【二十四】キャラの崩壊(☆)
昼食時、シュトルフが俺の手土産の葡萄酒を開けた。
そこそこ美味だと俺は思う。
「どうだ?」
「美味い。暑い産地の葡萄酒が元々好みなんだが、これは飲みやすい」
「昨日俺も少しだけ口にしたんだけどな、俺も好きだ」
シュトルフの好みを、俺はまた一つ覚えた。これからもっと知りたい。
……って。
俺、乙女だな? ちょっと自分が気持ち悪く思えてきたぞ? 焦る。
シュトルフは俺を好きだというが、それは基本的に俺の記憶がもどる前の――ユアをメインにした場合の攻略対象だった頃の、補正がかかっていると考えられる。シュトルフも甘すぎてキャラの崩壊が著しいが、俺の方こそまずくはないか? 幻滅されたりしないのか?
今や断罪されるはずだった、脇役(モブ)に等しい俺だ。
俺はシュトルフの長い指がワイングラスを持つ姿に、ただ見惚れていたら良いわけではないはずだ。今後、俺は過去の自分を維持するためにも、頑張る必要性があるのかもしれないぞ?
根本的には記憶が戻っても、ほとんど俺は変化が無い――と、認識してはいる。だが実際のところは分からない。
「なぁシュトルフ」
「なんだ?」
「その……お前って、ずっと俺の事を見てきてくれたんだろう?」
「ああ」
あっさりとシュトルフが頷いた。それはそれで照れてしまうのだが、問題はそこではない。
「最近の俺は、前とは違うか?」
率直に俺は尋ねた。
「正直な話、全く違う」
「え」
「そもそも俺を好きだと言いだした頃から、クラウスは……簡潔に言うと、親しみやすくなった」
「ま、前の方が良かったか?」
「いいや? クラウスはクラウスだ。どんなクラウスも、俺は好きだが?」
……シュトルフよ。俺を好きすぎるだろう!
ああ、もう、照れない方が無理だ!! 思わず俺は、ワイングラスに手を伸ばし、葡萄酒を口に含む。胸の中が甘酸っぱい。ドキドキする。決して酔いが回ったからではない。
「ただ最近は、クラウスも俺の事を意識してくれているように見えて、それが嬉しくもある」
「……婚約者を意識しないわけがないだろう?」
「つまり、少しは俺を好きになったか?」
「べ、別に元から嫌いだったわけじゃない」
怖くはあったが、嫌いだったわけじゃないというのは本心だ。
「嫌いじゃないだけでは、もう足りない。もっと俺を好きになってくれ」
「お、おう……」
「――食後は、寝室に誘っても良いか?」
「う……べ、別に? お、お前、さっきまで散々俺に魔法薬茶を振舞っておいて今更……」
「自然と意識させないとな。じわじわ気持ちも絡め取っていきたい」
シュトルフが悪戯に成功したような顔をして笑った。
少しばかり意地悪そうに見える。
こいつ、こういう顔もするんだな……ずっと冷徹だと確信していたからこそ、様々な表情を知る内に、俺の心拍数は酷い事になってしまう。
こうして昼食の時は流れ、食後俺達は寝室へと向かった。
シュトルフが施錠する音を耳にしながら、俺はド緊張しつつ窓際に立つ。
そして空を見た。快晴だ。真っ青な空が、絵画みたいだ。いいや、油絵の空の方が、リアリティがあるかもしれない。
「脱がせて良いか?」
「自分で脱げる」
「脱がせたいんだ」
「っ、好きにしろ!」
後ろから抱きしめられた時、俺は思わず叫んだ。耳元にシュトルフの吐息を感じる。
シュトルフは後ろから腕を回したままで、俺の服を乱していく。
すぐに首元が緩められて、俺の鎖骨が外気に触れた。
うなじを舐められ、後ろから首元に口づけをされる。ツキンとその箇所が疼いたから、キスマークを付けられた事が分かった。カッと俺の頬が熱くなった。
ベストを脱がされ、それが絨毯の上に落ちる。ポツリポツリとシャツのボタンを外されていくのを、俺はされるがままになりながら確認していた。前が開いた時、布越しに、キュッとシュトルフが、俺の左右の乳頭を優しく摘んだ。ビクリとしてしまう。
普段はほとんど意識をしない場所だ。
ごく優しい力で、シュトルフが俺の乳首を、シャツの上から刺激する。
最初は違和感しかなかったが、不意に強く弾かれた瞬間、背筋に甘い熱がこみ上げた。
「ぁ……ッ」
必死で俺は声を飲み込む。途端、シュトルフの手の動きが意地悪く変わった。
シャツの下に手が忍び込んできて、ダイレクトに俺の左の乳首を二本の指で挟む。腕は回されたままだから、抱きしめるようにされたままで、その指を振動させるように動かされた。もう一方の手は、俺の下腹部に降りてきて、ボトムスの上から陰茎を撫で上げてくる。
「ん、っ……」
じわりじわりと熱が溜まり始める。ゆっくりと炙られるように、快楽を煽られて、俺は涙ぐみそうになった。前回よりも穏やかな愛撫だが、厚いシュトルフの胸板に背中が触れているせいなのか、体温をじっくりと感じてしまう。
ベルトを外され下衣を乱された。
「クラウス、座ってくれ」
「……あ、ああ」
言われた通りに、俺は傍らの寝台の上に座った。すると再び俺の背後に回ったシュトルフが、俺を抱きしめるように後ろに座る。そして再び俺の乳首を両手で摘んだ。緩急をつけて、俺の胸の突起を、シュトルフが嬲る。
すると次第に、胸から甘い疼きが全身に広がるようになった。気づけば、俺の陰茎は反応を見せていた。
――もどかしい。
「シュトルフ……っ、もう止め――」
「こちらが良いか?」
「ひッ」
シュトルフの右手が、俺の陰茎を握った。
「あ、あ、あ」
唐突に扱き上げられて、俺の体がゾクゾクとする。先走りの液が零れ始めるまでに、それほどの時は要しなかった。左の乳首を弄ばれながら、右手で陰茎を刺激され、俺の息が上がっていく。腰に熱が集中した時、俺は思わず唇を震わせた。
「ん、ぁァ……出る」
「一度先に放て」
「ンあ――!!」
そのまま呆気なく、俺はシュトルフの手で射精を促された。
体が弛緩し、びっしりと全身に汗をかく。髪が額やこめかみに張り付いてくる。
気づくと俺は、シュトルフの胸板に体を預けて、解放の余韻に浸りながら、大きく吐息していた。気持ち良かった。