない可能性すらあり、三週間以内にはないかもな。かつ一個目に至っては、完全にストレス性の頭痛でありますので、ゆっくり眠り、体調を整えれば発生しません。肩こりも同じ。この二つは今の睡眠薬でもう消失。薬がなくともストレスがかからなければ出ないので、頭痛三種類は無くなるということです。つまり全部、ゼクス、貴方が働きすぎだったということで、それが頭痛原因であり、俺が知る限り、頭に輪っかは同じのを英刻院閣下も持っているし、琉依洲殿下も持っている」
「!」
「あのな、働けるのは良い事だろうが、働きすぎは良くないんだ。お分かりか?」
「っ……あ、ああ」
「泣かず、今後は働かず、ストレスをためない。これだけだ」
「う、うん」
「そしてこのように過剰症が理由でうやむやになっていたものも大量にあるだろうし、吐血もそうだが段々理解してくるものもあるだろうが、どれも骨折と同じで治るものである可能性や個別治療で良くなるものはいっぱいある」
「……」
「だから一つ一つ気づいたら些細なことでも俺に言え。俺じゃなくて周辺の奴らでも良い。お前は他の患者と比較して、言わなすぎる。そしてそれはお前が悪いのではなく患者の傾向の一つだ。言うタイプと言わないタイプがいる。そして言わないタイプというのが、自分でもストレスを自覚せずに働いて過労で体を壊したり、ストレスが身体に出るタイプで、その典型的症状が偏頭痛の一種である、筋緊張性頭痛と呼ばれる頭に輪っかや肩こりだ。良いですね? 言ってくれ。約束しろ」
「うん、言う、わかった、ありがとう……」
「朝、レクス伯爵にもチラっと話したんだけどな、まず、悪化による変動を含めたと仮定としても、十年後には、お前は過剰症レベル4中で痛み自体は過剰症レベル3程度、場合により2という、現在のアルト猊下なみの状態になってるのが期待できる。そして今話したように、根本治療をしているから、悪化してレベル5になった場合であっても、もう現在のような状態ではなくアルト猊下と同じくらいかつ、痛みに限って言うならばアルト猊下以下にしかならないだろう。まずもってレベル6のショック死状態を自力で押さえ込むような状態には、めったにならないというか、なる可能性もゼロじゃないという感じになるし、レベル7は、まぁ1mm程度はなくはないけど基本ゼロどころかマイナスに等しくなるぞ。三週間といわず、さらにプラス一週間おいての一ヶ月半と言わず、もうちょっとだけ治療してみたらどうだ?」
「……――非常に明るい気分になれたし時東先生には感謝しかない。けど、いや、一ヶ月半したら、処置を俺は受ける」
「理由は?」
「三つある。一つ目は、十年後、そうなるとして、その間の闘病生活に耐えられる気がしない。二つ目は、十年経過後もおそらく生涯、痛みの復活への恐怖が持続する。今もこれが一番怖い。この二つが理由で、体が大丈夫でも精神面が持たないと思うんだ。精神療法やそちらへの投薬等を考えたとしても、そしてホスピス等を探してそこで周囲にも精神面を含めてケアしてもらいながら暮らすことになるだろうけど、そのどれを考えても、多分何度も自殺したくなると思う。さらに体が元気で頭も働くなら俺はやると思うんだ。それならば安楽死の方がまだ良いと宗教的にも外聞的にも思う。自殺者を悪く言ってるんじゃない。これは俺の個人的な考えだ。そして自分のそういった衝動を止めることに疲れ果てると思うから、どう考えても阻止不可能だ。さらに治療を受けるホスピスというのは医療従事者はプロでも暗殺技能等を考えると俺には隙しかない。PSY等必要ないだろう。また周囲に介護される生活自体がストレスだ。きっと一つ目の頭痛のためにずっと点滴を一本していなきゃならないだろう……こう考えると無理だな。既に終末医療設備があるホスピスは大から小まで調べ尽くしたが、一番適切だろう場所としては精神科完備の閉鎖病棟を兼ねたところとしか思えないんだけどな、そこですら俺から見れば普通に素通り余裕だし、俺がそういうところにいたとして、殺し屋さんも余裕で素通りして入ってくるだろう」
