【四】夜伽(★)






 ――以降、ティセラード殿下は、僕の部屋へと訪れるようになった。

 体を重ねた当初こそ狼狽えていたが、一週間、毎日出迎えていたら、僕は少しだけ、殿下の来訪が自然なものであるような気がしてきた。だって僕は、側妃だ。

 いつも僕は湯浴みをして、その後はソファに座って殿下を待っている。殿下が来るまでの間は、マークとルクスも一緒にいる。そして最近は、紅茶ではなく酒の用意をして、殿下のノックを合図に扉を開けてから、控えの部屋に下がっていく。

「ようこそお越し下さいました」

 僕はそう言って、この日も殿下を出迎えた。ロックグラスに氷を入れて、酒を作るのは僕の仕事となった。入ってきたティセラード殿下は、僕の正面に座ると、細く長く吐息した。

「百合の香りは良いな」

 他の部屋のお湯事情がどうなっているのかは分からないが、僕はあんまり甘ったるい匂いは好きではない。だからつい、自分の手を見てしまった。しかし、殿下が嫌いではないと聞くと、そう悪いものでは無いような気にもなるから不思議だ。

「どうぞ」

 僕が酒を差し出すと、静かにティセラード殿下が受け取った。そして強い酒を舐めながら、僕を見た。

「最近、少し艶が増したな」
「え? そうですか?」

 そんな自覚は無い。だから首を傾げると、殿下が半眼になった。この一週間で、だいぶ殿下の表情や口調は柔らかくなったが、今でも時折冷たい顔をする。

「自分の体が少しずつ開かれていく気持ちはどうだ?」
「っ」

 露骨な言葉に、思わず僕は赤面してしまった。片手で唇を覆うと、殿下が口角を持ち上げた。意地の悪い顔で笑っている。

「脱げ」
「……はい」

 断る権利を持たない僕は、言われるがままに夜着を脱いだ。この一週間で、僕は下着をつけなくなった。殿下の指示である。ルクスが初日に下着を持ってこなかったのもそうだが、主を迎える際は、本来後宮では身につけないのが普通だったらしい。僕は一糸まとわぬ姿で、ソファの前に立った。

「股を開いて座れ」
「……」

 羞恥に駆られたが、言われた通りにする。膝を立てて長椅子の上に座った僕の陰茎を、酒を飲みながら、殿下がまじまじと見た。恥ずかしい。じっと見られていると、この一週間で開かれた僕の体は、この後の行為を想像して熱を孕み始めた。

「淫靡だな。反応しているぞ」
「ッ」

 見られているだけで、確かに僕の陰茎は緩やかに立ち上がり初めてしまった。何も返す言葉が見つからなくて、僕は片手で唇を覆う。赤い顔を見られたくなかった。

「寝台へ行くか」

 酒を飲み干して殿下が立ち上がった。僕もまた立ち上がる。
 そうして寝台へと移動し、この日僕は、猫のような体勢にさせられた。

 そして殿下に後ろから貫かれた。これまでは一週間、毎日殿下を見上げる形の正常位で抱かれていたため、初めての角度に狼狽える。いつもよりゆっくりと挿入してきた殿下は、根元まで突き入れると、動きを止めた。そして僕の腰骨を掴みながら静かに言う。

「これから様々な事を覚えてもらう。俺が教え込んでやる」
「あ……ぁ……ああ、っ」

 この一週間で既に僕は、快楽を存分に教えられていた。動いてくれない殿下の陰茎が、焦れったい。いつもよりも感じる場所を的確に突き上げられているから、すぐにでも放ってしまいそうだと思うのだが、中への刺激だけでは、さすがに果てられない。

「う……ぁ、ァ……っ、ン」

 殿下がゆっくりと動き始めた。ギリギリまで引き抜いては、奥深くまで抉るように僕を穿つ。その緩慢な動きに、じっとりと僕の体は汗ばみ、髪が肌に張り付いてきた。グっと最奥を突かれる度、達したいという思いが強くなる。そして腰を引かれる時は、もっと刺激が欲しくなり、体が切なくなる。

「ああ、ッ、ぁ……ん、ぅ……う……あ、あ、あア!」

 次第に殿下の動きが早くなってきた。体を揺さぶるように殿下が動かす。そうされると全身に快楽が響いてきて、僕は怖くなってシーツを握り締めた。未だに快楽には慣れない。自分が自分でなくなってしまうようで怖いのだ。

