【一】力的には最強になったものの、思ったのと違った。







 願いを叶えてもらった結果、俺は最強になった。この世界で俺に並び立つ魔力の持ち主はいないし、魔術の練度も剣技の腕前も、その他知識も、俺以上の者は誰もいなくなった。ただし、それはあくまで、能力面でしかなかった……。

 俺が最強になりたかった理由は、勿論現実に嫌気がさしていて、異世界でやりなおしたいというような理由もあったが、もっと単純だった。

 みんなに好かれたかった。
 具体例を挙げると、梓眞のように輪の中心にいられるような、そんな存在になりたくて、力があったらそれは叶うと思っていた。

 だが……現実は、世知辛い……。

 現在俺は、ポツンと一人で窓の前に立っている。どこにポジショニングしたらいいのかも分からず、うろうろした結果だ。部屋の中央には、囲まれている梓眞がいる。

 今、俺達は異世界人村と呼ばれる区画に集められ、保護されている。というのも、預言により、転移してきた異世界人しか倒せないダンジョンが現れるとこの大陸では言われていて、そこへ実際に俺達が訪れた上、ダンジョンも出現したかららしい。俺達は大陸各国の人々に保護されつつ、協力したりしながら、ダンジョンを攻略する事になった。

 現在は一応、その話し合いをするべく、この部屋に俺達はいる。一定以上のレベルの者が集められた形だ。なお、この場には男しかいない。どころか、この世界には男しかいないのだという。子供は、神に祈ると卵が届くらしい。よく分からない。

 異世界に来て衝撃的だった事の一つが、男同士の恋愛が普通というか、女性がいないのでそれしかないという事だった。そして、ここでも格差があった。モテるのは、可愛らしい男なのだ。そう、梓眞のように。色素の薄い髪と目をしていて小柄で色白の梓眞は、現地人にも、同じように転移してきたみんなにもモテている。無論、人柄もあるだろう。元気で明るい。

 俺はと言えば、背は平均的であり、体躯は正直痩身で肉が薄く、可愛い系ではない。かといって、格好良くも無い。男らしくもなく、中性的でもない。俺は自分を評する言葉を、とりあえず陰キャ以外で探そうとしたが、困難だった。しかも口下手の俺は、誰にでも平等に話しかけてくれる梓眞とは喋れるものの、他の人々とは「ああ」だの「おう」だの「うん」だのという返事をするのがやっとだ。

 コミュ能力格差は現実同様健在であり、それは外見格差よりも酷い。

 確かに最強の力は欲しかった。
 でも、俺が欲したのはその部分ではなかったと、最強の力を手に入れたからこそ理解した。俺はただ、友達や仲間が欲しかったのである……。それらを手に入れてこそ、真の最強だろう……。つまりそう言う意味で、俺はまだ最強ではないと言える。

 ダンジョンの攻略も、みんなはパーティやもっと大きな集団で行くのに、俺は誰かを誘ったりできないし、そもそも一人で倒してしまえるため、ほとんど一人で行っている。即ちぼっちだ。今日だって、ここに呼ばれたのは、レベルの問題である……。

 なおダンジョンは集まればいいというものではないから、今回のクラスのものならば、多分俺に討伐指令が下る。そして俺は最強なので、一人で行くのだろう……。

「気をつけてな!」

 その予想は的中し、心配そうながらも必死に笑っているような顔の梓眞とその周囲に見送られ、俺はダンジョンへと向かう事になった。

「さっさと歩け」

 俺の後ろをついてくる現地人の魔術師であるラークがボソっと言った。
 ラークは現地人最強の魔術師だそうで、【斜塔】と言われる塔で一番偉く、その塔は大陸一権威があるらしい。各国の君主も一目置くらしい。なんでそんな要人が俺のあとをついてくるのか……それはよく分からないが、多分、俺が異世界人であるから、力を悪用しないように監視しているんじゃないかと思う。

 ラークはいつも、現地人が立ち入れるギリギリ――即ちダンジョンの前までついてきて、俺が倒して戻ってくると、また俺を連れて異世界人村の区画へと戻る。あるいは逃げないように監視もしているのかもしれない。

 なお、現地人最強といえるラークは、俺に対しては発揮しないが、コミュニケーション能力もあるようで、現地人にも俺達異世界人にも崇められている(俺は崇めた事は無いが)。その上、類まれなるイケメンであり、鴉の濡れ羽色の髪も、紫色の瞳も、整った鼻筋も、大層美しい。身長も高く、ゆったりとしたローブを纏ってはいるが、それでも均整がとれた引き締まった体躯、細マッチョと呼ぶにふさわしい筋肉の持ち主であるのは間違いない。俺との共通点は、最強という部分のみで、それ以外は交わらない……。

 この日もラークはダンジョンの前で立ち止まった。チラリと見れば、何故か睨むように俺を見ていた。睨まれても困るのだが……。しかし俺の口は何も言葉を発してくれないので、俺はそのままダンジョンへと入った。

 三階建てのダンジョンで、巨大なドラゴンを俺は倒した。
 ちなみに最強であっても魔力を使えば疲れるし、攻撃されて当たれば怪我もする。
 今回はドラゴンが口から吐きだした風の刃が腕に掠って、俺は負傷した。
 正直痛いが大した事ではないので、俺はあとで治癒魔術を使おうと決めて、ダンジョンから出た。ダンジョンは、中にいるボスが倒れると、数時間で倒壊する。避難が優先だ。

 こうして外に出ると、ラークが顔を上げた。

「終わったぞ」

 いつもの通り俺が告げると、眉を顰められた。なんだろうか。完遂したと思うんだけどな、俺は。

「その怪我は……」
「ん? ああ」

 俺は存在を忘れかけていた怪我を見た。服が破れていて、まだ血が出ている。ただそちらよりも、膨大な魔力を使ったせいで、立ち眩みがする。俺はよろけた。すると――抱き留めるように、ラークに両腕を体に回された。

「あ、悪い」

 ふらついてしまったと気づいて、俺は体勢を正そうとした。だが、より強く腕に力がこもった。

「……どうしてお前は、いつも一人なんだ?」
「は?」
「仮に他の者が役に立たないのだとしても、治癒させたり、ふらついた時に支えさせるような――とにかく誰かを伴うべきだ」

 ラークの言葉は正論かもしれない。でも、コミュ障の俺に、そういった理由で気軽に誘える同郷者など皆無だ。悲しいだろう、考えさせないでほしい……。

「――一人で問題無いからだ。離してくれ、もう平気だ」

 俺はそう告げた。コミュ障のボッチと言われるのが悲しかったので、強がったと言える。すると手を離してから、ラークが深々と吐息した。こうして俺達は、帰路についた。