【四】





 こうして、二人の関係は始まったのである。燃燈は、気まぐれに、雲中子の洞府に訪れるようになった。そこに約束は無い。雲中子の生活もいつもと、ほとんど変化は無かった。燃燈がいない時、それは日常であり、研究をしている時間だ。それが遮られるのは、唐突に燃燈がやって来たその時となる。

 この日も寝室に移動し、雲中子は己の服に手を掛けた。脱がされる事もあれば、自分で脱ぐ事もある。ここの所は、己の手で脱ぐ方が多い。時間の短縮だ。先に寝台に腰掛けて、燃燈はそれを見ている。一糸まとわぬ姿になった雲中子がその正面に立った時、燃燈が腕を伸ばして、雲中子の手首を静かに握った。

 そして引き寄せると、正面から抱きしめる。その温もりと力強い胸板に、雲中子は転がり込みながら、それらを愛おしく感じるようになった事を自覚していた。そんな雲中子を、そのまま抱き寄せて、反転させる形で、燃燈が寝台に押しつける。

 猫のような姿勢になり、後の双丘を突き出す形になった雲中子の臀部を、両手で燃燈が握るように覆った。それから菊門を舌先で刺激する。一本ずつ襞をなぞるようにしてから、右手の指を二本、中へと挿入する。既に、燃燈に慣らされている雲中子の体は、すんなりと指を受け入れるように作り変わっていた。

「っく、ぁ」

 少しの間解した後、バックから燃燈が陰茎を挿入する。奥深くまで貫かれ、雲中子はギュッとシーツを握る。後背位で雲中子の腰を持ち、激しく燃燈が抽挿を始める。肌と肌がぶつかる音が響き始める。

「あ、あ、あ」

 いつもよりも深く、そして違う角度から、感じる場所を貫かれ、雲中子は快楽から涙を零す。その表情は蕩けていて、既に教え込まれた快楽に抗えない。燃燈はそんな雲中子の背中に体重をかけると、押し潰すようにして身動きを封じた。シーツに上半身を預ける形になった雲中子は、必死で息をする。

「あ、あ、燃燈。もっと動いて」

 懇願した雲中子のうなじを舐めて、甘噛みした燃燈は、本日も獰猛な色を瞳に浮かべ、意地の悪い顔で笑っている。

「さて、どうしようかな」
「や、ああ、ぁ……ャ、ぅ――っ、あああ」

 感じる場所を押し上げられる形で動きを止められて、雲中子はボロボロと涙を零しながら嬌声を上げる。純然たる快楽が、雲中子の上気した体を絡め取っていた。燃燈が片手で雲中子の陰茎を握る。そして扱きながら、ゆるゆると抽挿を再開する。

「ひ、ぁ、ああ! 一緒は、あ……あ、出る!!」
「一度出せ。夜は長い。明日は午前中が休みなんだ」
「っ、ぁ、燃燈――やああ、ああああ」

 そのまま果てた雲中子が、ぐったりとシーツに沈むと、喉で燃燈が笑った。そして体を少し起こすと、再び雲中子の腰を掴み、打ち付け始める。

「あ、ァ……ああ、あ」

 燃燈の手で、ドライオルガズムを教えられた雲中子の体は、与えられる刺激に昂められていく。

「ひゃ、ぅ、う、あ、あ、クる。あ、あああああ!」

 連続で絶頂を促されて、この日も雲中子は抱き潰された。
 ――事後。
 目を覚ますと、雲中子の体は綺麗になっていた。燃燈が処理をしてくれたからだ。

「そろそろ帰る」

 時計を見れば、朝の六時になっていた。午前中は休みでは無かったのかと聞こうとしたが、雲中子は止めておく。これ以上求められても、体がもたない。

「送るよ」

 気怠い体を起こして、クローゼットから、雲中子は道服を取り出した。それらを身につけている間、既に勝手知ったる調子で、キッチンへと向かった燃燈は珈琲を淹れていた。燃燈は珈琲が好きらしいと、雲中子は既に知っている。

 雲中子が居室へと向かうと、燃燈がカップを二つ運んで来た。そこでお互いカップを傾けてから、静かに雑談をした。体の関係が主要だが、時に会話をする事はある。

 二人の間に肉体関係が生じてから、既に長い刻が経過していた。
 カップが空になると、燃燈が立ち上がった。自然と雲中子も立ち上がる。