「あ、あ、あ」
「気持ち良いか?」
「ん、ぁ……あ、あ」
「答えろ」
「気持ち良……っ、ぁ、あ、ああ! や、ぁ、ァ……うああ」

 殿下が激しく打ち付け始めた。僕の全身が震え、背が反る。その時、殿下が僕の背中に体重をかけた。身動きが出来なくなり、押しつぶされた僕は悶えるしか出来無い。シーツに僕の陰茎が擦れる。

「あ、ハ」
「中が蠢いているぞ」
「ん、ン……」

 僕の眦から涙が零れた。殿下が動きを止めたため、もどかしくて気が狂いそうになる。全身がどんどん熱くなっていく。

「やぁ、動いて――っ、ああ! ダメ、ダメだ、あ、あ、なんかクる」
「今日は中だけで果てる事を覚えさせてやる」
「いやぁ、ァ、あああ!!」

 そのまま繋がっているだけで僕は果てた。ぐったりとした僕から体を離すと、再びしっかりと僕の腰を殿下が持つ。そして、絶頂の余韻に浸っていた僕の中を、容赦なく責め始めた。

「待って、まだ出来無――う、あああ、あ、あ……ああああ!」

 肌と肌が奏でる音と、香油が立てるぐちゅりという音が室内に谺する。そのまま感じる場所ばかり責められて、僕の陰茎はすぐに再び反応した。そんな僕を無理矢理殿下が抱き起こし、後ろから抱えるようにして、今度は下から貫き始める。

「う……ぁ……ぁ、ァ、ああ……うあ、ああああああ! やぁア、ァ!」

 僕は髪を振り乱して泣き叫んだ。これまでよりも、更に深い位置を刺激され、ずっと感じる場所を押し上げられる状態になった。その状態で殿下は動きを止め、僕の体をギュッと抱きしめている。再び身動きを封じられると、僕の全身が震えだしゾクゾクと快楽が浮かび上がり始めた。

「あ、ああ……あ、あ、ああああ!」

 強すぎる快楽が襲いかかってくる。もう出ないと思うのだが、どんどん出したいという欲求が募り始める。

「ひッ!」

 その時だった。僕は、達したと思った。

「いやあああああ!」

 直後、僕は絶叫した。前からは何も出ていないというのに、確かに達したような感覚がした。何が起きたのか分からない。射精感によく似ているのに、その感覚がずっと続いていて、全身が震える。

「中だけで果てられるようになったな。ドライだ」
「あ、あああああ!」

 頭が真っ白に染まった。足の指先までをも快楽が駆け抜けた。そのまま、僕の意識は途絶した。



 翌朝――目が覚めると、いつもは帰ってしまっているのだが、この日はティセラード殿下が隣にいた。僕を抱きしめて、じっとこちらを見ていた。真っ直ぐに目があった瞬間、僕は赤面した。理由は分からないが、頬がとにかく熱い。心臓がドクンドクンと煩くて、鼓動の音が聞こえてしまったらどうしようかと焦った。

「寝顔は愛らしいんだな」
「……」

 耳触りの良い声で、ティセラード殿下が微笑した。僕は息を呑んだ。殿下の笑顔を見るのは、初めての事だった。いつも冷笑しているか、嘲笑・失笑しているか、意地の悪い顔で笑っている姿しか見ていなかったのだ。あんまりにも殿下の笑みが綺麗に思えて、僕は狼狽えた。

 これじゃ、まるで恋だ。僕は、真っ赤のままで硬直していた。いいや、そんな馬鹿な。きっと体を絆されただけだ。そう念じていると、殿下が僕の髪を優しく撫でた。

「今日は休みなんだ」
「……そうですか」
「お前に、自分が誰のモノなのか、しっかりと分からせてやる」
「……」
「まずは湯浴みをするか。来い」
「え、一緒に入るんですか?」
「何か問題があるか? あったとして、お前には俺を拒む権利は無い」

 僕に拒否権は無いのだったと、改めて思い知らされた。こうして、僕達は、浴室へと向かった。ここのお風呂は、温泉を引いているため、二十四時間わいている。僕は、後孔から垂れてくる殿下の白液の感触に、先に体を洗う事にした。殿下も先に体を流すつもりらしく、鏡の前にいる。

