T:やりきれない成果は雑談から生じた<2>




 ――玉虚宮に雲中子が呼び出されたのは、それから二週間後の事だった。先日十二仙会議があったとは聞いていたが、関わりも無い為、雲中子は洞府でいつもと同じように日常を過ごしていた。それゆえ、何故呼び出されたのか心当たりも特に無かった。

「ご無沙汰しております、元始天尊様」

 頭を下げた雲中子に対し、元始天尊が顔を向ける。夏の気配がより色濃くなっていたその日、ある密命が雲中子に下る事になった。

「十二仙会議で、太乙より話は聞いた」
「話、ですか?」

 何の?
 それが最初に抱いた本音である。

「確かにこのままでは、仙人界は緩慢に死を迎えるじゃろう。特に、人間出自の者が多い崑崙山から先に」
「……?」
「これまで重ねてきた修行の成果も、いつかは潰えてしまうのかもしれぬ。そこで、仙人道士での繁殖、仙人骨を持つ者をスカウトしてくるのではなくこの仙人界で増やしていく事、それが可能であるのならば、新たな道の一つとして考えていきたい」

 真面目に語っている元始天尊の声を聞きながら、漸く雲中子は先日の話を思い出した。

「雲中子よ、仙道道士で仙人骨を持つ子を成せる研究の成果、期待している」
「お待ち下さい。そのテーマに興味を抱いているのは、太乙です。私ではありません」
「しかし内容からして適任者はお主だ」
「……、それは……」

 人体に関する研究の第一人者である自負は、雲中子にもある。
人間界でも医学は発展しているが、雲中子の中でその範囲には、あまり目新しいものが存在しないと言える程度には、悠久の刻、研究を重ねて過ごしてきた。よって人間であれ仙人骨も持つ仙道の体であれ、あるいはそれ以外の動植物や妖怪仙人に関してであっても、雲中子は確かに詳しい。

「断る事は許さぬ」
「……はぁ」
「なお、この研究に関しては、十二仙と燃燈にのみ、先の会議で周知してあるが、他には決して他言無用。ただし実験時に必要なものは、こちらでバックアップする。安心せよ」

 雲中子には断る権利は無かった。

 ――興味がある研究ではないが、やりたくない研究というわけでもない。玉柱洞へと帰還した雲中子は、実験室へと真っ直ぐに向かった。そして太乙との雑談内容を想起する。

「要するに、『第二性別』といえる要素を見い出す事が一つかねぇ。それと生殖本能を抑制しているものがあるとして……それが修行だとすれば修行の内容に何か加えれば良いのだろうけれど……そうで無かった場合、性衝動を促す何かを見つけて……うーん」

 ブツブツと呟きながら雲中子は、思考をまとめた。
 その後研究室に保管してあった、崑崙山の仙道の生体データを確認する事に決める。
 このようにして、雲中子の研究は始まった。