【二十】夜会B(★)






「ゼリル」
「は、はい!」
「俺は部屋に戻る」
「僕もそろそろ出るよ。もう疲れた」
「そうか。少し俺の部屋で話をしないか?」
「うん? そうだね、ちょっとお風呂に入りたいけど、少しなら」
「――では先に風呂に入ってから、俺の部屋に来てくれ」
「分かった!」

 会場の熱気に当てられていた僕は、その言葉に同意した。するとライゼ兄上が複雑そうな顔になった。

「ルイスが前に指導してくれた言質を取るという話を、ゼリルは覚えているか?」
「ん? うん。そういえば、無事に取れたみたいで良かったね」
「お、おう……俺の事は良いんだ」
「?」
「ゼリルもその教えを忘れないようにな」
「うん?」

 僕は意味が分からなかった。それよりも、一刻も早く会場を出たくなったので、エルトの前に一歩進んだ。

「行こう、エルト」
「ああ。ではライゼ、また」
「うん。二人とも元気でな」

 こうしてライゼ兄上に見送られて、僕はエルトと共に大広間を後にした。ルイス兄上には目が合ったので、笑顔を返しておいた。笑顔が返ってきた。

 その後階段で分かれて、僕は私服を手にしてからお風呂に向かった。
 それにしても夜会は長かった……。無駄に長く感じた。
 振り返ってみれば、ルシアには悪い事をしてしまったかもしれないが、エルトは……煽られるくらいには僕の事が好きだとしれてしまった。夢かな? 夢だったら泣く。いいや、夢ではないはずだ。お風呂から上がったら、話をする約束もしている。

 僕は体と髪を洗ってから、再び浴槽に入った。そしてじっくりと浸かりながら、今日はきっと良い夢が見られると考えた。

 こうして入浴を終えて、僕は真っ直ぐにエルトの部屋へと向かった。ノックすると声がすぐに返ってきたので、中へと入る。エルトは本を読んでいた。

「何を読んでいるの?」
「天球儀の塔に、簡易だがナゼルラ大陸とこちらの大陸の間の言語辞典が存在したんだ。ライゼに借り受けた」
「そうなの? 座標指定の最終確認が出来るね」
「ああ」

 頷くと、エルトが本を閉じた。僕はそれを見ながら、エルトの隣に座る。横長のソファが一つきりしか、この部屋には座る場所が無い。他はベッドくらいだ。すると座ってすぐ、エルトに手首を掴まれて、腕を引かれた。

「エルト?」

 僕が首を傾げようとしたその時には――僕は抱きしめられていた。百合の匂いがする。深く濃い良い香りに、目眩がしそうになった。しかし僕はもう結界を張ろうとは全く思わない。怖くなくなったからだ。

「ゼリルが好きだ」
「……!」

 僕は目を見開いた。香りの事が頭からスポンと抜け落ちるほどの衝撃だった。

「香りに囚われているのだとしても構わない。貴様が好きだ」
「!!」
「どう思う?」
「夢だったら立ち直れないって思ってるよ……」
「雰囲気をぶち壊すのが特技だったな、そういえば」

 エルトが苦笑した。それから僕の首筋に唇で触れた。驚いて僕は硬直した。

「え、え、え、え……」
「嫌か?」
「……あ、あの……で、でも……そ、その……嫌じゃないです」
「そうか。ゼリルは俺をどう思っているんだ?」
「……」
「教えてくれないか?」

 耳触りの良い声音で問われて、僕はドキリとした。顔が熱い。言わないと。言わなければ! 僕は伝えたい!

「僕はエルトが好きだよ」
「そうか。ゼリル、番いの香りがするのは、俺だけで良いんだろうな?」
「うん。今日も会場でも誰一人匂いなんてしなかったし、仮にエルトから匂いがしなくなっても僕はエルトが好き」
「俺のどこが好きだ?」
「怖い所以外全部」
「怖い?」
「さっき、ルシアと話してた時、僕を見る目が怖かった」
「どうして俺の目が怖くなったと思う?」
「――ライゼ兄上との話し合いが上手く行かなかったのかなって言うのが、最初に思いついた答えだけど……」
「不正解だ。ただの嫉妬だ」

 エルトはそう言うと、僕の服を乱した。上半身の服を脱がせられた僕は、少しだけ肌寒く感じて、ビクリとする。そんな僕の鎖骨の少し上に、エルトが吸い付いた。ツキンとその箇所が痛む。

「!」

 エルトが、僕の左胸の突起を、指先で弾いた。普段は存在を忘れているのだが、妙に今は気になった。心拍数が一気に上がり、ドキドキしていると、エルトが僕をじっと見た。その眼差しはやはり獰猛だ。猫のようだと感じた瞳が、煌めいている。