「そこに手をつけ」
「え?」
「掻き出してやる」
「! そ、そんな、大丈夫です……あ!」

 軽く押されて、僕は台に手をつき、臀部を突き出す形になった。
 すると殿下は、解れきっている僕の後孔に、指を二本突き立てた。

「んぅ、あ」

 グチュグチュと音を立てて、殿下が僕の中で指を動かし始めた。掻き出しているようには思えない。指で弧を描きながら、時折僕の感じる場所を意地悪く刺激する。そうされると、すぐに僕の陰茎は反応を見せた。

「さて、綺麗にしてやるか」

 殿下がその時、石鹸に手を伸ばした。そして泡立てると、ぬめる手で、僕の陰茎を握った。

「ん! ン……ぅ、ぁ……あ、あ、あ」

 前を扱かれながら、後ろをかき混ぜられる。そうされると頭が真っ白になった。しかし後ろ側の指先は、次第に僕の感じる場所から少しだけそれた場所を刺激するようになり、もどかしさだけを煽っていく。逆に前を擦る手は激しくなっていく。

「だめ、出ちゃう、あ……あ、あ!」

 その時、ギュッと殿下が僕の根元を握った。射精を阻止され、僕の喉が震えた。

「俺の許しを得ずに果てる事は許さない」
「ぃ、ャぁ……あ……ああ」

 僕はすすり泣いた。全身が熱い。殿下は僕から手を離すと、今度は両手を泡まみれにした。

「座れ」

 そして僕を正面に座らせると、キュっと僕の両乳首を掴んだ。

「ん、ぅ!」

 泡まみれの指先で軽く乳頭を弾かれた瞬間、ツキンと全身に快楽が走った。いつもとは全然違う。僕は普段はあまり乳首など意識しないのだが、この時、完全にそこが性感帯だと理解した。

「あ、あ、あ」
「今度は胸だけで果てるように」
「いや、いや、ぁ……あ、あ、イけな、ッ……う」
「どうだろうな?」

 殿下の指の動きが激しくなった。すると僕の陰茎に集まっている熱と乳首から与えられる快楽が直結した。

「嘘、あああああ!」

 そのまま胸を嬲られて、僕は果てた。ぐったりと体を殿下に預けると、殿下が吹き出した。

「本当に開発しがいのある体をしているな」

 その後殿下が僕の体をお湯で流してくれた。ぼんやりとしていた僕は、されるがままになっていた。

 湯浴みを終えると、マークとルクスが朝食の用意をしてくれていた。僕と殿下は揃って食べる事になったのだが、体が重すぎて食欲が無い。だからふわふわの卵は美味しいのに、半分も僕は食べられなかった。

「あとは下がれ。今日は一日ここで過ごす」

 食後、殿下がマークとルクスにそう指示を出した。二人は言われた通りに下がっていく。嘘だよね……もう僕は出来無い。そんな思いで殿下を見ると、どこか酷薄な表情で笑っていた。結局――その日は、一日中繋がっていた。



「お前は、本当に物を欲しがらないな」

 殿下にそう言われたのは、殿下が百合の間に日常的に来るようになって、半年が経過した頃の事だった。ティセラード殿下は、よほど仕事が多忙で無い限り、毎晩百合の間へとやって来る。その為、僕の睡眠時間は減少した。強いて言うなら睡眠時間が欲しい。代わりに僕は、日中、昼寝をする事が増えた。

「だから今日は、面白い品を持ってきたぞ」

 二人きりの部屋で、殿下が箱を僕の前に差し出した。

「これは?」
「中を見てみろ」

 言われるがままに僕は頷いて、リボンを紐解き、蓋を開けた。そして目を見開いた。そこには、男根を模した玩具が入っていたのである。驚いて張り型を手に取り、僕は赤面した。

「明日から、魔獣退治で三日ほど王宮を開ける。寂しいだろうから、それを使え」
「な」
「今では、もうお前は――俺無しではいられないだろう? 違うか?」

 せせら笑うように殿下が言った。僕は……反論出来なかった。悔しいがそれは事実だ。僕の体は、変になってしまったのだ。時折殿下が来ない夜は、体が熱くて仕方が無い。元々僕は、それほど性欲が旺盛な方では無かったはずなのだが、開かれきった体は、夜毎殿下の熱を求めるように作り変わってしまったらしいのだ。

