【十四】ストーキング(SIDE:セギ)
はっきり言って、モブ――こと、シノンは可愛い。顔面男前受けの赤面は、俺の中で本当に最高だ。結構押し流されやすいらしいのは問題だが、俺にとっては都合が良い。絶対に手に入れると、俺は決めた。
しかし、やはり気になるのは、シノンが楠門をくぐって何処に行くのか、だ。
あちらには帝国の緩衝地域しか、行く場所は無い。
俺はこの日、再び尾行する決意を固めた。好きな相手の事はなんでも知りたい。
ストーカーと呼ぶなら、呼べば良い。そんな心境で、俺は人混みに紛れた。
シノンは緩衝地帯へと迷わず進んでいく。そしてカフェに入った。時間的に、朝食だろう。俺は買い物客のフリをして、カフェの隣の花屋の前に立ち、暫くウィンドウ越しにシノンを見ていた。シノンはサンドイッチを食べてから、会計へと向かった。それを確認して、俺はさりげなくカフェの方へと歩く。そして丁度出てきた所のシノンに声をかけた。
「あ」
「!」
するとシノンが目を丸くした。そして――最近の常であれば、俺を見て真っ赤になるのだが、慌てたように周囲を見渡した。こういう反応は初めてだ。
「か、神様。そこで何を?」
「セギで良いって言ってんだろ」
「……早く帰った方が」
「なんでだよ?」
「ここは帝国の領土です。色々、その――」
シノンが何かを言おうとした時だった。
「おや、知り合いか?」
声がかかった。視線を向けると、帝国の騎士装束を着た長身の青年が立っていた。
俺の知り合いではないが、こちらに声をかけられたのは間違いない。
そう思ってシノンを見ると――俺が過去、見た事の無い表情をしていた。
完全なる無表情で、水のように冷たい。
「いいえ。道を聞かれただけです。では、俺はこれで」
シノンが俺から顔を背け、歩き出した。騎士は暫しの間俺を見てから、小さく頷き、すぐにシノンを追いかけて、隣に並んだ。
「道……?」
無関係を装いたがっていたのは明らかだった。何故だ?
若干苛立ちつつ、俺は踵を返す。
「物語想像者だよな、エリアーデにいるんだから、シノンも。それが、よりにもよって敵対的な帝国の騎士と知り合い? どういう事だ?」
腑に落ちないながらも、俺はエリアーデに戻った。