「ぁ……」

 僕の下衣の上から、エルトが僕の陰茎を撫でた。ゆるゆると布越しに手を動かされると、それだけで僕のものはすぐに固くなった。体から力が抜けて、僕は全身をソファに預ける。すると本格的にエルトが僕を押し倒した。片手で僕の手を握り、もう一方の手で陰茎を撫で上げる。

「っ、ッ」

 羞恥と緊張から、僕は涙ぐんだ。じわりじわりと熱がこみ上げてくる。声を出すのが恥ずかしくて堪えていると、エルトが僕の下衣を脱がせた。下着ごと取り去られて、僕は反応している陰茎を晒してしまった……。

「綺麗だな」
「……ぅ、ぁ……」

 直接的に握られて、僕は声を飲み込んだ。骨張っている長いエルトの指が、僕の雁首を刺激する。その後、手を添えられて、何度か擦られた。そうされるだけで、すぐにガチガチに固くなってしまい、僕はギュッと唇を閉じる。

「ぁァ……ダメ……出る……出ちゃう、エルト、あ」
「早いな」
「……」
「いつも早いのか?」

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ……。他の人と比較出来ないから、自分が早いのか遅いのかすら分からない。だけどこんなにも心地の良い香りの中で、大好きな相手に触られていたら、仕方が無いと思う。

「ダメ?」
「いや、良い。一回出すか?」
「ン!」

 エルトが手の動きを早めた。僕はどんどん昂められていき、思わず荒く吐息する。

「あ、ああ!」

 僕はそのまま放ってしまった。ビクビクと僕の陰茎が震えた。必死で息をした僕は、力が抜けて、ソファに全体重を預けた。僕の精液で汚れた手をエルトが持ち上げて、ペロリと舐める。その表情も獣のようで、僕はドキリとした。な、舐めた……。

「……」

 羞恥から僕の頬は熱くなった。エルトが艶めかしく見える。

「ぁ……」

 エルトが一度放って萎えていた僕の陰茎に、再び手を添えた。そして持ち上げると、端正な唇に僕の雄を含んだ。温かい口腔の感触に、僕はガチガチに緊張した。

「っ」

 ねっとりとエルトが舐め始めた。唇に力を込めて、雁首を重点的に刺激されると、すぐに僕の陰茎は再び硬度を取り戻した。腰から力が抜けそうになる。目を閉じて僕は体を震わせた。息が熱い。

「待って、また出ちゃう……ぁ……っ」

 目を開けて僕が言うと、エルトがチラリと僕を見た。目が合う。エルトはどこか意地悪な瞳をしている。舌先で鈴口を刺激されて、僕は息を詰める。

「あ、あ、あ」

 出る。出てしまう。そう思って、再びギュッと目を閉じる。
 そのまま昂められて、僕はあっさり二回目の射精をした。

「あ、はぁ……っ、ん……」

 全身から力が抜けていく。ぐったりとソファに背を預けながら、僕はエルトの喉仏が上下したのを見ていた。エルトが僕の放ったものを飲み込んだ……。恥ずかしい。そう考えていると、エルトが僕の左の太ももに触れた。手で持ち上げると、じっと僕の後孔を見据える。見られているだけで羞恥が募ってくる。

「あんまり見ないで」
「どうして?」
「どうしてって……恥ずかしいし……ひゃ!」

 その時、エルトが右手の二本の指で菊門をツンツンとつついた。その刺激に驚いて、僕は思わず情けない声を上げる。するとエルトが苦笑した。

「綺麗な色をしているな」

 エルトは左手を僕の太ももから離すと、ポケットから香油の瓶を取り出した。そしてそれを、右手にタラタラと垂らす。なんでそんなものを持っているのか、僕は問い詰めたくなった。しかし聞いている余裕が無い。

「あ、うあ」

 ぬめる右手の人差し指が、僕の中に入ってくる。ゆっくりと第一関節まで差し入れられたエルトの指が、無性に大きく思える。異物感は強いが、痛みは無い。浅く指を抜き差しし、くるりと回すようにエルトが動かす。

「ん、ン」
「辛いか?」
「辛くはないけど、変な感じ」
「ではもう少し進めるぞ」

 エルトが喉で笑ってから、指を動かした。

「っ、あ」

 一気に第二関節まで進んできた。僕は震えながら、ソファの布を掴もうとして失敗した。第二関節まで入ると、エルトが指先を折り曲げる。

「っ、ッ、ん」

 その後、人差し指の抽挿が始まった。僕はふわふわした気分で、それを味わっていた。指一本で絶大な存在感があるのだが……これ、本当にエルトのものが入るんだろうか……? そんな疑問を抱いていると、指が二本に増えた。香油がぬちゅりと音を立てる。