「なるほど……ホスピス、ね。ちなみに三つ目は?」
「うん。これも二番目の恐怖相当で大きな理由なんだけどな――俺、いつからかは忘れたんだが、自分の未来が全く思いつかないんだ。何も描けない」
「ほう」
「例えば高砂とかレクスについてならば、いくらでも思い描ける。幅を広げて集団としてギルドだの宗教院だの、それこそ敵殲滅と国規模でも比較的思いつきかつ行動もできるんだ。だがそれらですら、別に自分でやりたいとかではないんだ。そうなったら良いのになぁという程度で、なってもならなくてもあまり俺の未来に関係する気はしない。仕事があればそれはやるし、やっておいた方が良くて仕事と重なるようならばやっているという場合が多い。個人に対しての場合は、それこそ高砂も言っていたが、ただのおせっかいだろうな。だが、そういうのでなくて、自分のことが思いつかないんだ。正直、俺は押しに弱くないし決めるのもかなりはっきり自分でできる方だと思ってる。だけど、周囲にそう見えるだろう理由がこれなんだと思う。一分後のことすら、うまく思い描けない。やる仕事だとか、例えば食事をするというのがわかっているならばそれを考えることはできる。だけど、これをしようとかあれをしようとかこうなりたいとか、そういうのが全くない。異常な程ないんだ。だからぼんやりとソファに座っていられる。希望がないわけでもないから、せっかくの状況だから遠くから高砂とかを見てみようといった行動もできる。だけどな、これまでも自分から見に行こうとかは一切ないんだ。その状況になればやることを見出すことも可能だ。その辺は普通なんだ。だけど、何にも思いつかないんだ。未来設計とかが全くできず、自分に関する事柄について、例えば幸せな家庭だのが浮かばない。五分後も五年後も俺の中で同じように思いつかない。だから言われてそれがどうしても無理でなければそれを行って生きてきたし、これまでは俺は何か言われて仕事を与えられたからそれをしていた。だが病気で治療に専念するわけで、今後はやれと言われなくなるだろう。俺はその場合、何をすればいいのか何一つわからない。とすると、ずっとベッドに座って点滴しながら介護をされて食事して寝るんだ。これは、俺が思うに植物状態とあまり変わらない。それなら、二つの手続きでいう安楽死の方が俺は良い」
「――ちと高砂を例に出して聞くが、嫌われているから恋人になるのを諦めた、というだけじゃないってことか?」
「ああ。諦めたのは嫌われているからだけど、仮になれるとしても、全く恋人として付き合っている姿も、結婚して家庭生活を送っている姿も浮かばない。これが不思議で、高砂と俺以外であれば浮かぶ。例えば高砂と時東先生でバッチリ浮かぶ。ただ俺のことだけ、俺自身はなにも浮かばない。何も思いつかないんだ。まるで思考停止状態のようになる。唯一未来に関して浮かぶのは痛みへの恐怖と闘病生活、およびホスピスでの暮らしといった部分だけなんだ。自分でも不思議でならないほどなんだ」
「未来への希望がないとか、病気で絶望しているとか、とにかく悲しいとかそういうのは?」
「今は薬の話で普通に希望を持ったし、病気に絶望というか痛みには絶望してるだろうけど、涙が出るほど喜んだんだから完全に希望がないわけでもなく、こちらにもやはり希望があるんだろうな。とにかく悲しいというのはない。なんというか、人生に悲観的にはあまりならないんだ。まぁこんなものか、というか――だからつまり、意識的には問題ゼロだし、PSY感情色相もクリアなままなんだ。だけど、思いつかない」
「それはいつからだ?」
