【四】





 燃燈が、崑崙山から姿を消したのは、それからしばらくしての事だった。

 もう、研究を却下する燃燈はいないわけだが、そうなれば元始天尊様に釘を刺されるだけだ。後に雲中子は、そうした研究が、歴史の道標――女?の出身地である始祖の母星の技術に、近しいが故に危険視されているのだと気づいた。言うなれば、始祖達の元の世界の技術に近すぎるか、遠すぎるか、早く進みすぎているか、いずれかの研究だった。それらが危険視される理由は、地球もまた滅んでしまう可能性からでは無いし、無論倫理観からでも無い。女?が歴史の歪みだと認識し、この世界を滅ぼしては困ると言うのが、正確な理由だったのである。

「あれも禁止、これも禁止、禁止禁止禁止」

 ある日、お茶を飲みに来た太乙が、肩を落として愚痴をこぼした。嘗ては、同じ事を雲中子も、幾度となく感じていたから、痛いほど太乙の気持ちはわかる。だが、未来の燃燈に会った事や、長い時を生きる内に少しずつ歴史の道標の情報を得ている事実を、いつか言われた通り、雲中子は口外しようとは考えていなかった。

「きっとそのうち研究できる日が来るよ」
「きっと、そのうち? それ、いつ?」
「多分おそらく近いうちに」
「雲中子、曖昧すぎるよ!」

 声をあげた太乙に笑って返してから、雲中子は考える。却下こそしないが、曖昧に濁している雲中子が、今では嘗ての燃燈のようなものだ。実際、冗談めかしてはいるが、太乙の瞳は不服そうである。太乙だけではない。普賢も不機嫌そうだった事がある。既存のスーパー宝貝に類似した能力を持つ宝貝の研究や作成に、元始様が難色を示すと言う話も、雲中子がそれとなく止めに入ると言う話も、知っている仙道はそれなりにいる。しかし噂はただの噂だとして、雲中子は何も言わなかった。