「ああ!」

 その時、揃えた指先で、僕は内部のある箇所を刺激された。するとゾクリと背筋を未知の感覚が這い上がった。

「ここか」
「あ、あ、あ、ああ」

 エルトがニヤリと笑うと、そこばかりを攻め始める。二本の指先が、僕の感じる場所ばかりを嬲るのだ。そうされると二度も出したというのに、陰茎に再び熱が集まり始める。

「ひ、ぁ……あ、あ……そ、そこ、やだ」
「では、どこが良いんだ?」
「わからないけど、そこ、あ、あ……う、うあ……ッ、ゾクゾクする」

 僕の反応を楽しむように、エルトが指の動きを激しくした。声が漏れてしまう。涙ぐんだ僕は、思わずエルトを睨もうとして失敗した。エルトの顔が愛おしすぎて、とても睨めない。ついうっとりと見惚れてしまう。

 エルトは香油を更に垂らすと、今度は三本の指を僕の中に挿入した。それがバラバラに動き始める。僕は必死で息をした。

「挿れるぞ。辛かったら言って――……我慢してくれ」
「え、あ……あああ!」

 指を引き抜いたエルトが、片手で僕の腰を掴み、もう一方の手で左の太ももを持ち上げると、僕の菊門に陰茎の先端をあてがった。そして――エルトの肉茎がゆっくりと挿ってくる。

「あ、ああ、あ……うあああ!」

 太くて熱くて固い。指とは全然違う。押し広げられる感覚がして、巨大な先端が入ってくる。一気に亀頭部分を進められて、僕は背を撓らせる。衝撃が強すぎて、何も考えられなくなる。

「大丈夫か?」

 気遣うようなエルトの声がした時――百合の匂いを意識した。それを嗅いだ瞬間、僅かに僕の体が弛緩した。

「う、うん……あ、でも、熱い……熱くて……あぁ、エルト……う」
「悪いな、酷い独占欲なんだ。ゼリルをもらっておかないと、俺の気がおかしくなりそうだ」
「あああ!」

 エルトが陰茎をより深く進めてきた。収縮する僕の中が、エルトの陰茎に押し広げられていく。満杯になっていく。痛みは無い。だが、触れている箇所が熔けてしまいそうな錯覚に駆られる。

「全部挿ったぞ」
「あ、ハ……ゃ、ぁ……あ……ァ」

 びっしりと僕の体は汗ばんでいた。エルトの吐息も荒い。
 その時、エルトの先端が、先ほど指で見つけ出された、僕の感じる場所をグリと抉るように刺激した。

「ひ!」
「ここが好きなんだろう?」
「あああ、や、あ、あ、ダメ、おかしくなる、おかしくなっちゃう、うあああ」

 ポロポロと僕は涙を零した。気持ち良い。純然たる快楽が、僕の体を支配し始める。

「動くぞ」
「ひゃ、あ、うあ、ああ、ダメ、あ、気持ち良いよ……うあああ!」

 激しくエルトが動き始めた。打ち付けられ、感じる場所を貫かれる度、僕はボロボロと泣いた。熱以外、何も考えられなくなる。百合の匂いなんかとは比べものにならないくらい、僕の思考は何も拾わなくなる。

「あ、あ、ンん、ぅ、ひ、ァ! ああ!!」

 深く突き上げられた瞬間、僕は再び射精した。しかしエルトの動きは止まらない。

「あ、あ、あああ! 待って!!」
「悪いな、抑制が効きそうにもないんだ」
「エルト、あ、ア!」
「もっと俺の名前を呼んでくれ」
「エルト、エルト! うああ」

 腰を揺さぶられ、激しく抽挿されて、僕はそのまま理性を飛ばした。
 感じる場所を何度も何度も突き上げられる。香油がぬちゃりぬちゃりと音を立てていて、皮膚と皮膚がぶつかる音も静かな室内に響いている。

「ああああ!」

 一際強く突き上げられた時、内部に飛び散るエルトの飛沫を感じた。僕の体は限界で、ビクンと跳ねる。そのまま僕は意識を手放した。


 ――目を覚ますと、僕は寝台の上にいた。虚ろな瞳で、隣に寝転がっているエルトを見る。すると苦笑された。

「運んでくれたの?」
「ああ。全然足りないからな」
「!」
「もっとゼリルが欲しい」

 この夜。
 僕は何度も何度も、エルトに体を貪られたのだった。