「今夜はじっくりと抱いてやる」

 そう言うと、殿下が僕を寝台へと促した。殿下はそうしてまず、僕の陰茎の根元に、革製のリングをはめた。僕は怯えて頭を振った。

「嫌です、僕はこれ、嫌い」
「お前は堪え性が無いからな。夜は長い」

 残酷な言葉を聞き、僕は涙ぐんだ。この玩具を使う時、殿下は僕を中々イかせてくれない。中だけで達する事を強要する。僕はそうされると訳が分からなくなってしまうから怖いのだ。強すぎる快楽は怖い。

「あ……っ」

 僕をうつ伏せにした殿下は、ゆっくりと僕の体を舐める。まずは耳の後ろをなぞるように舐められ、その後はうなじを舐められ、そうして首筋に吸い付かれた。舌が僕の全身を這い、後ろの双丘を手で押し開くようにされ、菊門も舐められた。襞の一つ一つをなぞられ、僕は身震いする。その時、舌先を挿入されて、僕はギュッと目を閉じた。その後、今度は太ももの裏側、敏感な膝の裏側を舐められた。そうされるだけで、僕の陰茎は反応したが、射精はリングに阻止された。

「殿下、ぁ……早く」
「随分と淫乱になったな。俺がそんなに欲しいか?」
「うん……あ、殿下が欲しい……」

 僕は、どうすれば殿下が挿れてくれるのかも、教え込まされた。何といえば良いのかも、体に仕込まれてしまったのだ。殿下はそんな僕を見て、喉で笑っているようだった。

「そんなに俺が欲しいなら、今日は自分から乗ってみろ」

 殿下の声に、僕は起き上がった。そして殿下に向き合い、正面から腰を落とす。殿下の両肩にそれぞれ手を置いて、ゆっくりと陰茎を菊門にあてがった。殿下が僕の腰を支えてくれる。

「う、あ……ぁ……大きい……ン」

 巨大な亀頭が、僕の中に入ってくる。雁首まで入った時、殿下が僕の腰を強く持ち、引き寄せた。

「うああ!」

 そして一気に貫いた。奥深くまで穿たれて、僕は震えながら殿下に抱きついた。殿下が体を揺らす度、最奥を刺激され、僕は快楽から咽び泣いた。あんまりにも気持ちが良い。

「あ、あ、あ」

 気づいた時、殿下がいつの間にか動きを止めていた。代わりに僕の腰が揺れていた。

「本当に卑猥だな」
「やぁ、あ、動いて、あ、動いて、ぅ、あア……ああ!!」
「お前の好きなように動けば良い。俺は暫く見ているから」
「やだ、いやぁ、あ、あ、体が熱い……ン――!!」

 僕はもう、自分の体を制御出来なかった。涙をボロボロと零しながら、感じる場所に殿下の陰茎誘うように、夢中で腰を動かした。けれど力が抜けてしまって、上手く動けない。

「殿下、あ、あ、やだ、突いて……ん、ぁ……ああア!」
「仕方が無いな」

 殿下が苦笑し、やっと動いてくれた。感じる場所をダイレクトに刺激されて、僕は中だけで果てた。根元を封じられているため、射精は出来無い。全身に長い絶頂の漣が響いていく。この夜僕は、ずっと下から貫かれていた。殿下は僕を正面から抱きしめたまま、何度も僕の中に白液を放ったのだった。



 翌朝目を覚ますと、殿下の姿は無かった。
 既に魔獣討伐に出かけたらしいと教えてくれたのは、マークである。

 僕は香油をしまってある棚に、革製のリングと共に、殿下がくれた張り型入りの箱を置いた。使う予定は無い。あくまでも、殿下だから、僕の体は熱くなるのだと思う。玩具や――快楽だけが欲しいわけじゃないはずだ。

