【二十五】睡魔(☆)
その後俺は、うつぶせにさせられて、膝を折った。
「ん、ぅ」
俺の後孔に、香油をつけたシュトルフの指が三本入っている。前回よりも違和感は少なくて、丹念に解された事も手伝い、今日はついに三本入った。指先は、バラバラに動いている。時折その指が、俺の感じる場所を掠める。
「ふ、っ、ァぁ」
するとゾクゾクと、先日初めて知った後孔がもたらす快楽が、じわじわと俺の体にこみ上げてくる。しかしすぐに指はそこからそれて、俺の中を解す事に注力するようになる。
この頃になると、もう俺は、感じる前立腺への刺激をもっと欲しいと思っていたが、羞恥が優ってそれは口には出せない。
「ぁ、ぁぁ……」
シュトルフは熱心に俺の内壁を広げていく。尻を突き出す体勢で、俺はギュッとシーツを握っている。香油のぬめる水音が、卑猥に思えて恥ずかしい。既に俺の中はドロドロだ。
「ああ! ア!!」
その時、不意にシュトルフが、それまでとは異なり激しく指を動かして、前立腺ばかりを刺激し始めた。頭が真っ白に染まる。
「だ、ダメだ、それ、ダメだ、う、うあああ」
ビクビクと俺の体が震える。内側から広がる熱に全身を絡め取られ、気づくと陰茎が固く張り詰めていた。
「う、ぁ……シュトルフ」
「もっと俺の名前を呼んでくれ」
「シュトルフ、あ……体が熱、っ……んン!」
気づくと俺の瞳は潤んでいた。視界が歪む。丹念に開かれた体が、快楽しか拾わなくなっていて、俺は震える事しか出来ない。
「あ、あぁ、ァ――っ、うあああ!」
そのまま前立腺を刺激されつつ、前を擦られた瞬間、俺は放った。
快楽が指先までをも埋め尽くしている。何度も息を吐いていると、シュトルフがゆっくりと指を引き抜いた。ぐったりと寝台に沈んだ俺の横に、シュトルフが寝転がる。
「大丈夫か?」
「ああ……っ、平気だ」
俺が頷くと、手を拭いた後、シュトルフが不意に俺の頭を撫でた。ぼんやりとしていた俺は、そのまま撫でられていた。長いシュトルフの指先が、俺の髪を掬っている。それを認識しつつ、俺は猛烈な眠気が襲いかかってきた事に気がついた。
結果、気づくと俺は、瞬きをしたものの、瞼を開けられなくなり、そのまま意識を手放すように、眠ってしまったようだった。
「――ス。クラウス」
「ん」
優しい声で名前を呼ばれ、俺はうっすらと目を開けた。隣には、シュトルフの端正な顔がある。それを見て、俺は寝ていた事をやっと自覚した。
「あ、悪い……」
「いや」
「俺はどのくらい寝ていた?」
「三時間といったところだな。そろそろ夕食だから、起こしたんだ。そうでなければ寝かせておきたかったんだが」
「もっと早く起こしてくれても良かったんだぞ?」
「クラウスの寝顔を見ていたかったんだ」
「え?」
「いつまでも見ていられる」
シュトルフの言葉に、俺は赤面して、顔を背けた。
俺の体は清められていて、今回もシュトルフが処理をしてくれたのだと分かる。
それを理解しながら、俺はシュトルフに向き直った。
「その……」
「なんだ?」
「……ええと、シュトルフはイってないだろ? 大丈夫なのか?」
俺が尋ねた声は、思いのほか小さくなってしまった。
するとシュトルフが小さく吹き出した。僅かに苦笑も滲んでいる表情だった。
「これでも自制して、我慢しているんだ」
「そ、そうか」
「正直、クラウスが欲しい。ただ、触れていたり、寝顔を見ているだけでも、満たされる俺がいる。時に過去を振り返ると、こんな幸福な未来が訪れるとは微塵も考えていなかったから――嬉しくてたまらないんだ」
シュトルフはそう言うと、横になったままで、俺を抱き寄せた。腕枕をされる形となり、俺は頬が熱くなった。
王家では小さい頃から母とも別に寝るし、乳母が同じ寝台に入る事もない。
幼少時であっても、腕枕などされた記憶はない。それは公爵家でも変わらないと思うが。
だからどうしても照れくさく感じてしまう。
「早く、毎晩ここで、二人で眠れるようになりたい。クラウスを夜毎抱きしめたいんだ」
「シュトルフ……」
思わずシュトルフの目を見ると、じっと覗き込まれた。そうして、額にキスをされた。甘い空気に、俺は言葉を失ってしまう。何を言えば良いのか分からない。ただ胸が疼いた。
これ、は。
俺は十分に、シュトルフの事が好きになっているのではないのだろうか。
考えてみると、今更かもしれない。
こんな風に優しくされたら、絆されたって仕方ないよな?
ただ……まだ気づいたばかりだというのもあるし、俺はどのようにこの想いを伝えれば良いのかも分からない。
「有難う、そばにいてくれて」
シュトルフはそう言うと、再度俺の額にキスをしてから、腕を離した。そして上半身を起こす。俺もまた起き上がった。
――その後俺達は、呼びに来た執事の後に続いて、夕食の席へと向かった。
この日も俺の好物が沢山並んでいた。
「今日は泊まっていくか?」
「それは……いきなりすぎると朝も話しただろう?」
「ツァイアー公爵家には、いつでも滞在してもらう用意がある」
「そ、そうか」
「王宮にもすぐに伝令を走らせる用意がある。だから、クラウス次第だ」
シュトルフは楽しげにそう述べると、ワイングラスを傾けた。俺は小さく頷いてから、悩んだ。一応、ルゼフ叔父上やヴォルフ殿下の見送りを、俺はした方が良いと思っている。決して連れ帰られる事などありえないしな。俺が拒否する。
「帰る」
「そうか」
そんなやりとりをし、その後また天気の話をしつつ、俺達は夕食を終えた。
そして俺は馬車に乗り、王宮へと帰還した。