【十七】惨めだけどさ、神様には迷惑、かけたくないだろ(SIDE:シノン)




 ――あーあ。見られたくなかったなぁ、神様に。こんな、惨めな姿。

 俺はそう思いつつ、かかと落としをくらった。頭のてっぺんが痛い。顔から地面に突っ伏した。リアス様は、容赦ない。全身がじくじくと痛む。

 場所は、噴水の前。
 俺は土の味を口に感じながら呻いた。
 その時、背中に鞭が飛んできた。

 あの日、神様と体を繋いだ日、俺は上着だけは脱がなかった。神様も下しか脱がせなかったから良かった。もし見られていたら、神様も萎えていただろう。俺の背中は鞭の傷跡だらけだ。俺は治癒魔術を使えないから、一生消えないだろう。俺を治癒してくれる人もいないしな。

「やりすぎじゃないのか?」

 ――神様の声がした。俺は目を見開いた。

「なんだ貴様は? ん? 何処かで――……ああ、先日は緩衝地域で」

 愉悦たっぷりの表情で、リアス兄上が笑っている。俺の背筋を冷たいものが通り抜けていく。俺と知り合いだなんて知られたら、セギ神がどんな目に遭うかも分からない。

「ムメイ。嘘をついたな? 知り合いだったんじゃないか」
「……」

 俺は答える言葉を探した。
 そうしていたら、セギ神が、俺の隣に屈み、俺の肩に触れた。俺の事なんて、放っておいてくれれば良いのに。リアス様にもし目をつけられたら、セギ神だってただでは済まないかも知れない。

「知り合いだったら何か問題があるのか?」

 セギ神が問いかけると、リアス様が哄笑した。

「嘘をついた愚か者には制裁をしなければならない」
「――知人でなくとも、見かねて割って入る程度には、酷い行為をしていると思うが」

 冷静にセギ神が返した。するとリアス様が、鞭で地面を叩いた。砂埃が舞う。

「帝国の行いに口を出さないでもらいたい」
「仮に帝国に仕えているにしろ、ここに和平前から来ていた様子のこちらのムメイとやらは、物語想像者のはずだ。エリアーデの街において、物語想像者は保護される立場だと明確に決定されている。不法行為をしているのはお前だ」

 俺を庇ってくれているセギ神は、本当に神様だと思う。だが、俺の事など気にしなくて良いのに。セギ神はちょっと優しすぎる。リアス様が怖い人だというのは、見れば分かるだろうになぁ……。俺は、この程度平気なのになぁ。

 そう思うのに、打たれた背中が痛むから、声が上手く出てこない。

「そうか、では帝国に連れ帰り、拷問にかけるとするか。そろそろ捨て時なのだろう」
「捨てる? つまり、お前は、こいつがいらないって事か?」
「その通りだ。もう不要だ」
「だったら、俺が拾う。俺にくれ」
「ゴミ捨て場は、あの世だが?」
「こいつにとっての天国は、俺の家だそうだぞ?」
「――ほう。やはり知り合い、どころか、親しそうだな、思いのほか。考えておこう。これは楽しめそうだな」

 リアス様はそう言うと、俺の前に立って、俺の肩を蹴りつけた。

「立て。行くぞ」
「シノン。行く必要は無い」
「……行きます」

 答えた俺の声は、掠れていた。