【三】生徒会室(☆)
このように、僕の生活には王立学院も加わった。その関係で、ごくまれにゼルス殿下に呼び出されるようになった。主に宿題を押し付けられている。この前も、ラズラ語の課題を二回もやった。ラズラ帝国は、治癒魔術が盛んで、その理論についての自分の考えを書かせられた。
僕達が暮らすアデルバイド王国は、どちらかといえば攻撃系やそこから派生した防御・索敵系の魔術が主体なので、それ自体は面白かった。
なお、僕は人脈つくりも開始する事になった。
学院には家から従者を二人連れて行っている。二人とも実を言えば、まだ僕より魔術に限っては未熟なのだが、情報収集能力や的確な意見をくれるので助かっている。その二名と共に、僕は派閥を構築して問題が起きない相手を確認し、ゼルス派(内部の僕派)の構築に努めた。上辺だけの付き合いだ。
一年、二年、三年。
あっという間に時は流れ、僕は十三歳となった。この年、ゼルス殿下が、生徒会に入ると言い出した。普通王族は、そういう雑用係はしないので、僕は珍しいなぁと思った。伝聞で聞いていた時はそう考えていたのだが、数日後……。
「カルナ、この書類を片付けておけ」
急に僕は生徒会室に呼び出された。
そして目の前に大量の書類を押し出された。
「資料はすべて棚にある。今日中に」
「は、い……?」
「副会長にしてやる。光栄だろう?」
「えっ……?」
「俺に対して、その返答が適切だと考えているのか? エゼキリア公爵子息」
「……申し訳ございません」
この日から、急に僕は生徒会の副会長になった。突然の事すぎた。僕は昨日までの副会長の所在を探し、既にゼルス殿下を怒らせて退学処分になっていると知った。泣きたい。
さてゼルス殿下は、仕事をしない。何故なのか、僕の机に、自分の仕事書類を載せている。ただ本人はそうして、公務関連の仕事などをしているから、僕達は同じ空間に入るという状態になった。僕は右も左もわからなかったが、なんとか慣れて、書類を完成させ、最初はゼルス殿下にチェックしてもらっていたが、その内にそれはなくなった。今では完全に僕の仕事となった。仕事を覚えてきた事に安堵していたら、それがよくなかった。なんと――公務の内の僕にも可能な書類まで、そこに混じってくるようになったのである。僕の仕事ではない。しかし、断れない……。
十四歳までの一年間は、そのせいで、月一どころではなく、仕事が終わるまで生徒会室に拘束され、かといって魔術やその他の家庭教師の時間が減るのでもなかったから、僕は寝不足だった。そんなある日、僕には二次性徴が訪れた。
――ゼルス殿下はまだである。
「気に入らないな」
僕が資料を棚からとっている姿を、非常にゼルス様は不機嫌そうに見てくる。
「俺を見下しているように見える」
「そのようなつもりは――」
「では這え」
「っ」
泣きたい心地で、僕は資料を机に置いた。僕は言われた通りに、床に跪く。ソファに座って足を組んでいるゼルス殿下は、暫く僕を睨んでいた。
それが落ち着いたのは、十五歳の誕生日が近づいてきた頃だった。やっとゼルス殿下にも二次性徴が訪れたのである。しかも速度が速く、僕は一気に並ばれた。正直ほっとしていた。
だが――……事態は、まさかの悪化を見せる事となった。
十五歳になったある日、もうそろそろ秋も深まったなぁと僕は、生徒会室の窓から外を見ていた。最近は、僕しかここにいない事が多い。理由は、ゼルス殿下が恋に浮かれているご様子で、仕事に来なくなったからだ。その分僕には、押し付けられた生徒会と公務の仕事が回ってくるが、一人の方が気が楽だった。なお、ほかの役員には、僕はあった事がない。完全に僕は書類専用の人間と化している。行事があるとそちらの楽しい部分をゼルス殿下を含めてほかのメンバーが担当しているが、僕はそういう場合の当日は結界を張るのに忙しいから基本的に関われない。いつも適当に理由をつけて、参加しないようにしている。この十五歳の終わりの卒業パーティは、ある種の夜会デビューの予行演習としても有名だから、僕はそちらに関する生徒会の仕事書類を終えたところだった。
ガタンと音がしたから顔を上げると、ゼルス殿下が入ってきたところだった。
何故なのか、殿下は扉に内鍵をかけた。
「カルナ」
「はい」
「舐めろ」
僕が何を言われたのか考えていると、歩み寄ってきたゼルス殿下が、僕の顎を急に持ち上げた。既にすっかり背が高いので、僕は首が痛くなった。
「んン」
そのまま唇が降ってきたものだから、僕は最初困惑した。
え?
何が起きている……?
