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そしてまず四足の金具に青・赤・緑の三つ、次の五足の金具には煌くPSY血核球類の透明なパックとロイヤルパックをさして、最初のものを右の手首、次のものをそのさらに上の手の甲ギリギリに刺した。
「時東先生、これは、青を保護しているのか?」
「そうだ。よくわかったな」
「すごいな……なるほど……すごいなぁ」
「もっと俺をほめたたえてくれていいぞ。さて、少し調整するからおとなしくしろ」
時東はそう言うと虹色に煌く、黒い骨の扇を取り出した。
全員目を見開いた。時東の完全PSY血統医学が見られるのだ。
使えるという話は聞いていたものの、実は政宗ですら見たことがない、非常に非常に非常に貴重なことだった。
ゼクスもそうだが、ロードクロサイトの人間も一部に使えるものがいるのだ。
時東がバサリと扇を開く。
同時に彼は、銀の台の上に、四つの生体液パックで、こちらは内容液には一切PSYが含まれていないものを用意していた。
さらに現在点滴中のロイヤルパックと同一のものも一つある。
するとゼクスの周囲から色鮮やかなPSY色相が浮かび上がった。
虹色に交じり合っている、緑から黄色になり一部にオレンジが入ったものと、紫からピンク色になり、一部に金銀白が入り時々黄色になっているもの、さらに透明なガラスのような板と黒に近い暗褐色の紅、赤紫色に近い黒い橙色、石のような色合いの水色が出てきた。まず時東が一度扇を閉じて再度二つ部分ほど開くと、生体液パックの一つに緑から黄色になる最初の色相が入り、結果、なぜなのか上が白、下が濃い灰色の、保護液四つによく似た品ができた。
続いて時東が扇を開きバシンと閉じて、台の上のロイヤルパックを叩く。
するとそれまで分離しつつもごちゃまぜだった紫と黄色が、斜めに黄色と紫に移動し、完全に綺麗に分離した。
さらに黄色は黄金のフチ取りがなされて、それまで表面でキラキラ輝いていたものが完全に淵に吸着した。
さらに紫側の周囲にはロードクロサイトの虹と呼ばれる、美晴宮の紫の後ろにも本来存在する虹色が出現して周囲を覆っている。
その全体をピンク色に輝く水晶のような粉と、ごくまれに紫の前を通過する時のみ黒く輝く黒曜石の粉が舞う。
これはイリス・アメジストと同じロードクロサイトや美晴宮、花王院血統などの保有因子であるメルクリウス血球がピンクに、さらにロードクロサイトの虹因子とされる統一亜ゼクサ型PSY血小板がそれぞれの色を整理し吸着させ、このようになっているのだろうと知識があるものは理解した。
さきほどの血核球生体液以上に見たことがなく、さらに想像を絶する公正だ。
これが必要な人間がいないというのもあるが、思いつくのがまずすごかった。
そして中身のロイヤル度もすごい。
そのまま閉じた扇で、バシンと生体液パックの一つを時東が叩くと、それがうっすらと青緑を僅かに溶かしたようなごく薄い色に変化し、水滴をおとした水面のように、波紋を描くようになった。
それから扇を開き、バサバサと二度動かしてから、再び時東がバシンと閉じて、バンバンと生体液パックの残り二つを叩く。
すると色鮮やかで黄色が強い橙色のパックと、こちらも色鮮やかで上部に少し黄緑が入っているが下に行くにつれて水色のパックが出来上がった。
時東はまず、上の空いている一台に、最初に作成した濃い灰色の点滴をつなぎ、手首の保護用点滴の空いていた金具に装着した。
続いてロイヤルパックを、新規作成した方と入れ替えた。さらにそちらに、水面のような波紋が広がる薄い青緑、黄色が強い橙色、上が黄緑の水色の三パックも接続する。
元々あったPSY血核球のパックと合わせてこちらの五つの金具も埋まった。
これでこちらも合計九個となり、点滴は全てで十八個となった。
二代目の点滴台も上が赤・緑・青・灰色、下が水面・橙色・水色・ロイヤル・血核球で埋まった。
色彩まで計算してあったように色とりどりで、非常に綺麗に、かつ内容別に分類されているらしい。
それから時東は扇をしまった。
残っていた暗い赤はそのまま消えた。
点滴をひとつ出現させて台の上においた。
完全に優しい青系統緑で、これはやはり時東の復古した睡眠導入剤・中期・長期・超長期作用型睡眠薬だった。
PSY波動でいつでも起きる事が出来るし眠ることができて、眠気も残らない貴重品である。
続いてもう一つ、最初から装置に入れていたらしいアンプルがひとつ出てきたものを生体液に入れると、こちらは虹色に変化した。
ロードクロサイトの虹がそのまま入ったようで、こちらは逆に周囲が黒曜石のような煌きを放ち、中身は綺麗な虹色だ。
統一亜ゼクサ型PSY血球とPSY薬液から何やら合成した薬らしく、実はこれは体内の各種PSYを完全調整する代物であるが、時東が今考えて作り出したものである。
そして最後に白金と白銀に光る灰色の点滴パックが出てきた。
それを見てラクス猊下と政宗が息を飲んだ。
使徒ゼストの銀箔およびイリス・アメジストの銀部分を抽出して時東が制作したPSY融合医療医薬品で、見ることすら滅多にできない超貴重品であり、これは聖遺物レベルのPSYを放っているため、変に使うと即死する威力を誇る万能薬であるらしい。
時東はそれをなんの迷いも見せつ、最後の三段目に並べ、そして三足の器具につけ、ゼクスの手の甲に点滴張りを注射。
そして最後の点滴を終えた。
合計で二十一となり、彩り鮮やかな点滴がソファの周囲に並んだ。
なんというか、圧巻である。
「――とりあえずは、これで良いだろう。眠気は? 今は、弛緩剤程度に調節してある」
「時東先生はすごいな……体が、すごく軽くなった。楽になった。痛みが、こんなのは久しぶりなくらい減った」
ゼクスが驚くような顔をしながら、腕からちょうど終わった低IQ化装置を外して懐にしまった。
すると時東が、今度は天然の時東スマイルを浮かべた。
これもまた見られるのが非常に貴重で見ることができたものは惚れる場合が多く、この場でも何人か惚れた。
時東が輝いている。
この医師としての時東の格好良さは、見知っている皆でも認めるものだ。
「よし、痛みをもう一度測定する」
「ああ……」
おずおずと驚愕したようにゼクスがあいている左手を差し出した。
すると痛みの音が変化していた。
ピピピピピとなっている。
レベル3、これでも重症な怪我のレベルだが、ショック死でもなく、ショック死手前の激痛のレベル4でもない。
まだほぼレベル4でギリギリ3ではあるが、全然違うだろう。
ゼクスの瞳が急に潤んだ。
「時東先生、痛くなくなってきた。点滴の数のプラシーボかと思ったけど、本当に痛くないらしい。プラシーボでも全然良かったが、痛くない。だいぶ痛くない」
「けどまだ痛いだろ? レベル2くらいまで落ちるように努力しよう」
「……ありがとうございます」
ゼクスが涙ぐんでいる。