「うん。二十三か四の頃、三日ほど休暇ができたから、なにかしようと思って、何も思いつかなくて発見した。三日も予定ゼロの休暇が人生初めてレベルだったからいつからかはわからないが、それから注意して確認してみたら、五分程度でもう先が思いつかなくなっていたんだ。けれど、そんな病気は聞いたこともないし、どうすればいいのか不明でな」
「痛みで動けないだとかは? 思考がうまくできない、IQ制御の関連」
「その頃はここまでの激痛ではなかったから、痛いけど今より動けたし、これは、コントロール装置を外していてもそうなんだ。まぁ外している時というのは大体がやること山積みだったわけだけど、自分でも不思議すぎて、外してチェックしたから間違いない」
「自分の将来像や未来の行動のみがそうなのか?」
「うん」
「仕事に関係ないプライベート?」
「そう」
「趣味等もか?」
「ああ。誰かが喜ぶかも知れないと思って何か作る、等はできる。しかし自分のために何かを作ろうとかは全く思わないし、小さい頃は絵を描いてみたりピアノを弾いてみたりというのもあったが、それらはコントロール等していないがやる気が起きない。ゼロだ。読書も幼い頃は好きだった気がするんだ、勉強も。けれど読めなくなったとかIQ制限処置が原因の識字云々を抜いても、何一つやりたいと思わない。必要があればやれるんだ。例えば食事でいうなら、メニューを考えろと言われたら食べたいものをいくらでもあげられる。だけどそのどれかを自発的に食べに出かけるという行為ができないし思いつかない。ただ先程の食事類、ああいうもの、あれを食べたくなるというのはあるから、それが動機で出かけることはあるが、外出準備を整え計画的にそれを食べに行くというようなのはないんだ。あとスナック菓子。美味しいからあると食べたい。だけどそれを買いに行くという発想が出ない。頭ではわかるんだ。でも買いに行くという未来を思い描けないから自分で買いに行くことはないんだ。これは、なんなんだろう? 自閉症等も疑ったけど検査には引っかからない」
「まるで働きすぎの人物が定年退職した直後の燃え尽き症候群だな」
「うん。俺もそれに似てると思った。だけど仕事はできなくなるんだし、かつ、燃え尽きず燃え尽きかけた状態がもう三年以上続いてる」
「――自分で思い描かずとも、お前が勝手に描いてきたように、高砂やらレクス伯爵やらが描いたお前の未来にそって行動してみるというのはどうだ? その内、自分で思いつくようになるまでの間」
「みんな忙しいからな。だから具体的にそれで行くとしたら、ホスピスの職員の指示に従うことになるんだろうけど、資料を見た限り芸術活動や散歩だ」
「在宅療養という選択肢はないのか?」
「ない。理由は最初の二つだ。家族の前で自殺を図って止められるというのは、未遂に終わっても非常に辛い。成功した場合は、その場にいる者への精神的打撃が増加する。実際にはしないとしてもそう考えるから俺側のストレスとなる」
「――内蔵機能の回復と同じで、闘病生活と痛み復活への恐怖も軽減するだろうし自殺衝動も減る。それを加味して専用ホスピスというか医療施設で、やる事柄の指示内容も多岐に渡っていて、一部仕事込みかつ暇な場合の家族協力により構成だったらどうだ?」
「どうだと言われてもな……イメージがうまくわかないのはこれも変わらない。具体例か施設例はあるか?」
「現在の王宮のここがそっくりそのまま、同じような感じでホスピス。主治医はどこに行くにしろ俺。副主治医は、ザフィス。これはずっとそのままだから、そこは考えなくて良い。俺の側の多忙だのは無い。家族指示もザフィスか先代緑羽に主に頼む。あと、ここは防衛的な意味合いで閉鎖病棟と同じだが、まぁそうなるだろうが、自由に外出は可能だ。ただしメンバー的に医療スタッフは俺込みで暗殺者侵入対応可能でもあるし、自殺未遂にショックを受けるようなメンバーもいないが、阻止は完璧にする」
