【六】SIDE:ゼルス







 ゼルスが位置を特定したのは、リュクスが隣国特有の回復魔術のために魔力を全開放した瞬間である。それで位置を特定した時には、嫌な予感しかしていなかった。周囲が止めるのも聞かずに、ひたすら走る。

 扉をあけ放った時、そこには血まみれのカルナとリュクスの姿があった。
 カルナには意識がなく、リュクスがひたすら険しい顔で回復魔術を使っている。
 ゼルスは床に落ちている短剣を見た。
 ――見覚えがあった。護身用だと聞かされてはいたが、実際には自害用途もあると知っていた品だったからだ。短剣を持つ高位貴族はこの国では多い。

「ゼルス殿下、俺のせいだ。至急回復魔術が使える応援と医官を呼んでくれ!」
「……っ、違う。俺のせいだ。これは――エゼキリア公爵家の、中でも王位継承権のあるカルナには、王家に害が及ぶ場合に自害するようにという教育がなされていた」
「助かるものも助からなくなる。頼む、話はあとだ、早く行け!」

 リュクスの声に、唇をかんでから、ゼルスは最後にもう一度カルナを見てから、踵を返した。



 ――結果として、カルナはリュクスの回復魔術で一命をとりとめ、その後駆け付けた人々の手により、傷自体も消えたが、まだ目を覚まさずベッドの上だ。

 その部屋のソファに、向かい合ってゼルスとリュクスは座っている。

「すまなかった。俺が悪い。カルナは何も悪くないんだ。ゼルス殿下、本当にすまない」
「……」
「カルナが、ゼルス殿下の気持ちに気づかないのがもどかしくてならなかったんだ。だから一計を、と……浅はかだった。ゼルス殿下も、カルナの身に危機が迫ったとなれば、素直になられるのではないかと平和に考えていたんだ、俺は」
「……ああ、そうだな。俺は探しながら、自分の気持ちを何故一度も伝えなかったのかとそればかり考えていた」
「一度も……では、カルナの意識が戻らなければ……」
「……リュクス殿下。俺は、カルナの目が覚めても覚めなくても、そして行動の動機が仮に善意であったのだとしても、生涯貴殿を許す事は出来ない。ただ同じくらい……自分が赦せない」
「ゼルス殿下……俺を許す必要はない。ただ、この件は俺の過失だ。ゼルス殿下にも責任はない」
「いいや……俺はこの十六年、何をしてきたんだろうな……」

 カルナの意識が戻ったのは、その二時間後の事である。