【七】申し出
目を覚ました僕は、ハッとして喉に触れた。すると包帯が巻かれていたが、もう血は出ていなかった。それから、正面にいる二人を見た。ゼルス殿下とリュクス殿下である。そういえば帝国は回復魔術が盛んだったなと僕は思い出した。二人もまた僕を見た。一瞬の間、室内には沈黙が訪れた。その後は、大騒ぎとなった。僕の意識が戻ったため、再検査が行われる事になったからである。
それらが落ち着いた頃になって、改めて三人になった。翌日の昼の事だ。
「――カルナ。申し訳なかった」
リュクス殿下が謝罪をしてくれた。ちょっとした悪戯のつもりだったらしい。
まったく……心臓に悪い。だが、リュクス殿下をリュクス先輩として慕っていた時のことを思い出す限り、実際そうだったのだろうと僕は思った。ゼルス殿下は無表情で、ずっと沈黙している。時折怖い顔をして僕を見る事はあるが、何も言わない。
「そこで、責任を取って帝国でカルナを引き取りたいんだ」
「え?」
リュクス殿下の声に、僕は驚いた。
「王立学院には騒ぎが漏れているし、そうでなくとも酷い噂があっただろう? それらが落ち着くまでの間だけでも、いいや一生いてもらっても構わない。留学という形でまずは帝国に来ないか? 俺に贖罪させてほしいんだ」
ラズラ帝国ならば言葉もわかるし不安はない。だが、僕は先にすることがある。
「あ、あの……ご迷惑をおかけしてしまったことを、まずはゼルス殿下にお詫びがしたくて……」
「では、二人きりにする」
頷き、リュクス殿下が出ていった。二人きりになった部屋で、僕はゼルス殿下を見た。
「本当に申し訳ございません。僕が迂闊でした」
「……カルナ、行くのか?」
「そうですね……王立学院にこのままいるよりも、元々留学も検討してはいたので、一度行ってみてもよいかと思います」
その方が、今後のゼルス殿下の婚約者選びの時も良いだろう。僕がいたら、また嫉妬が怖いと怯えられてしまう。
「……戻ってくるか?」
「ええ。公爵家の後継が僕以外に決まらない限りは、戻ると思います」
「……」
「ゼルス殿下、あの……本当に申し訳ありませんでした……」
「二十歳で貴族が王立学院に進学するのは、王国の義務だ。戻れ」
「……そうですね」
僕がそのころまでにこの騒動が理由で廃嫡されていないか、留学にかこつけてこのまま国外追放されないか、あるいは帝国で誰かと結婚して帝国籍になっていなければ、その通りだ。だが僕は、ゼルス殿下にご迷惑をおかけしてしまったから、どんな処分になるか不透明だ。しかも今回は帝国の皇族もかかわっている。内々に処理されるだろうが、人の口は閉じられない。
「必ず……戻れ」
「はい」
僕は頷いた。きっとゼルス殿下なりに心配してくれているのだろうと感じたからだ。