「――なるほど。悪くないな。むしろ非常に理想的で、実現できるならば最高だろう。ただ、どの程度で恐怖等緩和が一定の効果をあげるのか、さらにそれまで俺の体が生きた状態でいるのか、さらにその環境を構築するまでの時間も間に合うのか、維持していくことが可能なのか、そこまでして俺を医療処置する必要性と他作業の重要性の比較検討、このあたりをする必要があるな。最後の部分は俺など死んだほうがいいというような意味ではなくて、俺のその医療処置をしている間に、他に重要な事柄は沢山あるからそちらとの理性的な比較ということだ。そして恐怖緩和に関しては、実際に痛みが軽減し再発してもひどくならない経験の積み重ね以外ではもう無理だと俺は思う。時東先生に比べたら名医でないとしても、ありとあらゆる専門家にお願いして大量に治療や療法を受けたが全然ダメだった。それを考えると最低限数年間は消えない。多分その間に俺は自殺する気がする。だから、そこの部分の対処がどうなるかが最大の問題だろうな。自分の意志で可能な限り阻止しようとしても、もう無意識に実行するレベルなんだ。ちょっとこれ自体をどうにかしたい。ただ、こういうことを口にできるようになっているから、思うに何か精神面に作用する薬か自殺防止系統の薬も投与しているんだろう? そうでなければ俺は無言で常に実行準備をしているんだ。それが和らいでいるから、確実に何かが作用をしている」
「――作用してるんだな?」
「ああ。これには今朝起きた時に気づいた。最初はよく眠ったからかと思ったが違う。告知初期の頃には、普通に投薬治療が効いていて、飲むと少し気分が改善していた。あれに近い。香りとランプと観葉植物はわかる。だがそれだけじゃないと思う。点滴のどれかかいくつかもそうだろ?」
「まぁ最初三つはそうだが点滴内容は、そこは秘密だ。それで、口に出せるようになったとして、具体的変化と現在の自殺願望レベル、自殺企図レベル、衝動の抑えてる形などを教えてくれ」
「願望としてはこの場で今すぐ心停止して死にたい。企図レベルは、常時実行可能なのを自分で防止してる。つまり全部合わせて言うと即刻自殺して、あの世へ逝くための準備も万全で衝動が現在も続いている。それを今、言えるようになった。そして企図レベルとしてその手段を言って阻止されるのが絶対に嫌だからそれは言えないという程度で、かつ実行阻止を自分で出来ている。願望も、実現しない状態で維持できている。なお、自傷行為等は一切ない。過去にもない。未遂は三十二回、全て心停止。実行直後に発見されたか俺が防止対策していた心臓再鼓動装置。心臓と脳の破裂はできないようにロック装置をかけてある。個人的には恐怖対策もだが、この衝動自体もどうにかしたい。全て痛みに耐えかねて、突発的にやった。だから痛みが減れば一定数減るとは思う」
「なるほど。ちなみにそれを俺に話したことで気は楽になったか?」
「そこが微妙なんだ。俺もそれを期待してるし、できれば俺以外にも止めてくれる人間を探していた。ずっと主治医をしてもらうと仮定して、話すことで通常楽になると聞くからそれが効果的な、この薬を常用すれば話せそうだからそれがまず効果を上げてくれることを望んでる。そしてこれは多ければいいというわけではなく、時東先生のように医療処置として聞いてくれる人間に話したいのであり、近親者等に訴えたいというのはない。そうして諭されたり慰められたりするのを想像すると別の意味で死にたくなる。その側面からいうと時東先生から周囲へと伝わるのが一番怖い。かつ体感的にはホスピスについて相談するのと同じ感覚で特別楽になったとかはない」

 モニターで聞いていた周囲は皆内心で息を飲んだ。
 聞いていたことに気づかれないようにしようと決意した。
 同時に――そんな風に考えていたのかと少し苦しくなってしまった。
 今までの笑顔からは全く想像できなかったのだ。