 そう考えて、僕はハッとした。
 僕は、殿下が欲しいらしい……。それこそ、恋では無いか。
 自覚すると、急に胸騒ぎがした。殿下が無事に帰ってくる事を祈ってしまう。

「魔獣は危険なのかな……」

 僕が呟くと、マークとルクスが、揃って僕を見た。不安に思って、僕は俯いた。

「第二王子殿下はお強いですし、何度も討伐に成功しておられるから、大丈夫では?」
「俺も……大丈夫だと思います……」

 二人が交互に言った。僕は小さく頷きながら、心の中で無事を祈った。僕は記憶の中にある、数少ない殿下の微笑を思い出した。僕に向かって殿下が笑ってくれるのは、貴重だ。今ではだいぶ冷たさが減ったようにも思うが、寝台の上では残忍であるし……殿下は多分、僕を好きでは無いだろう。そう思うと、心が疼いた。

 無事に帰還したという知らせが届いたのは、それから二週間後の事だった。
 安堵していたその日の夜、ティセラード殿下は僕の部屋へと訪れた。

「寂しかったか?」
「……」

 全力で「はい」と答えそうになってしまったが、恥ずかしかったので止めた。すると殿下が冷たい顔をした。

「少しは寂しがってみせろ。他の側妃達は、俺の帰還を喜ぶ手紙や花を寄越したぞ? お前からは何も無かったが」
「申し訳ありません」

 僕には、贈り物をするという発想が欠落していた。ただ、顔を早く見たいと願っていただけだったのだ。

「まぁ良い。俺も手紙や花よりも、お前自身が欲しいからな」

 殿下はそう言うと、僕を抱きしめた。扉の前に立って出迎えた僕を、正面から抱きしめたのである。僕は力強いその腕の感触に、泣きそうになってしまった。本当に無事に帰ってきて良かった。

 もう僕は認めるしかない。いつの間にか僕は、それこそ契機は体を絆された事だったのかもしれないが、紛れもなく現在、ティセラード殿下の事を好きになってしまったらしい。

 おずおずと自分の手を、ティセラード殿下の背中に回してみる。すると殿下が小さく息を呑んだ。そのまま僕達は、暫しの間、無言で抱き合っていた。殿下の胸に額を押し付けて、僕は本当に無事で良かったと、何度も何度も考えた。

「ン」

 その時、殿下が僕から腕を離し、僕の顎を取って、唇を重ねた。薄らと僕が唇を開けると、殿下の舌が入ってくる。歯列をなぞられ、舌を絡め取られる内、僕の呼吸は上がり始めた。すると息継ぎを促すように、殿下が角度を変える。必死でその時に、僕は息を吸った。何度も何度も口腔を貪られる。このように熱烈なキスをしたのは、初めての事だった。

「は、っ」

 唇が離れると、僕と殿下の間では、唾液が透明な線を引いていた。
 そのまま、殿下は近くの長椅子に、僕を押し倒した。

「寝台に行くまですら、我慢が出来無いほど、ユーリが欲しい」

 殿下はそう言うと、強引に僕の夜着を脱がせた。そして首筋に吸い付くと、キスマークを残す。僕の肌には、沢山のキスマークが散っていく。僕はティセラード殿下の首に腕を回し、幸せに浸っていた。

 右胸の突起に吸いつかれ、舌で乳頭を転がされる。そうしながら、手では陰茎をなぞられた。そうされるだけで、僕の体は反応した。すぐにそそり立ち、透明な先走りの液を零し始める。殿下が僕の右の太ももを持ち上げて、斜めに挿入してきた。僕の体はすっかり慣れていたから、解されたわけでは無かったが、殿下をすぐに受け入れた。

「あ、ああ……あ……ン……ぅ……ぁ、ああ!!」

 求めていた熱に穿たれて、僕は歓喜から涙を零す。決して快楽を求めていたわけではない。殿下を求めていたのだ。殿下の存在を感じたかったのだ。やっぱり僕は、殿下を好きになってしまったのだ。

「愛しているぞ、ユーリ」
「あ、あ……ああ、ン!」

 僕も愛していると伝えたかった。しかし激しく打ち付けられている為、口からは嬌声しか出てこない。話をする余裕が無かった。

「ん、ぁ、ああ! あ、あああ! 殿下、あ!」
「この二週間、お前の事を考えない日は、一度も無かった」
「ン――っ、ぁ、あああ!」
「出すぞ」

 そのまま荒々しく動き、殿下が放った。まるで獣のような交わりだった。