乱暴な口づけが終わった。僕は目を見開いた。
「今、教えてやった場所で、俺のものを咥えろと言っている」
「……え?」
ゼルス殿下は、ベルトをはずすと、ソファに座った。
「早くしろ」
僕はそこに反応しているゼルス殿下の陰茎をみとめた。直後、狼狽えすぎて、ガタっと立ち上がり、壁際に後退してしまった。
「口よりも中の方が好みか?」
「な……ゼルス殿下。そ、その……ご容赦ください」
「ああ。口で許してやる」
「!!」
ゼルス殿下が激しく不機嫌そうな顔をしている。しかしながら、僕はそそり立っている陰茎を見て完全にびっくりして怯えていた。我ながら、人生でこんなに血の気が引いたのは、それこそ木刀 (ではなかったが)を絨毯に突き立てられたあの時くらいのものである。
「さっさとしろといっている」
「……」
「カルナ」
「……」
「カルナ。誰の命令だと心得ているんだ?」
「……ゼルス殿下のお心のままに」
僕はガチガチに緊張して涙ぐみながらも、そう告げた。何を考えているんだ、この殿下は。前々から自己中心的過ぎて何を考えているか謎ではあったが、今回は本格的に意味が分からない。しかし逆らえない。逆らったらどうなるか分からない。
僕は意を決して歩み寄った。
絨毯の上に膝をつき、恐る恐る両手で殿下の陰茎に触れてみる。
「俺は咥えろと言ったんだ」
「……っ、はい」
僕はギュッと目を閉じて、唇を開いた。そして先端を口に含んだ。
「下手すぎる。もっと口を使え」
そんな事を言われても、僕はまだこの方面の知識を学んでいないからわからない。
「っく」
すると喉の奥深くまで、急に突っ込まれた。
「歯を立てるな」
「んっ、ぐ……ンん!」
そのまま髪を掴まれ強引に動かれて、息が苦しくなる。本格的に僕が涙ぐんだ直後、殿下が放った。思わず僕は飲み込んでしまった。
「次からも飲むように。そこのみ及第点だ」
「……」
次もあるというのか……? と、僕は怯えた。
そして、なんとその翌日には、恐れていた『次』があった。放課後になるとゼルス殿下は生徒会室にやってくるか僕を呼び出し、そして僕に咥えさせるようになった。その上で、口淫指導としかいえない指示が飛ぶようになった。しかし書類が減るわけでもない。僕は毎日くたくたになってしまった。
だから冬になったその日は、疲れていたのかもしれない。
思わず生徒会室で、僕は微睡んだ。
「……っ」
目を覚ますと、僕はソファの上にいた。そしてかけられていた毛布が床に落ちた。
「目が覚めたか?」
「あ……」
「お前も寝るんだな」
「失礼いたしました。運んでくださったのですか……」
「まぁソファの方が何かと都合がいいからな」
「はい?」
起き上がろうとした僕を、ゼルス殿下が押し倒した。そして強引に服を引き裂くようにして開けた。制服のボタンが二つ飛んだ。
「挿れるぞ」
「え」
唖然としている内に、首筋に吸いつかれた。呆然とし過ぎて、僕は抵抗も忘れていた。元々、魔術以外は、ゼルス殿下の方がセンスがいいし、今では体格も違う。僕もそこまで背が低い方ではないが、ゼルス殿下にはかなわない。
「あっ……」
ゼルス殿下の指が、僕の後孔から入ってきた。緊張で僕は体をガチガチにする。
「力を抜け」
「無理です」
「抜け」
「……っ、ぁ……」
衝撃的過ぎた。指先で内部のある個所を押しつぶすようにされた時、僕は未知の感覚に震えた。
「どうしてこのような……ァ……」
「未経験では格好がつかなくてな」
「あ」
「練習させろ。嬉しいだろ? 相手はこの俺だ」
練習……その言葉で、僕は最近殿下が恋に恋するお年頃だったらしいという噂を思い出した。今のお相手が誰だったかまでは思い出せないが、まぁ誰かいるのだろう。どうやらきっとそのお相手と行う前の――練習台というわけらしい。なんだかちょっと納得はした。
ゼルス殿下がそれ以外の理由で僕を抱くというのは、逆になさそうだ。
「考え事か? 余裕そうだな」
「ひぁっ」
その時、内部をぐりぐりと刺激されながら、僕は陰茎を握りこまれた。両方から刺激を与えられると、ゾクリとした。指がそれからすぐに二本に増えた。
「――あ、っ」
僕はこの日、二度果てさせられたが、幸い指は二本以上入ってこなかったし、それ以上もなかった。それが終わって、僕がぐったりとソファに沈んでいると、ゼルス殿下がいった。
「続きは明日するから、王宮へ来い」
「え」
「公務が終わるのが六時だから、七時にこい」
「ま、待っ――」
「では、明日」
ゼルス殿下はそのようにして、僕を放置して帰っていった。
僕は顔面蒼白状態で、なんとか服を整えて帰宅した。まずい、これはまずい。貞操の危機だ。僕は狼狽えすぎてしまい、父の書斎の扉を激しくノックした。
「どうしたんだ?」
「じ、実は……そ、その……」
「端的に用件のみを言うようにと教えてきたつもりだがね?」
「……ゼルス殿下に明日の夜十九時より王宮にお招きいただいております」
「よろこばしいことでは? 何か問題が?」
「貞操の危機なのです」
「ん? なんといったね?」
「ゼルス殿下は、僕の体をお望みなのです……」
「――婚約といった話の打診はない。また公爵家のお前が後宮にあがる事もない」
「ゼルス殿下もそういうおつもりはないと思います」
「――弱ったな。まずは話をしてみるといいが、私からは何もできない。万が一本当につらくなったら、これを飲みなさい」
父はそういうと、指をパチンと鳴らして、空間魔術で小瓶を取り出し僕に渡した。
「これは?」
「飲めばわかる」
死ねという事だと僕は判断した。